母と子の関係から見えてくるもの―映画『マルガリータで乾杯を!』ショナリ・ボース監督×主演カルキ・コーチリン インタビュー

カルキ・コーチリン(左)、ショナリ・ボース監督(右)

カルキ・コーチリン(左)、ショナリ・ボース監督(右)

ここ数年、インド映画は大きく変化している。以前は、歌あり踊りありアクションあり、華やかな映画というのがインド映画の特徴だったが、最近はミュージカルや派手なアクションに寄らない人間ドラマ──『きっと、うまくいく』『マダム・イン・ニューヨーク』『めぐり逢わせのお弁当』など、ドラマチックなストーリーのインド映画が増えてきている。『マルガリータで乾杯を!』もそのひとつだ。障がいを抱えながらも力強く生きる主人公ライラと彼女を愛し支える母との物語。そして、主演女優のカルキ・コーチリンさんと新鋭の女性監督ショナリ・ボースさんが語る撮影秘話もドラマチックだった。

──生まれつき障がいがあり身体が不自由であっても、ライラは好奇心旺盛で明るく魅力的な女性です。ライラのキャラクターは、どうやって生まれたのでしょうか?

監督:私には1歳年下のマリニという従妹がいます。彼女は脳性まひを持って生まれてきましたが、明るくて、出かけることもパーティーも大好き。映画のなかで起きたことがそのままマリニに起きたことではないですが、人間性は彼女からヒントを得て作っています。

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──ライラを演じるにあたってどんな準備をしたのか、また実在する人をもとにしたキャラクター演じることについてプレッシャーはありましたか?

カルキ:難しくもあり、助かったこともあります。脳性まひといっても人によって障がいは異なるので、マリニさんを真似るということではなかったです。でも、彼女の私生活を知ったり、仕事場を見せてもらったり、一緒にパーティーに出かけたりして過ごしたことは、ライラを演じるうえでとても参考になりました。

監督:決して役づくりのためにマリニを紹介したわけではないんです。ライラのモデルの女性ということで、ライラ役が決まったときにカルキさんにマリニを紹介しました。

カルキ:そうですよね。マリニさんは本当にフレンドリーな方で、いつも「出かけましょう!」って連絡をもらったりして、いつの間にか一緒に過ごすようになっていました。結果的に、彼女と過ごした時間がライラの役作りにとても役に立ったのは確かです。

監督:役作りとしては、動き方などは撮影前に準備をしてもらいました。カルキさんならきっとこれくらいの演技を見せてくれはず! と、ある程度の想像と期待はしていましたが、実際はそれ以上。あまりにも素敵で、現場で初めてカルキさんの演技を目にしたとき、息が止まりそうになりましたから。カルキさんの演じるライラは本当にキラキラと輝いていて、監督の仕事を忘れてしまうほど目が離せなかったです。

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カルキ:そんなふうに言われると照れますね(笑)。私は監督と仕事をして嬉しかったのは、準備期間をしっかり与えてくれたことです。ボリウッドでは撮影前のワークショップは珍しくて。十分な時間を与えてもらったことで、他の役者さんたちの絆を深めることができました。撮影期間中、監督は厳しい母親のようでもあって、夜遅くまで起きていると「明日の朝は早いのよ!」って(笑)。

監督:カルキさんだけではなく、過去にも「厳しいお母さんみたい」と言われることはありましたね(笑)。でも、そういう関係性を作ることによって、役者さんたちが撮影のときに裸の感情をカメラの前で出せるようになるんです。今回の映画は特に肉体的にも裸になる必要がありましたからね。

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──それは、心も体も裸になるベッドシーンのことですね。インド映画で、あんなにもセクシャリティを正面から描いたものは珍しく、そして挑戦だったと思います。あのシーンで伝えたかったことは何だったのでしょうか?

監督:たしかに、物語のなかに入れるのも難しい、演じるのも難しいシーンですが、カルキさんは「大丈夫です」と悩むことなく、快く引き受けてくれました。あのシーンがこの映画に必要だったのは、障がい者のセックスを避けてしまうこと=私自身がズルをしているように感じたからです。表現者として避けてはいけないと思いました。1人は盲目で、もう1人は脳性まひで、さらに女性同士のセックスでもある──あのシーンはとても複雑です。映画史においても意味のあるシーンになったと思います。ライラと恋に落ちるハヌム役の女優を選ぶ時、なかには「ベッドシーンはやりたくない」「あのシーンは削ってほしい」と言った女優もいました。

カルキ:監督に「大丈夫です」と言ったものの、頭でわかっていても、障がい者同士、しかも同性なので、撮影前の準備がなかなかできない難しさはありました。また、裸になるのはぜんぜん平気! と思っていても、実際の撮影となると、少なくても10人以上のスタッフに囲まれるので緊張はありましたね。なかでも印象深いのは、ジャレッドとのセックスシーンのエピソード。スタッフから(私の)乳首が白すぎるんじゃないかという指摘があって、メイクで色をつけて撮影したんです。監督だけじゃなく撮影監督も女性、女性の多い現場だったのはせめてもの救いでした(笑)。

──監督のチームはいつも女性が多いんですか?

監督:男性だから女性だからで選んでいるわけではないですが、繊細なシーンの多い作品では女性が多いに越したことはないですね。でも、基本的には才能で選んでいます。

──この映画は、ライラの進学、恋愛、巣立ち……成長を描きながら、その背景にはつねに母親の存在、愛情が描かれていますね。

監督:映画に描かれている母と娘の関係は私自身の母との関係、息子との関係に基づいています。母は私が21歳のときに亡くなりました。息子が2人いますが、長男を不慮の事故で亡くしています。母からもらった愛情、自分が母になり感じた息子への愛情、そういった母と子の関係もこの映画のなかに込めています。

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カルキ:母と子、特に母と娘は愛情のなかに憎しみもあって複雑な関係ですよね。子供が幼い頃は、母親はつねに子供を守ろうとしますが、子供としては自由になりたいと思うもの。でも、歳を重ねていくと母親への感謝の気持ちを知るわけです。私自身もそうでした。また、この映画でライラを演じている撮影期間中に母ががんを患って入院。母を永遠に失うかもしれないと思ったとき、気が狂いそうになって……。そういう経験があったからこそ、母への感謝はもちろん、ライラにより感情移入することができたと思います。

監督:そのカルキさんのお母さんが、完成した映画を観て「この映画のなかのカルキが大好き!」だと言ってくださった。そのひと言がとても嬉しかったです。

きっと観客も同じように、自分の母親のことを思い出し、感謝の気持ちを抱くだろう。そして、ショナリ・ボース監督がこの映画のタイトルを『マルガリータで乾杯を!(Margarita, With a Straw)』にした“マルガリータ”の意味は、映画のあるエピソードにつながっている──。

(取材・文:新谷里映)


映画『マルガリータで乾杯を!』
10月24日(土)より、シネスイッチ銀座他全国順次ロードショー!

<Story>
さまざまな壁にぶち当たっても素直な心で立ち向かい、キラキラと瞳を輝かせながら果敢にチャレンジを重ねていく、笑顔が魅力的な主人公・ライラ。生まれつきの障がいがあって身体は不自由だが、それをものともしない前向きな明るさと旺盛なチャレンジ精神、好奇心の持ち主。両親と弟、親友たちのサポートを受けながら大学に通い、青春を謳歌している。家族の中でも、常にライラを慈愛の眼差しで見守っているのが母。米国の大学に編入できるよう計らってくれた母と一緒に、希望を胸にNYへ乗り込んだライラだったが……。

監督・脚本:ショナリ・ボース
出演:カルキ・コーチリン、レーヴァティほか
2014年/インド/英語、ヒンディー語/カラー/ヴィスタ/5.1ch/100分/
英題:「Margarita, With A Straw」翻訳:石田泰子
監修・協力:松岡環
配給:彩プロ

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