【レビュー】『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(15)―新章にふさわしい船出

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フェミニズムとダイバーシティの解放、伝統的なヒーロー像と旅立ちの否定。

1977年の登場以来、およそ40年にわたって世界中を熱狂させ続けてきた「スター・ウォーズ」シリーズの最新作で、J.J.エイブラムス監督がメガホンを取った『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』の公開から1週間が経った。各方面で絶賛を受けている本作について、今回は具体的な内容にも触れつつ、いかに過去作と異なる魅力的なストーリーを描き出しているかについて、2人の主人公を中心に言及したい。

本作の物語は、前作『スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還』(83)からおよそ30年後の世界で幕を開ける。主人公のレイ(デイジー・リドリー)は、辺境の惑星ジャクーで収集した廃品を売って日銭を稼ぎ、家族の帰りを待ち続けていた。ある日レイは、砂漠でBB-8という名のドロイドに出会う。BB-8は、ダークサイドの新勢力ファースト・オーダーとの戦いを繰り広げるレジスタンスのパイロット:ポー・ダメロン(オスカー・アイザック)に、伝説のジェダイ:ルーク・スカイウォーカー(マーク・ハミル)の居所を示す地図を託されていた。ファースト・オーダーから逃げ出した脱走兵で、もう一人の主人公であるフィン(ジョン・ボイエガ)との出会いを経たレイは、生まれて初めてジャクーを旅立ち、ファースト・オーダーとレジスタンスの戦いに巻き込まれていく…。

主人公のレイ(デイジー・リドリー)/(C) 2015Lucasfilm Ltd. & TM. All Rights Reserved

主人公のレイ(デイジー・リドリー)/(C) 2015Lucasfilm Ltd. & TM. All Rights Reserved

まず特筆すべきなのは、女性主人公であるレイの存在だ。旧シリーズは、アナキンやルークという男性主人公、そしてハン・ソロ(ハリソン・フォード)などの男性キャラクターを中心にストーリーが展開される、男性中心・男性優越主義的な色合いが強かった。アミダラ女王(ナタリー・ポートマン)やレイア姫(キャリー・フィッシャー)といった主人公的な女性キャラクターも活躍してはいたが、彼女たちはあくまでも「守られる」存在であり、男性キャラクターの一歩後ろにいる印象が強かった。

しかし、本作におけるレイは違う。レイは「守られる」存在ではなく、常にストーリーの最前線に立ち、ストーリーにおける役割上の性差を超えることで、シリーズにおける男性優越主義を否定する。いわばレイは、フェミニズムを感じさせる女性主人公なのだ。そもそもレイは、アミダラ女王やレイア姫のような王族ではなく、廃品を売って細々と暮らしながら、家族の帰りを待ち続けている。このバックボーンはアナキンやルークに重なるものであり、アミダラ女王やレイア姫のそれとは明確に異なる。

また、彼女は男顔負けの腕っぷしで、機械工学にも長けている。つまり、レイはアナキンやルークが持っている要素を漏れなく身に付けているのだ。さらにレイは、終盤にかけてシリーズにおける男性優越主義の象徴的な「聖域」に踏み込むこと(女性に与えられていなかった力の獲得)によって、シリーズにおける性差を打ち破り、新たな主人公として完成される。

ただ、彼女はアナキンやルークのように、(導く者の手助けはあれど)自発的に冒険に旅立つタイプの主人公ではない。彼女の旅路は、後述するもう一人の主人公:フィンの逃避行に巻き込まれる形で始まるからだ。しかし、レイはフィンと「導き手」(これが誰なのかは劇場で確かめて欲しい)との出会い、宿敵となる悪役カイロ・レンとの邂逅によって、心境の変化と成長を経験し、旅立ちに向かって前進していく。つまり彼女は、(性別は違えど)本質的にはアナキンやルークと同じキャラ設定を為されていながら、彼らが見せてきた伝統的なヒーロー像と旅立ちを否定し、葛藤や迷いを見せながら、今までにない斬新なドラマを見せてくれる主人公なのだ。

もう一人の主人公フィン(ジョン・ボイエガ)/(C) 2015Lucasfilm Ltd. & TM. All Rights Reserved

もう一人の主人公フィン(ジョン・ボイエガ)/(C) 2015Lucasfilm Ltd. & TM. All Rights Reserved

レイと同様に、もう一人の主人公であるフィンも伝統的なヒーロー像を否定する。フィンは幼い頃に誘拐されて以来、ファースト・オーダーに身を置き、殺しだけを仕込まれて生きてきたのだが、決して殺しをしないと心に決めていた。そして彼は、初めて派遣されたミッションがきっかけで、ポーと共に逃亡し、敵対するレジスタンスに参加することになる。

アナキンの「支配からの解放」やルークの「自発的な旅立ち」とは異なり、「逃亡」をきっかけに悪側(ファースト・オーダー)から正義側(レジスタンス)へ転身するというフィンの姿は、シリーズの主人公らしくないアンチヒーローな印象を与える。しかし、アナキンやルークにはなかった精神的な弱さが露呈されたキャラクターがあるからこそ、フィンは人間臭く共感しやすい「等身大の主人公」としての魅力を感じさせる。

また、フィンはシリーズにおけるダイバーシティの解放にも一役買っているのが興味深い。というのも、シリーズには男性優越主義と同様に、白人優越主義が存在してきたからだ。メインキャラクターはもちろん、登場人物の多くは白人で、プリクエル・シリーズに登場したメイス・ウィンドゥ(サミュエル・L・ジャクソン)と、その存在自体が黒人差別の象徴だと非難を浴びた悲劇のキャラクター:ジャー・ジャー・ビンクス(アーメド・ベスト)以外に、黒人由来のメインキャラクターは皆無に等しい。そしてメイスやジャージャーであっても、心境の変化などを通じてパーソナリティが掘り下げられることはなかった。だからこそ、本作の主人公として登場し、鑑賞者が共感できる葛藤や成長を見せるフィンの姿に象徴されるダイバーシティの解放は、旧シリーズとの差別化が望まれる新章において、非常に大きな意味を持っている。

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新たな悪役カイロ・レン(アダム・ドライバー)/(C) 2015Lucasfilm Ltd. & TM. All Rights Reserved

2人の魅力あふれる新たな主人公に加え、「悪に染まり切れない悪」としてのカイロ・レンが孕む悲劇性、ハン・ソロとレイア姫の関係、消えたルークの行方など、複数のドラマが相互に作用し合うことで、ストーリーに厚みと幅が生まれ、鑑賞者を飽きさせることがない構成はブラボーの一言に尽きる。

とはいえ、注文を付けたいポイントもある。例えば、原因や過程をすっ飛ばして結果を描いてしまっているために説明不足な印象を抱かせるシーンや、シリーズを見慣れている鑑賞者にとっては予測できてしまう「パターン」が予定調和な印象を与える展開もあるのだ。この背景には、ジョージ・ルーカスが築いてきたシリーズの伝統に対して、ある程度の気を使った、エイブラムス監督の遠慮のようなものが見える。とはいえ、新章は3部作であり、本作は導入としては申し分のない出来だ。

本作で明かされなかった過去が掘り下げられ、そしてさらに強くオリジナリティが出ることを期待して、ひとまずはライアン・ジョンソン監督による次回作の完成を待ちたい。

(文・岸豊)


映画『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』

12月18日(金)18時30分 全国一斉公開

監督:J.J.エイブラムス
脚本:ローレンス・カスダン
配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン

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