【レビュー】『ストレイト・アウタ・コンプトン』(15)―歌うダビデvs権力という名のゴリアテ

(C)2015 UNIVERSAL STUDIOS

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ショービズ界の光と闇に生きた男たちの物語

2PAC、スヌープ・ドッグ、エミネム…。音楽好きなら誰もが知っているラッパーたちは、あるグループに多大な影響を受けてきた。そのグループとは、アメリカで最も危険な地帯であるカリフォルニア州のコンプトンで、ドクター・ドレーやアイス・キューブ、イージー・Eらが結成した「N.W.A.」(主張する黒人)だ。『交渉人』(98)『ミニミニ大作戦』(03)などで知られるF・ゲイリー・グレイ監督の最新作『ストレイト・アウタ・コンプトン』は、「N.W.A.」の結成から崩壊、そして彼らが繰り広げた黒人差別と言論統制に対する激しい戦いの日々を描く作品である。

物語は1986年のコンプトンで幕を開ける。ドクター・ドレー(コーリー・ホーキンス)は友人のアイス・キューブ(オシェア・ジャクソン・Jr.)、麻薬の売人イージー・E(ジェイソン・ミッチェル)らと共に「N.W.A.」を結成し、シングルをリリースする。そのシングルは話題を呼び、ジェリー(ポール・ジアマッティ)というマネージャーも得た「N.W.A.」はレコード会社と契約。1stアルバムの「ストレイト・アウタ・コンプトン」は大ヒットを飛ばし、ツアーも大成功となった。しかし、契約に対して不信感を抱いていたあるメンバーの脱退によって、「N.W.A.」は徐々に低迷していき…。

 

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本作は、コンプトンの悲惨な日常を淡々と描きながら幕を開ける。絶え間なく響き続ける銃声、頭のネジが飛んだギャングの脅し…これらの脅威は驚くべきことに、全て黒人から黒人に向けられたものである。この背景には、黒人と黒人を潰し合わせて白人の優位性を維持しようという白人側の思惑(これについては、本作でも言及されている映画『ボーイズ'ン・ザ・フッド』で詳しく解説されている)があったのだが、黒人たちはまんまとその狙いに乗せられていたのだ。そして救いようがないことに、こうした問題に介入すべきロサンゼルス警察は、無関心などころか、寧ろ黒人差別に対して積極的に加担していた。なぜこれほど屈折した社会が成立していたのか?

ロドニー・キング事件(91)や、これが誘発したLA暴動(92)などを映した当時の映像が劇中で挿入されているように、80年代から90年代のアメリカでは、黒人差別がそれまで以上に激化していた。しかし、当時の大統領(南東部出身のカーター、共和党員のレーガン、戦争の介入に忙しかったジョージ・H・W・ブッシュ)は黒人差別の本質的な改善に積極的に取り組むことはなく、こうした政府の姿勢を受けた行政機関も、是正に向けて動くことがなかった。故に黒人たちは、やり場のない怒りを「負け犬」としての自分たち自身に向けていたというわけだ。

この悲惨な時代に「NO」を叩きつけたのが、「N.W.A.」だった。「黒人だから」という理由によって生まれながらに言論を統制されていたアイス・キューブが書くリリックは、確かに過激で攻撃的だ。しかし、飾り気のない表現はリアリティに満ちており、本質的な部分には「時代や地元への嫌悪」という誰もが共感できる思いが込められている。アイス・キューブのリリックに加え、エレクトロとヒップホップが融合する中にサンプリングも見え隠れするドクター・ドレーのメロディは最高にクールだ。この2つの要素によって構成され、イージー・Eが熱く歌い上げる「N.W.A.」の楽曲は、単なるギャングスタ・ラップという次元に留まらない。

若者の鬱屈した感情を掬い取ったリアリティ、今日にも通用する斬新な音楽性、そして表現・言論の自由を象徴するジャーナリズムの精神が宿った彼らの歌は、政府や警察といった「巨大な権力による抑圧」に対抗するための武器なのだ。その武器を携えて闘う「N.W.A.」の姿は、現代におけるゴリアテに挑むダビデのようで、見る者の心を震わせる。

 

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鮮烈なデビューから瞬く間にスターへと成り上がり、「ショービズ界の光」を謳歌した「N.W.A.」の姿には憧れたくなる。しかし、彼らは「ショービズ界の闇」の中も歩くことになった。アメリカに限った話ではないが、ショービズ界では諸行無常が常であり、映画界でも、音楽界でも、一時代を築いた人物が「過去の人」に堕ちるケースや、ショービズ界の闇に取り込まれてしまうケースは数え切れないほど多い。

「N.W.A.」もその例外ではなく、寧ろその象徴だった。物語の後半では、「N.W.A.」の内部分裂やメンバーの脱退といった暗い側面が描かれるのだが、本作は伝記映画として、こうした闇の部分を必要以上にドラマタイズすることなく、ありのままを描いているのが素晴らしい。

本作のエンドロールでは、数々のラッパーがドクター・ドレーに「音楽産業での生き方」を教えてもらったと証言しているが、ラッパーやプロデューサーによる犯罪・訴訟などの諸問題は今日でも散見されている(無論、ラッパーに限った話ではないが)。これと同様に、黒人差別は未だに根深く、2014年には南部を中心に白人警官による黒人市民の銃殺が頻発するなど、80年代から90年代にかけて起こった悲劇が、時代と場所を移してリプレイされてしまっているようにも思える。

「N.W.A.」の経験や彼らが被った黒人差別が今日にも通じてしまうことは悲しむべき、そして是正されるべきことだが、それ故に、本作には時代を超えた普遍性を見出すことができるのも確かだ。本作が、アメリカのショービズ界、そしてアメリカ社会における闇を照らす、一筋の光となることを祈る。

(文・岸豊)


映画『ストレイト・アウタ・コンプトン』

12月19日(土)渋谷シネクイント、新宿バルト9ほか全国公開

監督:F・ゲイリー・グレイ 脚本:ジョナサン・ハーマン、アンドレア・ベルロフ (C)2015 UNIVERSAL STUDIOS
出演:オシェイ・ジャクソン・Jr、コーリー・ホーキンス、ジェイソン・ミッチェル、ポール・ジアマッティほか
2015/アメリカ/147分/シネスコ/デジタル/原題:Straight Outta Compton 配給:シンカ、パルコ ユニバーサル映画

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エミネム

生年月日1972年10月17日(46歳)
星座てんびん座
出生地米・・ミシガン・デトロイト

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スヌープ・ドッグ

生年月日1971年10月20日(47歳)
星座てんびん座
出生地アメリカ・カリフォルニア州ロングビーチ

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