【レビュー】『クリムゾン・ピーク』―美の演出に腐心したデル・トロ監督。

(C) Universal Pictures.

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重要なのは、外面ではなく内面では?

『パンズ・ラビリンス』(06)『パシフィック・リム』(13)などで知られ、日本でも極めて人気が高いギレルモ・デル・トロ監督。アート志向の作品からエンタメ超大作まで振り幅の大きいデル・トロ監督が、現在公開中の最新作『クリムゾン・ピーク』の題材に選んだのは、幽霊と人間が織りなす血みどろの愛憎劇だ。

舞台は19世紀のアメリカ。主人公のイーディス(ミア・ワシコウスカ)は、幼いころから幽霊の存在を感じ取ることができた。初めて見た幽霊は、彼女が幼い時に死別した母。夜な夜なイーディスの元に現れる母の霊は、決まってこう言うのだった。「クリムゾン・ピークに気を付けろ」と。その後、イーディスは幽霊モノの小説を書く作家志望の女性へと成長。しかし、出版社は彼女の小説を評価せず、父のカーター(ジム・ビーバー)や幼馴染のアラン(チャーリー・ハナム)からは社交界に出るべきだと言われ、イーディスは鬱憤を溜めるばかりだった。そんなある日、イーディスの前に、発明家のトーマス(トム・ヒドルストン)が現れる。誰も評価しなかった小説を褒めてくれたトーマスに好意を抱くイーディスだったが、カーターはトーマスとその姉ルシール(ジェシカ・チャステイン)に不信感を抱いており…。

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本作で特筆すべきは、色鮮やかな映像表現。黒を基調とした背景と、絢爛豪華な家具・調度品・衣装が形成するコントラストは言うまでもないが、デル・トロ監督が本作で多用する白の色使いが特段に美しい。今までの作品では赤・黒・金といった色を多用してきたデル・トロ監督だが、本作では白を足すことで画面構成における美の演出に幅を持たせている。また、白・赤・青の3色が登場人物それぞれに宿っている「無垢」「復讐心」「憂鬱と葛藤」といった心理を象徴し、ストーリーを読み解くヒントとして機能しているのも興味深い。ただ、デル・トロ監督がこうした映像における美しさ、つまり「外面」を演出することに腐心してしまっているのが惜しまれる。というのも、外面がいかに素晴らしくとも、「内面」(プロットやキャラクター)に魅力がなくては、良質な映画として完成されることはあり得ないからだ。まして本作は愛憎劇として展開されるため、人物描写が最重要であることは言うまでもない。

具体的には、主人公であるイーディスのキャラクター設計に大きな問題がある。導入部分でこそ、イーディスは独立心が強い女性として描かれているのだが、彼女は「自分の小説を褒めてくれた」というだけでトーマスに心を奪われてしまう。この幼稚な少女漫画のヒロインのように短絡的な思考回路によって、イーディスは独立心をいとも簡単に放棄し、魅力的な主人公として成立する道を自ら断ち、さらには自身に「意志の弱いお嬢様ヒロイン」というレッテルを張ってしまう。こうして、鑑賞者はイーディスを冷めた視点で見ざるを得なくなってしまい、共感することや、応援することが困難になる。思い返せば、デル・トロ監督の『デビルズ・バックボーン』(01)や『パンズ・ラビリンス』が傑作となった要因には、大人から子供まで誰もが共感でき、応援できる主人公が作り上げられていたことが挙げられる。しかし、本作にはその作劇性を見出すことはできず、理不尽な愛憎劇に巻き込まれるイーディスの姿を見ても、彼女の浅はかさが招いた自業自得としか思えない。

(C) Universal Pictures.

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愛憎劇に限らず、主人公に魅力がない場合は、その主人公と対立する悪役に魅力が与えられていれば、悪役が主体の作品として楽しむことはできる。これを実現するには、悪役に「善悪の両義性」を孕ませることが有効だ。というのは、ある人物がストーリー上の悪であっても、その人物が悪になった背景に、鑑賞者に対して何らかの感情移入を促す要素が描かれていれば、物語には単純な善悪の二元論では判断できない「両義性」が生まれ、ストーリーにも深みが生まれるからだ。この点について、本作における悪役には一定の悲劇性が付与されてはいるのだが、イーディスと同様に思慮に欠く行動が散見され、なおかつその人物の過去を掘り下げることよりも、その人物に宿る美しさを強調することに主眼が置かれているため、悪役としての魅力が死んでしまっている。その結果、鑑賞者は単純で深みのない善悪の対立構図しか読み取ることができないまま、魅力のないヒロインと凡庸な悪役の対決に付き合わされることになるのだ。

デル・トロ監督は、イーディスを魅力ある主人公として作り上げることを疎かにしたばかりでなく、そのマイナス点を補完できうる悪役のキャラクター設計すらも怠い、「目に見える美しさ」を演出することに腐心してしまった。それ故に本作が、「美しいが、それだけ」の映画になってしまったのは必然だったと言えるだろう。

(文・岸豊)


映画『クリムゾン・ピーク』

2016年1月8公開

監督:ギレルモ・デル・トロ
脚本:ギレルモ・デル・トロ/マシュー・ロビンス
出演:ミア・ワシコウスカ 『アリス・イン・ワンダーランド』、トム・ヒドルストン『アベンジャーズ』、ジェシカ・チャステイン『インターステラ―』、チャーリー・ハナム『パシフィック・リム』
2015年/アメリカ/上映時間:119分/レーティング:R15+

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