【レビュー】『エージェント・ウルトラ』―最強のコンビニ店員が見せる無双アクションに大興奮!

Alan Markfield/© 2015 American Ultra, LLC. All Rights Reserved.

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アイゼンバーグ×スチュワートに外れ無し

普段、我々が何気なく利用しているコンビニ。店員も、訪れる客も、十人十色のバラエティに満ちているが、マリファナ中毒の店員と殺し屋の客という組み合わせを見たことがあるだろうか?

『プロジェクトX』(12)で知られるニマ・ウリザテ監督の最新作で、ジェシー・アイゼンバーグとクリステン・スチュワートが久々の共演を果たした映画『エージェント・ウルトラ』は、コンビニで働く記憶を無くした元CIAエージェントが、愛する恋人を守るために、CIAとド派手な戦いを繰り広げる姿を描いたアクション・コメディだ。

舞台はウェストヴァージニア州の田舎町リマン。マリファナ中毒のコンビニ店員マイク(ジェシー・アイゼンバーグ)は、暇を見つけては猿のスーパーヒーロー「アポロ」が活躍するコミックを描きながら、恋人のフィービー(クリステン・スチュワート)にプロポーズするチャンスを探っていた。しかし、マイクはリマンを出ようとすると、毎回なぜかパニック発作に襲われてしまうのだった。サプライズを兼ねた旅行も敢え無く失敗してしまい落ち込むマイクだったが、フィービーは優しく慰めてくれる。

そんなある日、マイクが働くコンビニに、謎の中年女性が現れて、マイクに意味不明の言葉を聞かせる。その後、銃を持った屈強な2人の男がコンビニに現れて、マイクを襲撃。しかし、マイクは無意識のうちに2人を返り討ちにしてしまう。実は、マイクはCIAの極秘プロジェクト「ウルトラ計画」によって育てられた最強の諜報員だったのだ。しかし、計画の破綻によってマイクは記憶を消され、リマンでの暮らしを与えられていた。そして、CIAの決定によって「始末」されそうになっていたところを、マイクの育ての親であるラセター(コニー・ブリットン)によって救われたというわけ。何が起こっているのか分からないマイク本人はフィービーと共に逃げ出すが、CIAは次々と刺客を送り込んできて…。

 

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とまあブっ飛んだストーリーの本作だが、脚本を担当したのは、青春ドラマの傑作『クロニクル』(12)の脚本で激賞を受けたマックス・ランディス。『クロニクル』では超能力を手にした高校生の悲劇的なドラマを描いたランディスだが、本作ではコメディ・アクション・ラブを見事に調和させた軽快なアクション・コメディを完成させている。序盤は緩やかなペースで随所にギャグを散らしつつ、マイクとフィービーの等身大な恋愛関係を描き、鑑賞者の心を掴んでいく。しかし、中盤で予想の斜め上を行くツイスト(マイクの覚醒)を挿入して、物語を一気に予測不可能な展開へ。その後は次第に激しさを増すアクションで緊張を生みつつも、その隙間に緩和としてのギャグも忘れず、ラブの密度も高めながら、鮮やかなエンディングを導くストーリーテリングは、流石の一言に尽きる。

実は本作、タイトルから明らか(原題は“American Ultra”)だが、かつてCIAが実際に行っていたマインド・コントロール・プログラム「MKウルトラ」に着想を得て描かれている。本作はコメディ色が強いため、実際に「MKウルトラ」へ参加した被験者が受けたであろう苦しみは描き切れていない(後半に登場する一人のキャラクターがこの役割を担っている)が、一見するとばかばかしく楽しいと思える物語を通じて、「もしかしたら、マイクのような人は存在するのかも…」と想像を掻き立てるのも巧い。

 

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ランディスの脚本に加えて、俳優陣のパフォーマンスにも脱帽。主演のアイゼンバーグは、その卓越した表現力によって、ユラユラした歩き方や、ふとした瞬間の貧乏ゆすり、落ち着かない視線など、マリファナ中毒者の特徴をリアルに出せているのが素晴らしい。しかし、彼が真に評価されるべきなのは、今までにない斬新なアクションを完成させたことだ。

アイゼンバーグが演じるマイクは気弱な青年だが、コンビニでの覚醒によって、圧倒的な強さで相手を制圧する、最強の諜報員へと変貌する。しかも、マイクが敵を制圧する際に使うのは、カップ麺やスプーン、あるいは冷凍肉のパテといった、その時、その場に転がっている身近なもの。彼が実際にどんな戦法を取るのかは、彼が置かれている環境によって全く異なり、たとえアクション映画好きであろうとも、全く予測ができない。また、「諜報員モード」のマイクが敵を無力化してから、新たな敵が来るまでの一瞬の間に、「気弱モード」の表情が刹那的に現れることによって、ちょっとした笑いが生まれているのも面白い。

特筆すべきは終盤、マイクがスーパーの中で繰り広げる一連のアクションだ。このシークエンスでは、次々と襲い掛かる多数の敵に対して単独で闘うマイクの姿が、数十秒にも渡る長回しで映し出される。遮蔽物を巧く使って身を守りつつ、棚に並ぶ日用品を武器として選択、襲い掛かる相手の動きを先読みして、最適な態勢で迎撃に移行するマイクのアクションは、連続性に満ちている一方で無駄がなく、カット割りで誤魔化す凡庸なアクション映画のそれとはレベルが違う。これまでは『ソーシャル・ネットワーク』(11)などの人物描写に重きを置いたドラマ作品に多数出演してきたアイゼンバーグだが、本作で初挑戦となった本格アクションを完壁にこなしたことによって、今後のキャリアには大きな振り幅が生まれたことだろう。

 

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青春映画の隠れた傑作『アドベンチャーランドへようこそ』(09)以来、アイゼンバーグとは久々の共演となったスチュワートも、ヒロインのフィービーを好演。フィービーは優しく穏やかで、ことあるごとに落ち込むマイクとは正反対の、理想的なヒロインだ。それ故に、くよくよと悩むマイクを慰める彼女の深い愛情は随所で際立っており、好感を抱かせる。ところが、フィービーが抱える「過去」がストーリー上の仕掛けとして機能することによって、フィービーはマイクと共にド派手な戦いを繰り広げる、クールなヒロインへ変貌する。主人公のマイクだけでなく、フィービーにも秘密が隠されていることによって、物語に中だるみを生ませていないところに、やはりランディスの作劇性が光る。

ラセターと対立するCIAの嫌味な男イェーツを演じたトファー・グレイスを中心に、悪役たちの噛ませ犬っぷりも大いに笑える。そして、クライマックスにかけて連発される、ド派手でありながら可愛げのある演出、その果てに訪れる爽やかなエンディングも秀逸だ。

しかしながら、物語の主題と思しき「ウルトラ計画」に対する説明を放棄しているため、結末に納得しない鑑賞者も多く現れるかもしれない。しかし、ランディスはあくまでも意図的に「ウルトラ計画」についての説明を放棄して、それから本当の主題を挿入することを選択したと考えるのが妥当だろう。その証拠に、「ウルトラ計画」についての言及は、中盤以降で不自然なまでに削減されており、終盤にかけては、マイクとフィービーの愛がいかに深いか、そしてその愛を守ろうと奮闘するマイクの姿がいかにクールであるか、つまり「好きな女の子を守る男は、どんなものよりもクールである」という本作の真の主題が明確化されていく。

言ってしまえば、本作における「ウルトラ計画」はマクガフィン(導入では重要に見えるが、実は重要ではない小道具)のようなものであり、真に重要なのは、フィービーを守ろうとするマイクの愛を描くことなのだ。この大胆過ぎる転調は好みが分かれるところだが、作劇の思い切りの良さには好感を覚えるし、ストーリーは破綻することなく結末までたどり着くため、筆者個人としては大いに楽しむことができた。この時期、映画業界はアカデミー賞絡みの作品の話題ばかり取り上げがちだが、本作も見逃すには惜しい作品であることは筆者が保証する。

(文・岸豊)


映画『エージェント・ウルトラ』

2016年1月23日(土) 新宿ピカデリーほか全国ロードショー

監督:ニマ・ウリザテ
脚本:マックス・ランディス
出演:ジェシー・アイゼンバーグ、クリステン・スチュワート、ビル・プルマン、トファー・グレイス、ウォルトン・ゴギンズ、コニ―・ブリットン
2015年/アメリカ映画/上映時間96分 /原題:American Ultra
配給:KADOKAWA

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アーティスト情報

ジェシー・アイゼンバーグ

生年月日1983年10月3日(35歳)
星座てんびん座
出生地

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クリステン・スチュワート

生年月日1990年4月9日(28歳)
星座おひつじ座
出生地米・カリフォルニア・ロサンゼルス

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