映画『ディーパンの闘い』―たくましい女性を魅力的に描くジャック・オディアール監督作【連載コラム Vol.1】

映画ライター・新谷里映が心動かされた、本当に観て欲しい映画たちを連載コラムでお届け。第1回目はジャック・オディアール監督最新作『ディーパンの闘い』。


(C)2015 WHY NOT PRODUCTIONS - PAGE114 - FRANCE 2 CINEMA

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「引き寄せられる映画」「力強さを感じる映画」「家族とは何かを考えさせられる映画」──『ディーパンの闘い』はそういう力を持った映画でした。

この映画を観ようと思ったきっかけは、本年度のカンヌ国際映画祭でパルムドール賞〈最高賞〉を受賞しているというのがまずひとつ。まもなく発表となる(2月29日)アカデミー賞に6部門ノミネートされているあの『キャロル』を押さえてパルムドールを手にした作品が、どれほど素晴らしいのか確かめたくて。

もうひとつはジャック・オディアール監督作品であること。世に送り出す作品すべてが傑作のようなものですが、なかでも『リード・マイ・リップス』『君と歩く世界』は、どちらも身体に問題を抱える女性がたくましく生きていく姿を描いたラブストーリーで気に入っています。そのオディアール監督の新作となれば、観ないわけにはいかない!一見、社会派で男くささを感じるものの予告映像を観ると“家族”とか“愛”とか、女性に響くテーマが根底にある、そんな匂いがしたのも「絶対に観たい!」と思った理由です。

ですが、いくらカンヌで賞に輝いたから、有名な監督だからと言っても、俳優が無名だったり作品のテーマが難しかったりすると腰が重くなってしまうこともあって、観たいなぁと思いつつもメジャーなハリウッド映画や結末の分かりきった漫画原作の邦画を選ぶことだってあります。ただ、その手の作品は観ている2時間は確実に楽しめますが、後々どんなストーリーだったか思い出せないこともあったり……。決して娯楽作を否定しているのではなく、『ディーパンの闘い』はそれらが持つ面白さとは違うけれど、最初に書いたように一度観たらそのときに感じたものを一生忘れないほどの力を持っている。だから「観てほしい!」と思うわけです。

どんな話なのか──。主人公は戦争で妻と子供を失った兵士ディーパン。愛する者を失った男が、戦争が嫌になり、故郷を捨て、新しい土地で再出発するお話です。スリランカの内戦に始まりますが、時代背景の知識を知らなくても問題はなし。生きるために、移民審査を通り抜けるために、偽装家族が必要だったディーパンはほんのさっきまで赤の他人だった女と偽装夫婦になり、親のいない少女を娘にして、新しい家族としてフランスへ。彼らは本当の家族になれるのか? が描かれます。

(C)2015 WHY NOT PRODUCTIONS - PAGE114 - FRANCE 2 CINEMA

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物語としてひねりがあるわけでも大きなどんでん返しがあるわけでもない、偽装家族がどうなっていくかを追いかけていく、ただそれだけ。オディアール監督がすごいのはそれでもスクリーンにグッと引き寄せる力のあることです。2時間ずっと引き寄せられっぱなし。ディーパンと彼の妻になったヤリニ、彼の娘になったイラヤル──3人それぞれの心情が丁寧に描かれる。その心情に引き寄せられる。彼らをつないでいる“偽装家族”という形からは、血がつながっていたら家族なの? 一緒に生活しているから家族なの? 離れていても心が通じ合っていれば家族だと言えるよね? と、深く考えさせられます。

また、女性目線での面白さはやっぱりヤリニの心情の変化です。スリランカから抜け出すための“手段”として選んだディーパンに対する気持ちが少しずつ変わっていく。その途中で別の男性に揺らいだりもする。イラヤルとの向き合い方も変わっていく。女性は恋をするとこんなにも心が満たされるのかと、改めて“恋する気持ち”はすごい! と思うわけです。まさか『ディーパンの闘い』にこんなに恋の要素があるとは思ってもみなかった。そして、あのエンディングは絶対に忘れられない……。本当に最後の最後まで“力”のある映画でした。

(文・新谷里映)

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新谷里映

フリーライター、映画ライター、コラムニスト
新谷里映

情報誌、ファッション誌、音楽誌の編集部に所属、様々なジャンルの企画&編集に携わり、2005年3月、映画ライターとして独立。 独立後は、映画や音楽などのエンターテイメントを中心に雑誌やウェブにコラムやインタビューを寄稿中。

【tumblr】新谷里映/Rie Shintani 

映画『ディーパンの闘い』全国公開中

監督・脚本:ジャック・オディアール
脚本:ノエ・ドブレ、トマ・ビデガン
出演:アントニーターサン・ジェスターサン、カレアスワリ・スリニバサン、カラウタヤニ・ヴィナシタンビ、ヴァンサン・ロティエ
提供:KADOKAWA、ロングライド
配給:ロングライド

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