町山智浩、第88回アカデミー賞の外国語映画賞候補『サウルの息子』を語る

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映画評論家の町山智浩

28日(日)、映画評論家の町山智浩が、都内で行われたトークショーで、ネメシュ・ラースロー監督の長編デビュー作『サウルの息子』について語った。

 

映画『サウルの息子』より © 2015 Laokoon Filmgrou 

本作は、アウシュヴィッツ強制収容所で、収容者の運搬と死体処理に従事した部隊、通称「ゾンダーコマンド」の一員であるサウル(ルーリグ・ゲーザ)の姿を描く作品。本作は、第68回カンヌ国際映画祭でグランプリに輝き、日本時間29日(月)に発表される第88回アカデミー賞では、外国語映画賞にノミネートされている。

まず町山が話題にしたのは、本作の独特なカメラワーク。主人公であるサウルの近くにカメラを配置し、周囲の背景をボケさせ、多くのシーンを2~3分の長回しにしていることを特徴として挙げ、この手法を採用した背景には、ジロ・ポンテコルヴォ監督の『ゼロ地帯』があるとした。同作は、スーザン・ストラスバーグ演じる14歳のユダヤ人少女が、アウシュヴィッツに移送されたのちに身分を偽って、ユダヤ人の管理人「カポ」になる姿を描いた作品だ。

 

映画『サウルの息子』より © 2015 Laokoon Filmgrou 

町山は、『ゼロ地帯』が計算されたメロドラマ作品のように作られたことで、フランスの映画雑誌カイエ・デュ・シネマの編集長だったジャック・リヴェット(『美しき諍い女』など)が「死者に対する冒涜」と糾弾したことも紹介。そして、その後ポンテコルヴォ監督がアルジェリアの独立戦争を描いた『アルジェの戦い』を、『ゼロ地帯』とは真逆の、戦争のリアリティを感じさせる手法で撮影し、リヴェットに対してある種の答えを与えたことを解説し、ラーシュロー監督はこの一連の流れに影響を受けたことによって、本作の撮影スタイル(反メロドラマ的なリアリティに満ちた手法)を確立したのではないかと推察した。

一人の女性から、「ゾンダーコマンド」が物語の中盤で見せる、紙についてのやり取りの意味について質問が飛ぶと、「ナチスはユダヤ人の虐殺を終えたら、全てを無かったことにしようとしていたので、記録されるとまずい。だから『ゾンダーコマンド』の手には紙やペンが絶対に渡らないようにしていた」と回答。そして、それでも何とかして紙とペンを手に入れて、記録を紙に残し、瓶に入れて土中に埋めた「ゾンダーコマンド」がいたこと、それらをまとめた本にラーシュロー監督が影響を受けていることも語った。

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根拠のある情報を基に解説を展開する町山智浩

また、「ゾンダーコマンド」によって土中に埋められた手紙が、アウシュヴィッツに関係した者を裁いた「フランクフルト・アウシュヴィッツ裁判」の証拠として提出されたことにも触れ、その裁判に至るまでの日々を描いた映画『顔のないヒトラーたち』も、『サウルの息子』同様に必見の作品であると力説した。

町山の熱っぽい解説には、会場に詰めかけた映画ファンも引き込まれていた。最後に町山は、「(『サウルの息子』が)アカデミー賞で外国語映画賞を確実に取るでしょう」と断言。会場からの拍手を背に笑顔で降壇し、トークショーは幕を閉じた。

(取材・文:岸豊)


映画『サウルの息子』

大ヒット上映中

監督:ネメシュ・ラースロー

脚本:ネメシュ・ラースロー、クララ・ロワイエ

主演:ルーリグ・ゲーザ

2015年/ハンガリー/カラー/107分/スタンダード

配給:ファインフィルムズ

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アーティスト情報

町山智浩

生年月日1962年7月5日(56歳)
星座かに座
出生地東京都

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