【レビュー】『ザ・ブリザード』―男たちの生々しい「息遣い」に胸を打たれる一本

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映画『ザ・ブリザード』より (C) Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

ディズニーらしからぬ硬派な作品

もしタンカーの船員だとして、大嵐に遭遇し、乗っているタンカーが真っ二つに割れ、浸水が起こり、救難ボートが一瞬で粉砕されるような大波がうねっていたとしたら、どうするだろうか?恐らく、多くの人は絶望して、死を受け入れてしまうのではないか。

今から64年前の1952年2月18日未明、巨大タンカー“ペンドルトン号”の船乗りが、この絶望的な状況に陥った。その多くは犠牲となり、生き残ったのは32人だけ…。しかし、船員たちは生きることを諦めなかった。そして、彼らを救おうと決死の救出に挑んだアメリカ沿岸警備隊も、救出を決して諦めずに、驚異的な自然に知恵と勇気で戦いを挑んだ。『ミリオンダラー・アーム』で知られるクレイグ・ギレスピー監督の最新作で、2月27日(土)に公開を迎えた映画『ザ・ブリザード』は、この偉大な男たちの姿を描いた感動のドラマだ。

物語の舞台は、1952年のマサチューセッツ州。巨大タンカー“ペンドルトン号”は大嵐によって船体を断絶され、浸水が発生する。次々と犠牲者が出る中、乗船していたクルーは絶望の淵に立たされるが、一等機関士のシーバート(ケイシー・アフレック)の指揮によって、何とか浅瀬に座礁することに成功し、救助を待つことに。一方、ペンドルトン号の危機を知った沿岸警備隊員のバーニー(クリス・パイン)は、リチャード(ベン・フォスター)らと共に救出に乗り出すのだが、荒れ狂う海を前に、捜索は困難を極め…。

あらすじを聞く限り、インディペンデント系の製作会社が作りそうな硬派な作品に思えるが、本作を製作したのは、なんとあのディズニー。これまでディズニーは、ディズニー・アニメーションやマーベル・シネマティック・ユニバースで、非現実的なファンタジーや、超人的な力を持ったスーパーヒーローたちの姿を描いてきた。しかし本作で描かれるのは、自然の驚異という現実に圧倒されながらも、必死に戦いを挑み続ける生身の男たちの勇姿だ。

本作の俳優陣は、11月の厳しい寒さに包まれるニュー・イングランドで、大量の水の中に浸りながら、沈みゆく船から船員を救出しようと試みる救助シーンの撮影を行った。こうして体を壊しかねない環境下で撮影を行うことによって、画面には俳優陣の必死さが表出し、演技にはリアリティと説得力が与えられている。

本作には、ピンチをあっさりと救ってくれるアイアンマンやハルクの姿はない。画面の中に映し出されるのは、あくまでも常人の、命を失うことに恐怖し続ける男たちの姿だ。そして、救出劇には派手な演出も、卓越したCG表現もない。しかし、実際に起こった出来事を、不要な脚色や派手な演出を排して描いているからこそ、生きて帰ろうと奮闘する男たちの「息遣い」は生々しくハイライトされ、「生きることを諦めてはいけない」というシンプルながら重みのあるメッセージが、鑑賞者の心に強く刻み込まれる。

 

映画『ザ・ブリザード』より (C) Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

導入部分とそれ以降で大きなギャップが与えられていることが、ストーリー上のギミックとして機能しているのも素晴らしい。というのも、本作は中盤以降がサバイバル・アクションとして展開されるのだが、幕開けは青春ドラマそのものなのだ。主人公のバーニーは、ハンサムながら自信がなく、後に結婚するミリアム(ホリデー・グレンジャー)とのロマンスも、すんなりとは進まない。SNS、そして携帯電話すらない時代で2人が織りなすロマンスには、今の時代にはない趣があり、鑑賞者に古き良き50年代への憧憬を抱かせ、自然と2人を応援したくなる気持ちにさせる。穏やかなペースながら、しっかりと鑑賞者の心を掴む導入部分があるからこそ、タンカー事故によって引き起こされるサスペンスは強調され、バーニーの帰りを待つミリアㇺの健気な姿、そしてバーニーの生死を賭けた救出劇の結末には、大きな感動が生まれている。

人によっては、本作のストーリーや映像は地味に思えるかもしれない。しかし、ディズニーが注力しているスーパーヒーロー映画には欠けがちな、人間臭い「息遣い」、そして共感を抱かせるロマンスが描かれることによって、本作はエンドロールに至るまで鑑賞者の目を逸らさせない物語として成立している。公開がアカデミー賞の直前ということで、見落とされてしまわないか心配ではあるが、一見の価値があることは筆者が明言しておこう。

(文:岸豊)


映画『ザ・ブリザード』
大ヒット上映中

監督:クレイグ・ギレスピー
脚本:スコット・シルヴァー、エリック・ジョンソン、ポール・タマシー
原作:ケイシー・シャーマン、マイケル・J.トーギアス
出演:クリス・パイン、エリック・バナ、ケイシー・アフレック、ベン・フォスター、ホリデー・グレンジャー
全米公開:2016年1月29日
配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン

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クリス・パイン

生年月日1980年8月26日(39歳)
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生年月日1975年8月12日(44歳)
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