映画『エヴェレスト 神々の山嶺』平山秀幸監督インタビュー「映画を撮るためにやらなければいけないのは、一歩一歩歩くこと」

平山秀幸監督

平山秀幸監督

「山に行くよなあ、寒いよなあ、高いとこヤだなあ、みたいなところが正直な印象だった。僕は山にもそんなに興味もないし、高所恐怖症だし。そんな想いがあったんですが、読み出したら、真っ向勝負みたいな感じの原作だったんですね。豪速球をぴゅっと投げられたような気がした。その凄さが、嫌だなという恐怖感に勝った。これやるなら、越えていかなきゃいけないなと。火の玉の直球でした」

夢枕獏の小説「神々の山嶺」。その直球の迫力に押し倒されるように、平山秀幸監督は映画化を引き受けた。『愛を乞うひと』『レディ・ジョーカー』など、これまで数多くの骨太な原作をものにしてきた監督だからこそ、感じ入るものがあったに違いない。では、その豪速球を、映画として打ち返すために必要なことは何だったのか。

「まず現地ロケですね。これは不可能なんだけど、可能性があればてっぺんまで行くべきだろうと思ってたし。でも『ある限界』は僕ら(山の)素人にはあるわけですし。ただ、少なくとも限界ギリギリまで行って、そこで撮影をして、なおかつ空気とか寒さとかを映画のなかに取り込む。そこからでしたね。たとえばこれを『セットでやってください』ということだったら『すみません』とお断りしていたと思う。あの原作を読んだら、どんな映画屋さんも(セットで撮ろうとは)思わないだろうし。やっぱり(山に)行くぞ、というだけの強さはあったと思います」

(C)2016「エヴェレスト 神々の山嶺」製作委員会

(C)2016「エヴェレスト 神々の山嶺」製作委員会

つまり、原作の強さが、映画プロフェッショナルたちの根底にある強さを揺り動かした。

「山に興味がないし、高いところにも行ったことのない連中、シナリオライター、プロデューサーたちと行った。最初行ったときは(標高)3,800(M)だったんです。そのとき、誰かが高山病とかになったら、この企画、ないよねと。自分もそう思ったんです。もしこれで俺がダメだったら、自分はもう降りると。それが、たまたま、無事に還ってこれた。そうするとハードルはあがって、『今度は6,000近くまで行く?』ということになるわけですよ(笑)。で、5,890ぐらいまで行った。そこでもダメだったら『ないよな』って。そしたら運がいいのか悪いのか(笑)クリアして。(撮影)本隊連れて、具体的に、この場所でこれを撮るという、本当のロケハンに行った。で、そこでも、ダメなひとは降りてもらうと。ところがいくら新参者が来ても、ことごとくそれをクリアしていった。そして最終的に来る新参者は俳優さんなんですね。(その時点ではもう)『俳優がダメだったら(山に耐えきれなかったら)』とは誰も言わない(笑)。高山病は一回大丈夫だったからといって、次も大丈夫とは限らない。そのときの身体のコンディションとか天気とか、いろいろなことがあって、3回OKでも4回目は潰れる、それが高山病だと言われてる。そういう意味では何があってもおかしくない。でも、それを口に出すと、ぴきぴきっと気持ちが折れちゃう。そうするともうダメでしょう。だからやせ我慢というか。でも、上にあがったら、絶対無理をしたらダメだよと(専門家に)言われたので。だから、ものすごく相反する有り様でしたね、精神的には。がんばっちゃいけない。でも(気持ちが)折れたら(山を)降りるしかない。この裏表に、どのスタッフ、どのキャストも直面していたと思う」

山に取り憑かれた孤高の登山家を追う山岳カメラマンの姿を描いた狂おしいほどの物語。映画『エヴェレスト 神々の山嶺』には、魅力という次元をはるかに越えた山の魔力がぎっしり充満している。

「山は……『一歩、一歩』を実感できるんです。映画を撮るためにやらなければいけないのは、一歩一歩歩くことですからね」

(C)2016「エヴェレスト 神々の山嶺」製作委員会

(C)2016「エヴェレスト 神々の山嶺」製作委員会

その地道な道のりは、明らかに映画作りに重なる。1カット、1カットの積み重ねが1シーンになる。1シーン、1シーンの積み重ねが1本の映画になるのだから。

「だから、嫌だなあと(笑)。映画作りも一歩一歩で、山登りも一歩一歩かよ、と(笑)。俺ら、修行に来たわけじゃないのにと(笑)。去年のメモ見ると『行きたくねえな』ってことばっかり書いてますよ(笑)。でも映画撮るためには行かなければいけない。みんな、そうだったと思いますよ。で、行って撮り始めたら、それは地上の撮影と変わらない。もちろん安全を確保した上でのことですけど」

キャストについては次のように話す。

「大変だけど、それを楽しもうとするポジティヴな気分を持っている人たちでした。キツいことはキツい。それだけだと足が動かなくなるんですよね。キツいけど、しょうがないな。それは楽天的ということかもしれないけど。行ったら、28日間、風呂入れないわけですから。それを体験として楽しむだけの(精神的な)余裕があったんじゃないかな。それはスタッフも。あとで笑い話になるかもしれないよ、というくらいの強さがみなさんにありました。覚悟みたいなものが」

(C)2016「エヴェレスト 神々の山嶺」製作委員会

(C)2016「エヴェレスト 神々の山嶺」製作委員会

では、俳優たちの真価は、その極限状況において、いかに発揮されたのか。

「5,200M、マイナス15度くらいで結構吹雪いてるときに、『いま4歩で歩いてたけど、3歩で歩いて』みたいなちっちゃいこと、セコいことやってもしょうがないんですよ。むしろ、『どーんとやって』と。そうすると、彼らも、役作りとしていろいろ考えてきたことはあると思うんだけど、どんどんどんどん役というより『地』が出ちゃうんですね。そのへんが見てて面白いし、やっぱりそれがリアルだろうと思うし。岡田准一と(山岳カメラマンの)深町というヤツが、どっちがどっちなの? というふうになってくる。それが醍醐味でしたね」

監督自身、演出する上で腹をくくる必要があった。

「エヴェレストって巨大で。とにかくデカいんですよ、ヒマラヤも自然も。異様にデカい。そんなデカいところで細かいことやっても、自分が虚しくなる(笑)。いつも僕は『引き算』しながら映画作ってきたんだけど、今回は『足し算』になっていると思います」

小細工は無用だった。その言葉通り、映画の最終盤では、岡田准一と阿部寛による、凄まじいほどの魂と魂の対話が繰り広げられる。強さを。巨大さを。全身で受けとめた作り手の矜持が、そこにはみなぎっている。

(取材・文:相田冬二)


映画『エヴェレスト 神々の山嶺』
3月12日(土)全国ロードショー

出演:岡田准一、阿部寛、尾野真千子、ピエール瀧、甲本雅裕、風間俊介、テインレィ・ロンドゥップ、佐々木蔵之介
原作:夢枕獏「神々の山嶺」(角川文庫・集英社文庫)
監督:平山秀幸
脚本:加藤正人
音楽:加古隆
配給:東宝/アスミック・エース

この記事を読んだ人におすすめの作品

アーティスト情報

平山秀幸

生年月日1950年9月18日(68歳)
星座おとめ座
出生地福岡県北九州市戸畑区

平山秀幸の関連作品一覧

岡田准一

生年月日1980年11月18日(38歳)
星座さそり座
出生地大阪府

岡田准一の関連作品一覧

阿部寛

生年月日1964年6月22日(55歳)
星座ふたご座
出生地神奈川県

阿部寛の関連作品一覧

関連サイト

TSUTAYAランキング

おすすめ映画ガイド

TSUTAYA MUSIC PLAYLIST