映画『リリーのすべて』トム・フーパー監督インタビュー「リリーと彼女を支えたゲルダの物語は本当に素晴らしい愛の物語」

トム・フーパー監督

トム・フーパー監督

『英国王のスピーチ』『レ・ミゼラブル』の監督として知られるトム・フーパーは、男女の愛を含めた人間愛を描くことに長けた人だ。そんな彼が新たに挑む愛は、今から80年前に世界で初めて性別適合手術を受けたデンマーク人“リリー・エルベ”の実話をもとにした物語。自分の内側に潜んでいた女性の存在に気づき、困惑しながらも人生を切り開いていくアイナー(=リリー/エディ・レッドメイン)と、女性として生きたいという夫を受け止め、同じく困惑しながらも共に人生を歩んだ妻のゲルダ(アリシア・ヴィキャンデル)。トム・フーパー監督の心を大きく揺さぶったこの夫婦の物語は想像以上にドラマチックだった。その愛について監督は語る──。

──リリー・エルベという人がいたことをこの映画を通じて初めて知りました。監督は彼女のことをどんなきっかけで知ったのでしょうか。

私も脚本を読むまでは彼女の存在を知りませんでしたが、リリーと彼女を支えたゲルダの物語は本当に素晴らしい愛の物語です。彼らの存在を知ってから(2008年から)私自身もリリーについて調べてはみたのですが、どこにも情報がない。何故、誰も彼女のことを知らないのだろうとさらに調べていくと──今までは1950年代に性別適合手術を受けた人が最初だと思われていましたが、リリーが手術を受けたのはさらに前の1930年代。おそらくトランスジェンダーの人への差別が激しい時代で歴史に埋もれていた、隠されていた、忘れられていたのではないかと。ですから、今回のアカデミー賞で妻ゲルダ役のアリシア・ヴィキャンデルがオスカーを受賞したことによって、より多くの人に知ってもらえるのは嬉しいです。

(C)2015 Universal Studios. All Rights Reserved.

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──脚本家やプロデューサーはどのくらいリリーについてリサーチをしていたのでしょうか。

プロデューサーのひとりゲイル・マトラックスは16年近くリサーチをしていました。この映画にはデイビッド・エバーショフの原作小説がありますが、映画にすることはとても困難でした。テーマがテーマなだけに資金も集まらないだろうと……。でも、こうして世間の人に知らせることができたことは本当に嬉しい。

──今から80年以上も前に性別適合手術を受け、自分らしく生きようとしたリリー。誰もやったことのない手術は挑戦だったと思います。その物語をこうして映画化することも挑戦だったはずですよね。

たしかに挑戦でした。『英国王のスピーチ』や『レ・ミゼラブル』が成功し「トム・フーパーは、次はハリウッドのアクション大作を撮るんじゃないか?」と思われていたかもしれないですが(笑)、僕はやっぱりこれまで作ってきたような“自分を信じる話”を作りたいと思い、挑戦しました。挑戦して良かった。もちろん、大変だったこともあります。時代を経たとはいえ、お客さんは本当にこのテーマ、この内容についてきてくれるだろうか──という不安はありましたから。でも私の心配はまったく無用で、世界の人たちはこの映画を受け入れてくれる準備ができていた。イギリスで公開したとき、一週目のランキングはボックスオフィスで2位。差別意識がないどころか、時代はとてもオープンになっていたのです。

(C)2015 Universal Studios. All Rights Reserved.

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──時代が追いついたわけですね。リリーの勇気ある決断をリリーの目線で見る、ゲルダの目線でも見られる、どちらの目線でも見られるような構成によって、2人の間にどれだけ深い愛があるのか伝わってきます。

そうなんです。リリー本人だけでなく、パートナーの立場からもトランジション(性別移行)を描きたかった。特に女性はゲルダの立場にたちやすいですし、自分だったらどうするだろう、どんなサポートができるだろう、受け入れられるか愛することができるかと考えさせられる。

──考えさせられました。もしも……を考えることによって、自分は愛する人をどれだけ愛しているのか、愛を試された気もします。

この物語が素晴らしいのはそういうことなんです。ゲルダはリリーをひとりの人間として愛していた、ということなんです。リリーもゲルダも画家。アーティストであることも大きいと思いますが、因子にとらわれることなく人を見ることができた人たちだった。見方によっては、リリー本人よりもゲルダが先にリリーの本当の姿に気づき、認めたと言えるかもしれません。

(C)2015 Universal Studios. All Rights Reserved.

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──リリーが美しくなればなるほど、外見と中身はものすごく繋がっているものなのだと痛感しました。エディにとっても挑戦、とても難しい役でしたね。リリー役は最初からエディと決めていたのでしょうか。

もちろん。脚本を読んで映画にしたいと思ったときから、7年前からずっとリリー役はエディしかいないと思っていました。彼とは『レ・ミゼラブル』をはじめ何度も仕事をしてきました。遡ると──エディが22歳のときに私が演出したテレビドラマ『エリザベス1世 ~愛と陰謀の王宮~』(2005)に出てもらっています。当時、エディが演じたのはエリザベス1世に反逆を起こそうとして死刑を受ける役。死刑のシーンの演技がとても素晴らしくて。まるで人間が透明になって感情が透けて見えるような、その感情表現に感銘を受けました。また、彼は女形をたくさん演じてきています。

──20歳の頃にグローブ座で上演したシェイクスピアの喜劇『十二夜』ではヴァイオラ役を演じていますよね。

そんなふうに女形としてのキャリアがあるのもエディしかいないと思った理由のひとつです。彼が持っている女性的な何か――それを掘り下げてみたかったというのもあります。誰でも男性的なもの女性的なもの両方を持っていますが、エディはより女性的な部分へのアクセスを持っている人なのかもしれないですね。

──衣装やメイクも素晴らしく、女性としてのリリーを引き立てていますが、何よりもエディのなかから発せられている美しさに惹かれた気がします。

そうですね。リリーとして生きる前はアイナーとして、男性としてリリーを演じなくてはならなかった。そこから徐々に女性として開かれていくわけですが、最初は自分の隠された部分を開くことによって、女性らしさをおおげさに演じています。最後は女性としての自信を持って演じているので、仕草もメイクも衣装も、よりナチュラルになっているのが分かると思います。

(C)2015 Universal Studios. All Rights Reserved.

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──たしかに、外見はどんどんナチュラルになっていくのに中身はどんどん女性らしさが増していく、それが俳優エディ・レッドメインの凄さなんですね。ちなみに、最初にエディがリリーとして目の前に現れたときの感想も聞かせてください。

エディとはずっと友人でよく知っている間柄ですが、リリーとしてのエディを最初に目にしたときは、どう接したらいいのか少し悩みました。握手かな、それともキスした方がいいのかなって(笑)。

──それだけ魅力的だったということですね(笑)。続いて、アカデミー賞助演女優賞を受賞したアリシア・ヴィキャンデルについても伺います。アリシアはどうやって決まったのでしょう?

エディと渡り合える女優を探すのはとても難しいことでした。アリシアに出会えたことは本当にラッキーでしたし、彼女はスカンジナビア(スウェーデン)の出身で、デンマーク人のゲルタ役としてアクセントはパーフェクトでした。本当によかった。しかもアリシアはゲルタと同じくとても広い心を持った慈悲深い女性。この愛の物語をより輝かしいものにしてくれました。もともとバレエダンサーを目指し厳しい特訓を受けてきた人なので芯の強さもある。彼女が持っている広い心と強さをゲルダ役に注いでくれたからこそ、ゲルダが犠牲者として見えない。アリシアのおかげです。

──アリシアとの出会いはオーディションですか?

オーディションにアリシアが来てくれました。そのとき演じてもらったのは、リリーがヘンリク(ベン・ウィショー)にキスされたあとの翌朝のシーンでしたが、最初のテイクで私は泣いてしまって……。エディとアリシアの演技が素晴らしかったのはもちろん、リリーとゲルダのキャストが決まった! という歓びもあって泣いてしまったんです。

(C)2015 Universal Studios. All Rights Reserved.

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──脚本を読んだときも「3度泣いた」と聞いています。泣きっぱなしの映画ですね(笑)。

本当に(笑)。これから映画を観る人もきっと泣くと思いますから、ティッシュボックスを持って行くことをおすすめします(笑)。

──もちろん、泣きました。『英国王のスピーチ』も『レ・ミゼラブル』も今回の『リリーのすべて』も、とても深い愛を描いています。監督のもとには多くの原作や脚本が送られてくると思いますが、選ぶ基準はやはり“愛”の物語であることですか。

そうですね。この映画を撮る前は、僕のもとに58の脚本がありましたが、それらをすべて断って『リリーのすべて』を選びました。20世紀最大のラブストーリーだと思ったからです。そして嬉しいことに、今も読まなくてはならない脚本がたくさん手元にあります。

(取材・文:新谷里映)


映画『リリーのすべて』
大ヒット上映中

監督:トム・フーパー
脚本:ルシンダ・コクソン
出演:エディ・レッドメイン、アリシア・ヴィキャンデル、ベン・ウィショー、アンバー・ハード、マティアス・スーナールツ 他
原題:The Danish Girl
提供:ユニバーサル映画
製作:ワーキング・タイトル、プリティ・ピクチャーズ
レイティング:R15+
配給:東宝東和

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