映画『蜜のあわれ』大杉漣&二階堂ふみインタビュー<室生犀星という男を通して見る世界>

二階堂ふみ、大杉漣

二階堂ふみ、大杉漣

室生犀星の同名小説を、石井岳龍監督が映画化した『蜜のあわれ』は、ひとりの老作家が、金魚の生まれ変わりである少女、赤子に恋をする一風変わったファンタジーだ。金魚と老作家を体現した二階堂ふみと大杉漣が語る。

二階堂ふみ(以下、二階堂):金魚といっても、これといって何かを参考にしたということはなくて、現場で作っていったキャラクターでした。ただ、言葉にあまり意味を持たせないでやりたいなと。大杉さんにたくさん引き出していただきました。監督からは、動きが止まらないように、と撮影に入る前から言われていました。始まると、自分の内から出す感覚的なものが楽しくなりましたね。

大杉漣(以下、大杉):一ヵ月ほど、北陸で撮影させていただきました。初日、二階堂さんを最初に見たときに『あ、金魚がいる』と思えました。すごくいいスタートが切れましたね。金魚が少女になり、その金魚に僕は想いを寄せる。淡い恋、初恋のような朴訥な気持ちじゃないですか。それにふさわしい初日だったんですよ。それがすべてを物語っているような気がしますね。二階堂さんの作品は拝見していて、いつか共演できたらいいなと思っていて、それがこんなに早く実現するとは思っていなかったし、石井さんとは30年来の知り合いなんですけど、石井組の現場に立つのは初めてだったんです。とても楽しく豊かに過ごせた一ヶ月でした。

(C)2015『蜜のあわれ』製作委員会

(C)2015『蜜のあわれ』製作委員会

金魚と老作家の言い争いが楽しい。それはいわゆる男女の痴話げんかなどではなく、もっとポップでユーモラスで、ある意味SFと言ってもいい次元にある、新たなるおかしみである。語られている言葉が文学的なだけに、その滑稽さは余計際立つ。

二階堂:あのシーンはいちばん苦労したというか、台詞が喉を通らないというか。身体で覚えているはずなのに、なかなか口から出てこなくて。ほんとに、みなさんにはご迷惑おかけしてしまったんですけど、『覚えたて』の言葉を発するようなキャラクターだったので、言葉に支配されないキャラクターだからこそ、すごく難しいというより、踏ん張ったシーンでした。でも(作品の)出来上がりを観たときに、あれは間違ってなかったんだなというか。あそこでひとつひとつの言葉を口から出すというの簡単なことではなく、(金魚だからこそ)言葉にとらわれる人間の感じを一切なくしてやりたかったので、言葉の意味にとらわれないからこそ、大変でしたね。あのシーンを終えてからは、すごくのびのびできるようになりました。あのシーンはひとつのきっかけになったなと思います。

(C)2015『蜜のあわれ』製作委員会

(C)2015『蜜のあわれ』製作委員会

そう、それは感情ではない。別な回路から発せられている言葉たちである。

大杉:『覚えたての言葉』は、『覚えたての台詞』をしゃべっていても表現できないんですね。言葉っていうのは、ある意味、戦略がないと。覚えてて当たり前なんですけど。じゃあ、それをどうするかという作業になるわけで。あのシーンは(本作の撮影のなかで)ひとつのヤマだった気がします。あそこは紐解いていくと非常に人間臭い。すごく大事なシークエンスでした。室生犀星さんという人物がどういう人物か、僕は会ってないのでわかりませんけど、彼に近づくのではなくて、室生犀星的な世界をどうやって自分のなかに生み出すのか。そういう作業でした。いままであったものの再現ではなくて、自分の肉体を通して、あの言葉をどうやって吐けるか。非常にやりがいのある作業でした。

無数になる芝居の可能性を目撃したような気がする場面だ。

大杉:正解がないんですよね。でも、その作品にふさわしい答えをとりあえず出さなきゃいけない。正解かどうかはわからないけど、ふさわしい答えであるといいなと思います。悲しみの表現にしろ、喜びの表現にしろ、いろいろな方向から攻めていったほうがいいと思います。そういう要素はこの映画にはいっぱいあると思います。

(C)2015『蜜のあわれ』製作委員会

(C)2015『蜜のあわれ』製作委員会

二階堂は、高校生のとき、この小説に出会った。

二階堂:演じたいというより、映像化したい、映画にしたい、という想いでした。映画に残したいと。読んでいて、これが映画になったら面白いだろうな、どうなるんだろう? と純粋に思っていました。読んでいて文学的だし、美しい言葉が並べられているんだけど、思考ではないところで読めるのが『蜜のあわれ』だったので、そこに室生犀星という作家の魅力も感じました。

大杉:室生犀星さんもひとりの男だなと思いましたよ。室生犀星さんは70歳でこの作品を書いた。僕はいま64歳なので少し歳は下なんですけど、わかるなあ、というところが結構あるんですよ。赤子にあんな想いを寄せながら、他にも女はいる。ああいう男の二面性の面白さは、僕のなかにもある。いまは(妻以外の)女はいませんけど(笑)。ああいう想いというものはわかるんです。たとえば何かを誤魔化すときの男のリアルさ。もっと違う演じ方もあると思うんです。でも僕はああいうふうに演じる。「気にしてないよ」と言いながら気にしているところとかね。でも(女性から)あんなふうに翻弄されることは、決して嫌いじゃないですよね。ああいう男の性(さが)、体質みたいなものは自分のなかにもありますね。それを真剣にやればやるほど、おかしみや愛おしさ、おマヌケさが結果的に『蜜のあわれ』の(男の)老いの迎え方になっていく。そういうふうに理解していました。

二階堂:老作家がこれまで出会ってきた女性たちへの、想いだとか欲望だとかコンプレックスだとか、いろんなものが混ざり合って出来たのが赤子だと思んです。老作家は作品を書き続けて、生み出し続けて。世に何かを出しつづけるのって、すごく大変なことだと思うんです。ものすごく自分の身を削って、向き合っていかなきゃいけない。でも、そういうことをやり続けてきた作家としてのカッコ良さというか、闘いつづける姿も素敵だなと思いました。一見、硬い作家のように思えるけれど、そのなかに入っていくと人間らしくて。逆に滑稽なところもあって。愛嬌もあって。人間らしさと、作家としての重さみたいなもの。この映画ではたくさん、作家としてのいろんな顔と、男性としてのいろんな顔が見えてくると思います。

(C)2015『蜜のあわれ』製作委員会

(C)2015『蜜のあわれ』製作委員会

古風なフレームでありながら、とことんフレッシュ。そんな独特の味わいの本作は、ベテラン俳優にも大いなる刺激を与えたようだ。

大杉:僕は俳優になって42年ぐらい経つんですかね。42年やってメモリアルなことは何もないんですけど、そんなにやってきた感覚もないんですよ。でも、あらためて思うのは自分のプロフィール、足跡、何をやってきたのかということが、それがおそらく『いま』になっているんだと思うんですね。それが今後役者としてどうなっていきたいのかということと密接につながっていく。そういう意味では1本、1本なんですよ。自分が何歳だからとか、キャリアがこうだからとか、そういうことよりも、初めての方や、よく知っている方たちと、現場で闘える、共同作業できるってことは、たまらないことなんです。そういう土俵に立てることがありがたい。もの作りって「PLEASE」の世界じゃないんだってことをあらためて知りました。「どうぞ」という感覚で芝居しちゃいけないなと。特に、こういう作品は「LET’S GO」なんですよ。「共にやる」ということでないと。「行くぞ」という気持ちでないと出来ない。(二階堂は)そういうことを、ちゃんと感じさせてくれる女優さんです。僕は幸せ者です。

(取材・文:相田冬二)


映画『蜜のあわれ』
4月1日(金)より新宿バルト9ほか全国ロードショー

原作:室生犀星「蜜のあわれ」
脚本:港岳彦
監督:石井岳龍
出演:二階堂ふみ、大杉漣/真木よう子/韓英恵、上田耕一、渋川清彦、高良健吾/永瀬正敏

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アーティスト情報

二階堂ふみ

生年月日1994年9月21日(24歳)
星座おとめ座
出生地沖縄県那覇市

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真木よう子

生年月日1982年10月15日(36歳)
星座てんびん座
出生地千葉県

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