映画『ルーム』―親子の絆とそれを裏付ける演技力、そして2人にとっての“リアルな世界”とは…【連載コラム Vol.3】

映画ライター・新谷里映が心動かされた、本当に観て欲しい映画たちを連載コラムでお届け。

第3回目は本年度の賞レースを賑わせ、主演のブリー・ラーソンが見事アカデミー賞(R)主演女優賞に初ノミネートにして初受賞もした話題作『ルーム ROOM』。ラーソンと共演の息子役を演じたジェイコブ・トレンブレイ君もその素晴らしい演技力が絶賛されている。


(C)ElementPictures/RoomProductionsInc/ChannelFourTelevisionCorporation2015

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新生活が始まるこの季節。新しい職場、新しい学び場……自分がこれまで知らなかった“初めて”の場所や人との出会いは、期待と不安とが入り混ざり、どんな場所だろう? どんな人と出会えるだろう? どんな毎日が待っているのだろう? 多少なりとも興奮するものです。その興奮のなかには、知らなかったことを知る、新しい知識を得ることによって生まれる興奮もある。自分が今いる世界と新しく知る世界の違和感があまりにも大きすぎるカルチャーショックもある。

本年度のアカデミー賞で作品賞を含め4部門ノミネートされ、主演のブリー・ラーソンが主演女優賞に輝いた映画『ルーム ROOM』にも心を揺さぶる“初めて”の感動が描かれています。主人公はママのジョイ(ブリー・ラーソン)と息子のジャック(ジェイコブ・トレンブレイ)。2人が暮らすのはとても小さな【部屋】。その部屋は小さくても生活感があり、ごく普通の部屋に見えます。でも、ほどなくして普通ではないことに観客は気づくわけです。2人は部屋から出られないのだと──。

(C)ElementPictures/RoomProductionsInc/ChannelFourTelevisionCorporation2015

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この映画の原作はエマ・ドナヒューの「部屋」(上・下/講談社刊)。オーストリアで子供たちと一緒に24年間地下室に閉じ込められていたエリーザベト・フリッツルの事件に着想を得て書かれた小説で、脚本も原作者が担当しています。そして、この作品が「感動する」理由は、監禁されていたというスキャンダルな事件を描くのではなく、極限状態のなかでの母性、生き抜こうとする強さ、そこから脱出して立ち直ろうとする力を描いている。だから感動する。

映画の約3分の2はママとジャックだけのシーン、2人芝居です。26歳にして芸歴20年のブリー・ラーソンと天才子役と注目を浴びているジェイコブ・トレンブレイ。この2人の演技が素晴らしいからこそ成立しているとも言えます。ラーソンにおいては、賞レース常連のケイト・ブランシェットや大御所女優シャーロット・ランプリングなどの競合がいながらも、みごとオスカーを手にしました。映画を観ると、その演技の素晴らしさに納得です。

ジョイの母としての強さと愛情はもちろん感動しますが、ジャックの目線からは大きな勇気を受け取ります。小さな【部屋】で生まれ育ってきたジャックにとっての“本物=リアルな世界”というのは、自分とママと部屋にあるものだけ。テレビの中に映る自分とママ以外の人が本物なのかどうも分からない。だからジョイは決意するのです。

ジャックに外の世界を見せてあげたい、本当の世界はもっと広くてもっと美しいのだと教えてあげたいと、5歳になったジャックと一緒に脱出計画を立てます。計画の成功はジャックの勇気にかかっている。ドアの内から外へ出る、たったそれだけのことですが、2人にとっては人生をかけた大勝負。ある意味、ど派手なスタントや爆発のあるアクション映画よりもハラハラドキドキさせられ、その脱出シーンは一生忘れられないワンシーンとして記憶に残るはずです。

(C)ElementPictures/RoomProductionsInc/ChannelFourTelevisionCorporation2015

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自由を象徴する空も印象的です。唯一、外と繋がっているのが【部屋】の天井にある小さな窓でした。天窓から見える空とそこから差し込む太陽の光。それと対照的に描かれるのが脱出してジャックが生まれて初めて目にする大きな空と光輝く世界です。

私たちからしてみれば、部屋の中と外の違いにすぎなくても、ジャックにとっては生まれて初めて大きな空を見る瞬間、光に満ちあふれた世界を感じる瞬間です。ジャックの目線が自分の目線と重なり、そして飛びこんでくる初めての景色──どこまでも続く空の青さと広い世界にただただ感動します。

当たり前の景色が特別な景色になる。自由を知っている私たちですら感動するのですから、ジャックの感動はどれほどのものだったのだろうか……と考えると、感無量。この映画を観てから空を見上げる回数が増えたのは気のせいではないはずです。

(C)ElementPictures/RoomProductionsInc/ChannelFourTelevisionCorporation2015

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(文・新谷里映)

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新谷里映

フリーライター、映画ライター、コラムニスト
新谷里映

情報誌、ファッション誌、音楽誌の編集部に所属、様々なジャンルの企画&編集に携わり、2005年3月、映画ライターとして独立。 独立後は、映画や音楽などのエンターテイメントを中心に雑誌やウェブにコラムやインタビューを寄稿中。

【tumblr】新谷里映/Rie Shintani 

映画『ルーム』大ヒット上映中

監督:レニー・アブラハムソン 『フランク』(14)
出演:ブリー・ラーソン 『ショート・ターム』(13)、ジェイコブ・トレンブレイ、ジョーン・アレン『きみに読む物語』(04)
提供:カルチュア・パブリッシャーズ、ギャガ
配給:ギャガ

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