シャーロット・ランプリング主演映画『さざなみ』― 目に見える静けさと目に見えない感情の揺れ動きの対比がとても素晴らしい【連載コラム Vol.4】

映画ライター・新谷里映が心動かされた、本当に観て欲しい映画たちを連載コラムでお届け。

第4回目はイギリス映画界の至宝と言われるシャーロット・ランプリング主演の映画『さざなみ』。第88回アカデミー賞(R)では主演女優賞にも堂々ノミネートされました。その本作を“今だから観て欲しい”その理由とは…


(C)The Bureau Film Company Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2014

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過去に観ている映画であっても、月日が経って再び観てみると以前とは異なる感情を抱いたり、以前は気づかなかったコトに気づいたりするものです。イギリス映画界の至宝と言われるシャーロット・ランプリング主演の映画『さざなみ』はおそらくそこに振り分けられる映画であって、しかも年齢を重ねるほどに味わい深さが増す、大人の映画なのではないかと。だから“今”観ておいてほしい。

物語は、結婚45周年を迎える夫婦、ジェフ(トム・コートネイ)とケイト(シャーロット・ランプリング)のとある6日間を淡々と映し出していきます。登場人物場はジェフとケイトのほぼ2人だけ、夫婦の間に流れる静かな日常が描かれます。大きな事件が起きるわけではないですし、彼らが暮らすのはイギリスの小さな地方都市。設定的にもとても地味な映画です。

それがたった1通の手紙によって、静かな日常に変化が訪れる。とはいっても、変化は“夫の心“と“妻の心”それぞれの心のなかで起こることなので、見た目的にはやはり静かで地味ですが、身体の内側にはとても大きな感情が渦巻いている。目に見える静けさと目に見えない感情の揺れ動きの対比がとても素晴らしいのです。

(C)The Bureau Film Company Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2014

(C)The Bureau Film Company Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2014

子供はいなくても仲睦まじく暮らしてきたであろうジェフとケイト。穏やかだった生活にもたらされたさざ波の原因はジェフがケイトと結婚する前に付き合っていた恋人カチャの存在でした。雪山で事故に遭い行方不明になっていたカチャが50年以上も経って見つかった。温暖化によって雪が融け、氷のなかで当時の姿のまま発見された。本人かどうか確かめに来てほしい──という手紙がジェフの元に届いたことで、夫は過去の恋人に想いを馳せ、妻は亡き女性に嫉妬をする。ほんの小さな波がいつの間にか大きな波となり、45年の夫婦生活はどうなるのか……心のなかで巻き起こるサスペンスでもあるのです。

静かで地味な映画でありながらも心をかき乱されるのは、やはりシャーロット・ランプリングの圧倒的な演技力ゆえ。食事のとき、読書をしているとき、隣で眠るとき……夫の何気ない言動に反応する妻の表情をなんとも繊細に演じています。セリフのないシーンであっても、そのときにケイトが心のなかで何を思ったのかが完璧に伝わってくる、それほどの演技力。素晴らしい女優であることは分かっていても改めてすごい女優だと惚れ惚れしてしまいます。であるからこそ、シャーロット・ランプリングが女性の嫉妬を生々しく表現しているからこそ、同性としては切ない気持ちになるわけです。

(C)The Bureau Film Company Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2014

(C)The Bureau Film Company Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2014

誰にでも初恋はあって、忘れられない人もいて、そうやっていくつもの恋を重ねてパートナーと巡り逢う。愛する人の過去に嫉妬してもどうにもならないことぐらい知っています。でもケイトは疑ってしまった。目の前にいるのは私なのに夫が見つめているのはいまだに50年前なのではないか? 私たちの45年は何だったのか? この人は私を本当に愛しているのだろうか? そして私はこの人を愛しているのだろうか? と──。この映画には、男女の恋愛観の違い、老いていくこと、嫉妬と許しが描かれていますが、そこから導き出されることのひとつは“正直さはときに人を苦しめる”ということです。過去の恋愛を忘れろとは言いませんが、ジェフの正直さによってケイトは傷ついてしまったわけですから。

さざ波がどう変化し、大きな波になっていくのか。ケイトがひとつの答えにたどり着くまでに味わう感情は決して心地のいいものではないかもしれません。でも、そういう人間くささが描かれているから感動する。ラストシーンでケイトが見せるあの表情、あの仕草、あの瞬間に女性は激しく共感し、男性は……。そこはぜひ、映画を観て確かめてください。

(C)The Bureau Film Company Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2014

(C)The Bureau Film Company Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2014

『さざなみ』を観て、しばらく男と女の恋愛観の違いについてあれこれ考えていたのですが、少し前に「タイタニック in コンサート」(大スクリーンでの映画上映とオーケストラの生演奏による音楽を組み合わせたコンサート上映)を鑑賞して、とあることに気づきました。『タイタニック』には愛するジャック(レオナルド・ディカプリオ)を失ったローズ(ケイト・ウィンスレット)が80年の歳月を経て、初めて彼への愛を自分以外の人に語るシーンがあるのですが、そのときのセリフ「女の心は秘密に満ちた深い海のようなもの。私の記憶の中にだけ彼は今も生きているの」──これが『さざなみ』と繋がった。

『タイタニック』のローズと『さざなみ』のジェフ、どちらも過去に愛する人、かけがえのない人がいたことは同じですが、決定的に違うのは、後に一緒になった結婚相手に過去の秘めた愛を伝えたかどうかです。ローズは最後まで秘め続け、ジェフは秘めずに口にした。ジェフの言葉がケイトを傷つけたのは確かですが、ジェフにとっては過ぎ去ったことだから隠さずに言ったのでしょう。男と女の違いだと思っていましたが、そうではなかった! というわけで、男女の違いだけではないと知ったので今度はジェフの立場だったら……と想像を膨らませ、もう一度『さざなみ』を観に行こうと思っています。

(文・新谷里映)

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新谷里映

フリーライター、映画ライター、コラムニスト
新谷里映

情報誌、ファッション誌、音楽誌の編集部に所属、様々なジャンルの企画&編集に携わり、2005年3月、映画ライターとして独立。 独立後は、映画や音楽などのエンターテイメントを中心に雑誌やウェブにコラムやインタビューを寄稿中。

【tumblr】新谷里映/Rie Shintani 

映画『さざなみ』大ヒット上映中

監督:アンドリュー・ヘイ
原作:デヴィッド・コンスタンティン(「In Another Country」)
出演:シャーロット・ランプリング、トム・コートネイ
配給:彩プロ
宣伝:テレザとサニー、梶谷有里
2015年/イギリス/英語/カラー/ビスタ/5.1Ch/93分/原題:45 YEARS

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