【レビュー】『スポットライト 世紀のスクープ』―オスカー受賞も頷ける、ジャーナリズム映画の傑作!

(C) 2015 SPOTLIGHT FILM, LLC

映画『スポットライト 世紀のスクープ』より (C) 2015 SPOTLIGHT FILM, LLC

サスペンス性は弱いが、ストーリーの衝撃度は抜群に強い

2002年、ボストン・グローブ紙が発刊した新聞の一面が、アメリカを騒然とさせた。その内容は、ボストンのカトリック教会に所属する多数の神父が、多くの子供たちに性的虐待を与えていたことに加え、その事実が組織的に隠蔽されてきたという事実を暴露するものだったのだ。『扉をたたく人』『靴職人と魔法のミシン』で知られるトム・マッカーシー監督の最新作『スポットライト 世紀のスクープ』は、このカトリック教会による蛮行を暴いた4人の記者チーム「スポットライト」の姿を描いた作品だ。

物語は、2001年のボストンで幕を開ける。ボストン・グローブ紙に着任した新局長マーティ・バロン(リーヴ・シュレイバー)は、カトリック教会の神父による児童への性的虐待事件、通称「ゲーガン事件」に注目する。報道量が十分ではないと考えたマーティは、ウォルター(マイケル・キートン)、マイク(マーク・ラファロ)、サーシャ(レイチェル・マクアダムス)、マット(ブライアン・ダーシー・ジェームズ)の4名によって構成される報道チーム:スポットライトに同事件を追うように命じる。その後、スポットライトによる懸命な調査を通じて明らかになったのは、膨大な件数のカトリック教会神父による性的虐待と、その組織的な隠蔽の実態だった…。

映画『スポットライト 世紀のスクープ』より (C) 2015 SPOTLIGHT FILM, LLC

映画『スポットライト 世紀のスクープ』より (C) 2015 SPOTLIGHT FILM, LLC

ボストンの門外漢としてのマーティが登場する導入部分では、カトリック教会が孕む問題点が順序良く提示されていく。秘密主義や報道規制、短期間で成立する時効といった特権の数々は、健全なカトリック協会が根差した地域に住む人々はもちろん、日本のような無宗教国家に住む人々に驚きを与える。これと並行して映し出されるのが、性的虐待の被害者たちに対するインタビューだ。彼らが涙を浮かべながら語る、貧困家庭の子供や同性愛者の子供が抱く孤独感や疎外感につけこむ神父の汚さ、そして組織的な隠蔽体質は、「聖人、善の象徴」といった神父およびカトリック教会に対するパブリックイメージを一蹴する。

「善の象徴どころか悪の象徴だったカトリック教会」VS「カトリック教会の蛮行を暴露しようと奔走するスポットライト」という構図が導入部分で描かれることによって、鑑賞者は本作が「明快な勧善懲悪の物語」であるという先入観を抱く。しかし、この先入観は実に意外なタイミングで現れる一つの証言によって否定されることとなり、これによって鑑賞者は本作が想像していたよりも遥かに奥深く複雑な物語であることを認識し、それまで以上に物語へ引き込まれていく。

映画『スポットライト 世紀のスクープ』より (C) 2015 SPOTLIGHT FILM, LLC

映画『スポットライト 世紀のスクープ』より (C) 2015 SPOTLIGHT FILM, LLC

後半にかけては、被害者に対する辛抱強い聞き取り調査や、弁護士ミッチェル・ガラベディアン(スタンリー・トゥッチ)らの協力によって、「ゲーガン事件」に対してカトリック教会が行った隠蔽の証拠を見出すスポットライトの姿が映し出される。それと共に、「個人(ゲーガン)を糾弾する記事」と「カトリック教会全体を糾弾することを可能とする包括的な記事」のどちらを優先するべきかという二項対立が浮かび上がる展開が実に素晴らしい。それぞれの選択が孕む結果について登場人物が交わす激論は、鑑賞者に「報道の在り方」という普段は考える機会がないトピックについて深く考えさせ、これによって本作はジャーナリズム映画としての厚みを増していく。

終盤、スポットライトは他のメディアとの駆け引きを制して「包括的な記事」の掲載を可能とする証言を得るのだが、その直後に、劇中で暗示されていた「ある人物の罪」が顕在化する。これによって、鑑賞者は「記事の掲載」というスポットライトの勝利を見届けると同時に、「誰もが罪を背負う可能性を持っている」という、悲しみに満ちたメッセージを咀嚼させられる。しかし、本作は後味の悪さを残して幕を閉じるのではない。ラストシーンでは人々が心の奥底にしまい込んでいた思いがスポットライトの元に収束していき、鑑賞者は希望を感じながら本作の終幕を目撃することとなるのだ。

映画『スポットライト』より (C)2015-SPOTLIGHT-FILM,-LLC

映画『スポットライト 世紀のスクープ』より Photo by Kerry Hayes (C) 2015 SPOTLIGHT FILM, LLC

既存のジャーナリズム映画と比較してみると、本作には『大統領の陰謀』『ゾディアック』ほどのサスペンス性はない。しかし、カトリック教会の神父による児童への性的虐待およびその隠蔽という極めて普遍的なトピック(世界には12億人以上のカトリック信者がいるとされる)、被害者や記者の感情を深く掘り下げる心理描写、可能な限り脚色を抑えて描かれた濃密な報道のプロセス、単純な英雄譚を否定する苦味のある展開とラストに込められた希望、そしてマイケル・キートンを筆頭とする演技派キャスト陣の熱演によって、本作は映画史の中でも最も質の高いジャーナリズム映画の一本として成立しており、アカデミー賞で作品賞を受賞したことも頷ける。

本作で描かれた「ゲーガン事件」は、カトリック教会による悪行を告発した数少ない一例に過ぎない。スポットライトは、その後も600に上る記事を書き続け、カトリック教会の蛮行を糾弾し続けた。「ゲーガン事件」のような悲劇は、アメリカだけでなく他のキリスト教圏の国々でも起こってきたし、今も世界のどこかで起こっているだろう。本作が、その被害者たちが抱える闇、そして善を掲げながらも悪に塗れたカトリック教会の暗部に、一筋の光を当てるきっかけとなることを祈るばかりだ。

(文:岸豊)


映画『スポットライト 世紀のスクープ』
大ヒット上映中

この記事を読んだ人におすすめの作品

アーティスト情報

マイケル・キートン

生年月日1951年9月5日(67歳)
星座おとめ座
出生地米・ペンシルバニア

マイケル・キートンの関連作品一覧

マーク・ラファロ

生年月日1967年11月22日(51歳)
星座さそり座
出生地米・ウィスコンシン・ケノーシャ

マーク・ラファロの関連作品一覧

関連サイト

TSUTAYAランキング

おすすめ映画ガイド

TSUTAYA MUSIC PLAYLIST