【レビュー】『アイアムアヒーロー』―オリジナリティは無いが、熱意を感じさせる作品

(C)2016 映画「アイアムアヒーロー」製作委員会 (C)2009 花沢健吾/小学館

(C)2016 映画「アイアムアヒーロー」製作委員会 (C)2009 花沢健吾/小学館

大泉洋のハマりっぷりが素晴らしい

大泉洋。この男は北海道のローカル・バラエティー番組『水曜どうでしょう』で全国に名を轟かせ、いつの間にか東京に進出していた。今では国民的なバラエティ番組で軽妙なトークを披露したかと思えば、大河ドラマや映画で器用な演技を見せていたりする。元は完全にお笑い寄りのタレントだった大泉だが、近年では寧ろ俳優としての活躍が目立つ。

だが、彼の俳優としての代表作を訊かれた場合、人々は答えを出せるだろうか?おそらく、多くの人は彼の出演作のほとんどを忘れていることだろう。大泉は演技において、器用貧乏というのか、印象が薄いのだ。しかし、迎えた2016年、ついに俳優・大泉洋の代表作が誕生した。その作品こそ、花沢健吾の同名コミックを実写化した映画『アイアムアヒーロー』である。

舞台は現代の日本。主人公で漫画家のアシスタントとして働く英雄(大泉洋)は、持ち込み原稿には見向きもされず、恋人の鉄子(片瀬那奈)には愛想を尽かされ、人生の瀬戸際に立たされていた。そんなある日、日本に謎のウィルスが蔓延し、人々は“ZQN”(ゾキュン)と呼ばれる凶暴な生命体に変貌してしまう。“ZQN”と化した人々から訳も分からず逃げ出した英雄は、女子高生の比呂美(有村架純)と出会い、2人はウィルスが届かないとされる富士山を目指すのだが…。

(C)2016 映画「アイアムアヒーロー」製作委員会 (C)2009 花沢健吾/小学館

(C)2016 映画「アイアムアヒーロー」製作委員会 (C)2009 花沢健吾/小学館

本作における“ZQN”は、平たく言えばゾンビだ。原作を含め、劇中でゾンビという単語が使われることはないが、「過去の記憶に生き、ひたすら人間を貪る」という“ZQN”の性質は、本質的にゾンビと同じである。というわけで、本作を批評するにあたっては、ゾンビ映画を引き合いに出さざるを得ない。はっきり言って、既存のゾンビ映画と比較して、本作が絶対的な差別化を実現しているかと問われれば、そうとは言えない。

本作には、ゾンビに強力な運動神経を与えた『ドーン・オブ・ザ・デッド』、コメディ色全開で見る者の爆笑を誘った『ゾンビランド』、ゾンビに恋愛感情を与えた『ウォーム・ボディーズ』など、飽和状態にあったゾンビ映画の間口を広げた作品が有していたオリジナリティは存在しないし、ストーリーにも観客を驚かせるような展開はなく、寧ろ主人公サイドにとっての都合の良さが目立つ。しかし、である。本作は特筆すべき個性や展開はなくとも、不思議と観客をひきつけ続ける。その背景にあるのは、「作り手たちの熱意」に他ならない。

この熱意をけん引するのが、主演を務めた大泉洋だ。大泉は、原作の英雄との親和性が極めて高い。見比べると良く分かるのだが、そもそも大泉は英雄にとても似ているのだ。失礼だが、間の抜けた顔、言いようのない情けなさが漂う雰囲気、そしてダサさを感じさせる一挙手一投足は、原作の英雄がスクリーンの中で動いていると錯覚させるほどである。

劇中で英雄は何度か成長を見せるタイミングがあるのだが、彼はことごとくそのチャンスを逃す。その姿には辟易させられることもあるが、大泉が見せる情感に満ちた英雄の姿は、人々を救う「英雄」とはかけ離れた、ちっぽけな男としてのリアリティに満ちており、「あなたなら、この瞬間に動けるだろうか?」という問いかけと共に、観客の心を揺り動かす。

(C)2016 映画「アイアムアヒーロー」製作委員会 (C)2009 花沢健吾/小学館

(C)2016 映画「アイアムアヒーロー」製作委員会 (C)2009 花沢健吾/小学館

大泉の脇を固めるキャスト陣でも、ヒロインを務めた有村架純、そして英雄と共に戦う藪を演じた長澤まさみの姿は、腐った肉と血に満ちた本作を瑞々しく彩る。有村が扮する比呂美は、ヒロインでありながら、極めてヒロインらしからぬ状況に追いやられるのだが、その姿は実に儚げで、「守りたい」と思わずにいられない。本作を含め、『映画 ビリギャル』や『僕だけがいない街』など、話題作への出演が相次ぐ有村だが、それぞれの作品で演技のアプローチを差別化し、個々のキャラクターを確立できているのが素晴らしい。

一方の長澤は、男顔負けの戦闘力を持つ「戦士」として“ZQN”をなぎ倒していく藪を好演。快活な姿とは対照的に、内に秘めた複雑な葛藤も表現し、観客が応援できる第二のヒロインとしての藪を成立させている。激しいアクションもこなし、今までの「可愛いさ」が際立っていた自身のイメージに、「かっこよさ」という新たな彩を加えた。

キャスト陣に加え、メガホンを取った佐藤信介監督を中心とするスタッフの頑張りにも拍手を送りたい。邦画では避けられがちなゴア表現を多分に含んだ映像は近年の邦画でも稀に見るほど質が良く、英雄が藪と出会うショッピングモールの美術もディテールに富んでいる。また、緊張と緩和を活用したギャグの数々や、意外なあの人が扮するカメオの“ZQN”は効果的な笑いを生んでいるのもグッド。

(C)2016 映画「アイアムアヒーロー」製作委員会 (C)2009 花沢健吾/小学館

(C)2016 映画「アイアムアヒーロー」製作委員会 (C)2009 花沢健吾/小学館

近年、邦画業界は極めて安直な薄利多売を繰り返してきた。その中心にいたのが、コミックの実写化作品だ。浅薄で深みのない恋愛を描く少女漫画の実写化作品。原作のエッセンスを殺し、稚拙なCG技術を露見する少年漫画の実写化作品。これらの作品は、原作ファンと興味本位の観客の動員によって、ある程度の興行収入を見込める。しかし、根底にある商業主義が透けて見えるがために、人々の心を揺り動かす力強さは持っていなかった。

こうした批判に対して、ある監督は逆切れ気味に「製作費が少ないからしょうがない」という、作り手のプライドを微塵も感じさせない言葉を吐いた。筆者はこうした現状にほとほと呆れていたため、コミックの実写映画には微塵も期待していなかった。しかし、佐藤監督は本作を、力強いパフォーマンスを見せたキャストと共に、観客の心を揺り動かす物語として完成させた。この功績は過小評価されるべきではないし、「面白く、しかも金になる」作風を確立させた彼には、他の作品を犠牲にしてでも、本作の続編を制作する機会が与えられるべきだ。

(文:岸豊)


映画『アイアムアヒーロー』

大ヒット上映中

出演:大泉洋
有村架純/吉沢悠 岡田義徳
片瀬那奈 片桐仁 マキタスポーツ 塚地武雅 徳井優
長澤まさみ

原作:花沢健吾「アイアムアヒーロー」(小学館「ビッグコミックスピリッツ」連載中)
監督:佐藤信介
脚本:野木亜紀子
音楽:Nima Fakhara

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アーティスト情報

大泉洋

生年月日1973年4月3日(46歳)
星座おひつじ座
出生地北海道江別市

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片瀬那奈

生年月日1981年11月7日(37歳)
星座さそり座
出生地東京都

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