ジェイク・ギレンホール主演映画『サウスポー』―この俳優には本当に驚かされっぱなし【連載コラム Vol.6】

映画ライター・新谷里映が心動かされた、本当に観て欲しい映画たちを連載コラムでお届け。

第6回目は『ナイトクローラー』の怪演も記憶に新しい、ジェイク・ギレンホール主演の映画『サウスポー』。プロボクサー役として体も役もストイックに作りこまれた、ギレンホールらしさがまたしても十二分に発揮された一作。


Artwork(C) 2015 The Weinstein Company LLC. All Rights Reserved.

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リメイクはオリジナルを、続編は一作目を越えることは難しいと言われているけれど、ちょうど半年前に『クリード チャンプを継ぐ男』を観て、『ロッキー』シリーズを越える越えないではなく、サブタイトルが物語るように“受け継ぐ”という形もあるのだと知った。『サウスポー』もオリジナルの『チャンプ』('79)を別の形で受け継いだ作品。心が震えた──。

ボクシングのような個人戦のスポーツを題材にした映画を観たくなるのは、そこに個人が乗り越えなければならないものがあって、それは人生のいろいろな場面に置き換えられる=共感できるから。ボクシングにまったく興味がなかったとしても、主人公の“乗り越えなければならない”ドラマが一緒に描かれることで感動してしまうのだ。

Artwork(C) 2015 The Weinstein Company LLC. All Rights Reserved.

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『サウスポー』は最愛の妻を失ったボクシングの元チャンピオンが、一度はどん底に落ちながらも、ひとり娘のためにもう一度リングに立ち、自分自身と向きあい、家族を取り戻していく物語。よくある話ではある。それでもスクリーンにのめり込んでしまうのは、やはり主人公の乗り越えようとする努力だったり、彼を支える人たちの愛だったり、キャラクターの感情に心が大きく動かされるからだ。

主人公・ビリー・“ザ・グレート”・ホープを演じるのは、ジェイク・ギレンホール。この俳優には本当に驚かされっぱなしだ。俳優にはいろいろなタイプがあって、たとえばトム・クルーズのように、どんな役を演じても大スター“トム・クルーズ”として役を成立させてしまう凄さもあれば、このジェイク・ギレンホールのように「この俳優ってこんな顔だった?」と、本来の自分を消してしまえる凄さもある。ギレンホールは最近特にその凄さが増している。

一昨年の『ナイトクローラー』では、不気味という言葉では表現しきれないほどの強烈な不気味さで、スクープの為ならどんなことも厭わない、狂気をはらんだキャラクターをみごとに演じきった。今回はボクサーの光と影──愛する妻を亡くした悲しみと絶望、父親として遺された娘を守りたいけれどそれができない葛藤と苦悩、元チャンピオンの堕落からの再起……。本当のボクサーのドキュメンタリーを観ているかのような、それほどの説得力でビリーを演じている。

Artwork(C) 2015 The Weinstein Company LLC. All Rights Reserved.

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もちろんその背景には徹底的な役づくりがあって、約6ヵ月間にわたるトレーニングでボクサーのテクニック、フィジカル、メンタルを作り上げていった。ただ、それはあくまでもベースであり、そこからビリー・“ザ・グレート”・ホープをリアルにスクリーンのなかで生かす、それがギレンホールの演技派と言われるゆえん。もう、124分間ずっと彼から目が離せなかった。

ビリーの妻モーリーン役のレイチェル・マクアダムスも素晴らしかった。登場シーンは限られているものの、ビリーに愛され、亡くなった後も彼のなかで生き続ける──。ギレンホールの演じるビリーのなかに存在し続ける、目には見えなくても存在感を残すことはどう考えたって難しい。そこにもやはり驚くべき役づくりがあって、ボクサーの妻の心情を理解するために彼女自身もボクシングのトレーニングをしたという。

Artwork(C) 2015 The Weinstein Company LLC. All Rights Reserved.

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モーリーンのセリフから何とも言えないリアリティと愛を感じるのは、マクアダムス自身がボクシングはどんなものか知っているからだった。と同時に、同性としては「こんなふうに全身全霊でパートナーを愛せる女になりたい」と憧れるだろう。モーリーンはそれほど魅力的な女性なのだ。そして思うのは、愛の力はとてつもなく大きいということ。だから女性にも観てほしい。もしもボクサーの映画だからといってこの『サウスポー』が鑑賞候補から外れてしまっているとしたら言いたい。女性にも、いや……女性にこそ響く映画だと。

(文・新谷里映)

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新谷里映

フリーライター、映画ライター、コラムニスト
新谷里映

情報誌、ファッション誌、音楽誌の編集部に所属、様々なジャンルの企画&編集に携わり、2005年3月、映画ライターとして独立。 独立後は、映画や音楽などのエンターテイメントを中心に雑誌やウェブにコラムやインタビューを寄稿中。

【tumblr】新谷里映/Rie Shintani 

映画『サウスポー』
大ヒット上映中

出演:ジェイク・ギレンホール、フォレスト・ウィテカー、ナオミ・ハリス、カーティス・“50Cent”・ジャクソン、ウーナ・ローレンス、レイチェル・マクアダムス、スカイラン・ブルックス、ボー・ナップ、ヴィクター・オルティス、リタ・オラ、ミゲル・ゴメス
監督:アントワーン・フークア
脚本:カート・サッター
製作:アントワーン・フークア、トッド・ブラック、ジェイソン・ブルメンタル、スティーヴ・ティッシュ、アラン・リッシュ、ピーター・リッシュ
キャスティング:メアリー・ヴァーニュー、リンジー・グレアム
音楽監修:ジョン・フーリアン
作曲:ジェームズ・ホーナー
編集:ジョン・ルフーア
撮影:マウロ・フィオーレ

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