「僕の中ではこんな『らしい』ものはない」―映画『団地』斎藤工×阪本順治監督インタビュー

斎藤工と阪本順治監督

斎藤工と阪本順治監督

『団地』は、痛快かつ深遠な、思いもかけない映画である。そこには、現代に対する批評性があり、物事を新しい視点から見つめる契機が含まれている。だが、なんなのだ、これは。たとえば、わたしたちはそれを、「SF」と呼んでもいいのかもしれない。

たしかに阪本順治監督の第2作『鉄拳』にはSFの要素もあった。だが、阪本監督のキャリアを俯瞰するならば、彼が2000年の傑作『顔』の藤山直美と再タッグを組むときに「SF」を撮ったという事実に驚かざるをえない。

阪本:僕のなかにずっとあったんですよ。僕の映画を観続けてくれてる人には違和感があったり、『らしくない』と思われるかもしれないけど。僕の中ではこんな『らしい』ものはない。藤山さんともう一回やるということで(そこに)導かれたんですよ。藤山さんと何をすれば面白いか。前作(『顔』)の延長線上ではなく、まったく別な場所に連れていくにはどうしたらいいか。そこで自分の幼少時代を遡って、オレのなかにはまだ答えを出していないものがあったなと。人が亡くなったら、どこに行くんだ? だったら、こういうふうに人の死を考えたら、どうだろう? タイミング的にはベストだったかなと。スタッフにも「SF? そんなものに興味があったの?」と不思議がられた時期もあったんだけど。藤山直美で何、しよう?というところからにわかに、ほんと排泄するかのように台本書けたんでね。

(C)2016「団地」製作委員会

(C)2016「団地」製作委員会

団地でひっそりと暮らす初老の夫婦。ある一件で、夫は引きこもりに。妻は平然と日々を生きるが、団地の人々は噂を立てはじめる。「あの奥さん、旦那さんを殺したんじゃあ……」。ただの妄想がひとり歩きして、マスコミまでがやって来る展開は、SNSの炎上などに象徴される現代特有の「病」にも思える。昭和の風情を置き去りにしたままの団地の様子が、むしろそれを引き立たせる。ところが映画は、想像をはるかに超えた世界へと観客を連れ去っていく。そのキーマンになるのが斎藤工扮する謎の青年だ。

斎藤:僕が役者を始めた年に『顔』が劇場公開で、衝撃を受けて。うちの父がもともと阪本さんのファンで。デビュー(作の『どついたるねん』)から、『阪本順治はヤバいぞ』と刷り込まれていたんですけど。でも、役者をやる上で、阪本組の土俵に上がれるのかというのはずっと疑問で、(役者として)自分が生きる場所はどこなんだろう? ということも含めて、映画が好きだけどテレビのほうが合っているんじゃないかとか、もっとライトな場所に自分のニーズがあるんじゃないかとか、いろいろ考えた15年だったんです。そしたら今回、こういうかたちで、僕が感じていた違和感を活かして土俵に上げてくださった。僕からしたら、たぶん、この手段しか、そこに上がりようがなかった気がしました。

(C)2016「団地」製作委員会

(C)2016「団地」製作委員会

違和感。物語におけるこの違和感がいかなる理由によるものかをここで明かすわけにはいかないが、斎藤工という俳優に元々備わっていたこの違和感を自作に取り込んだ監督の着眼は、まさにナイスアイデアである。斎藤が「その役」を演じたからこそ、この「SF」は成立しているし、「その役」を演じたことで、斎藤の俳優としての可能性や魅力はさらに花開いていく予感がある。

阪本:努力とか、そんなことより、普段何を考えてるのかなあって。若い俳優に対してはそこが気になるんですよ。いまはブログとか覗けば、本人の言葉が書いてあるから。それで装っているのか、そうでないかはわかるわけで。すると、(映画)『竜馬暗殺』と原田芳雄さんに対する想いがすごかった。たぶん(取り上げたのは)1回きりじゃなかったと思うんだけど。それを読んだときに、若いのに原田芳雄に惹きつけられるんだ、この人は、と。そういうのがいちばんの信頼度に繋がったかな。もし、やっていただけるのなら、他の監督さんとはやっていないこと=未経験のことをしてもらわないと意味ないっていうのはありました。だから、今回の役をオファーしたんですけど。(今回の役は)大阪で言うところの『すべりつづける男』なんだけど(笑)。だけど、そこも今回の映画の色合いから言えば、斎藤君が言うから面白いんですよ。

(C)2016「団地」製作委員会

(C)2016「団地」製作委員会

そう。この役は、斎藤工が演じているから愛おしくなる。映画そのものも愛おしくなる。

阪本:なるでしょ? そこのズレみたいなもの。彼の見え方が変わるということも含めて、映画に必要なことだったし。大楠(道代)さん、(石橋)蓮司さん、岸部(一徳)さんはずっと原田さんのそばにいた人ですから(この3人が共演した阪本監督作『大鹿村騒動記』は原田芳雄の最後の主演作となった。原田と阪本は、『どついたるねん』以来のつきあいであった)。そういう意味ではいろんな縁(えにし)も感じたし。原田さんは(この映画には)いないけど、この中に入った斎藤君がその(みんなの)熱にあてられて、面白くなるんじゃないかなあって。

斎藤:いやあ……ほんとに、芳雄さんのおかげです。

斎藤は無類の映画好きである。

斎藤:映画を観てきたことが、自分みたいなタイプにとっては苦しいことでもあるんですよね。自分のプレイヤーとしてのフィールドと、好きな映画、ATGの映画を観て育ったところがあるんで。そことの、埋まらない溝と闘い続けた15年でもあったんですけど(苦笑)。監督自身も未経験のものを作り続けていらっしゃって。それを映画マジック、新しい魔法をかけていらっしゃる。その巡り合わせに立ち会えたことが、すごく幸福だったと思います。

(C)2016「団地」製作委員会

(C)2016「団地」製作委員会

SFというものはそういうものだが、観る人によって、受けとり方は様々だろう。むしろ、そこにこそ、本作の存在意義はある。

阪本:そこはもうお客さんに期待するしかないんですよ。だから、楽に楽しんでいただければ、という言い方しかしないけど、(映画を観た)その人が、自分の物語を作ってくれればいいなあって思うし。いろんな見方ができる映画だとは思ってますよ。僕のメッセージは、斎藤君の台詞の中に入れてある。でも、それは、作り手の言いたかったことを言ったにすぎず、それを額面通りに受けてくれるのも嬉しいし、全然違う部分で映画的マジックの中で違うメッセージを受けとってもらってもいいし。いつも思うんですが、観た人が、帰り際に『もうひとつの物語』を自分の中で作ってくれたら嬉しいなって。

斎藤:このポスタービジュアルから劇場に足を運んだ人は、間違いなく度肝を抜かれると思うんですけど。でも、帰り道だったり、観ている間に、たぶん、自分の家族とか、自分の物語のことを考えるんじゃないかなって。そこが阪本マジックだと思いますし。いやあ、面白かったんですよね。阪本さんと藤山直美さんが揃ったら、どんなものが生まれるのか。『顔』は奇跡的だったんじゃないかという気持ちもどこかにあったんですけど、『団地』を観たときに、テイストは違うんですけど、全然『顔』に負けないくらい面白いなと思って。監督はおっしゃっていたけど、直美さんをどれだけ遠くに連れて行けるか……とんでもないところまで行っちゃいますからね(笑)。

(C)2016「団地」製作委員会

(C)2016「団地」製作委員会

阪本:阪本と藤山の頭文字とって『SF』なんですよ(笑)。偉そうに言うと、60前のおっさん(現在57歳)がこんな遠くに行っちゃったんだよ、というのを若い監督に示したいな。でも、この次が問題だよな(笑)。

阪本順治は遠くに行った。斎藤工も遠くに行った。今度はあなたが遠くに行く番だ。

(取材・文:相田冬二)


映画『団地』
大ヒット上映中

脚本・監督:阪本順治
出演:藤山直美、岸部一徳、大楠道代、石橋蓮司/斎藤工、冨浦智嗣/竹内都子、濱田マリ、原田麻由、滝裕可里/宅間孝行、小笠原弘晃/三浦誠己、麿赤兒
製作・配給:キノフィルムズ
2016年/日本/カラー/103分/ビスタサイズ/5.1ch

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アーティスト情報

阪本順治

生年月日1958年10月1日(60歳)
星座てんびん座
出生地大阪府

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斎藤工

生年月日1981年8月22日(37歳)
星座しし座
出生地東京都

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