映画『ふきげんな過去』二階堂ふみ×前田司郎監督インタビュー「わからないままでいたほうが本物になれる」

二階堂ふみと前田司郎監督

二階堂ふみと前田司郎監督

前田司郎監督の第2作『ふきげんな過去』は「わからない」映画である。井浦新と窪塚洋介主演の前作『ジ、エクストリーム、スキヤキ』からの転換も感じるが、何がどう違うのかも「わからない」。

前田:正直、まだわかんなくて。1年ぐらい経って、もう1回観てみないとわからない、というのが正直なところかな。まだ判断できないって感じです。

今回の主演は小泉今日子と二階堂ふみ。つまり、男ふたりの物語から、女性ふたりの物語への変化がとりあえずはある。ふきげんな夏休みを送る女子高生、果子(かこ)の前に、死んだと伝えられていた伯母、未来子(みきこ)があらわれる。そうして、「過去」と「未来」をめぐる不思議な風情が出現する。それは、小泉と二階堂の接近遭遇でしか生まれなかったものに思える。

(C)2016「ふきげんな過去」製作委員会

(C)2016「ふきげんな過去」製作委員会

前田:僕、基本、(ひとつの)役は誰がやってもいいと思ってるんですけど、でもやる人によって全然違ってくる。それが逆だとつまんなくて。(その役を)誰かがやらなきゃいけないとか、誰がやっても同じ役になっちゃうっていうのはたぶんつまんなくて。二階堂さんがやったから果子はたぶんああいうふうになった。(脚本を)書いてるときは、この人(キャラクター)、どういう人なんだろうとわかんなくて書いてて(笑)。リハーサルして、実際本番になって。カメラの前でみんなが演技して。(そこで初めて)果子ってこういう人だったんだ、未来子ってこういう人だったんだというのが、なんとなく見えてくる。でも、なんとなく……かな。最後までわかんなかったよね?

二階堂:わからなかった(笑)

前田:(笑)

二階堂:どんな人か?と訊かれると、ちょっとよくわからないですね。

前田:たぶん、「どんな人」って決めてやっちゃうと、つまんない。「それ」をやろうとしちゃったら、つまんないもんね。

(C)2016「ふきげんな過去」製作委員会

(C)2016「ふきげんな過去」製作委員会

これは「わからないこと」が面白い映画である。だが、演じ手は「わからない」まま演じることが大変ではないのだろうか。しかし、二階堂ふみはけろりと答える。

二階堂:大変じゃないです。(役のことが)わからなくてもできます。(この映画は)わからなくてもできる現場でした。でも、普段も「この人、こういう人です」って、考えないですね。

前田:じゃ、友達にもそう?

二階堂:友達?

前田:(この)友達は「こういう人だ」とか。

二階堂:あんまり考えないです。

前田:俺もそうかも。

二階堂:どんな人でもあんまり興味ないというか(笑)

前田:あ、そっちか(笑)

二階堂:この人がどんな人だから、どうこう、っということはなくて。友達だとまた違うかもしれないんですけど、この子と一緒にいると(自分は)こうだなみたいなことのほうがいい、というか。この子は私といるとこうなるなみたいなことの方がよくて。だから、お芝居もそういうことなのかなあって思うんですけど。

(C)2016「ふきげんな過去」製作委員会

(C)2016「ふきげんな過去」製作委員会

つまり、キャラクターを演じるのではなく、関係性を演じる。いや、もっと、淡いもの。細やかなニュアンスではなく、大らかなムードのような、断定できぬものが、そこにはあるのかもしれない。

二階堂:私がやるとこんな感じかなあって。監督がさっき仰ってたように。でも小泉さんとご一緒できたことは念願だったので、念願叶ってご一緒して、あ、未来子って小泉さんなんだなあって思ったり。

前田:最終的にはそこ(二階堂と小泉というキャスティング)にはまって動かなくなっちゃう感じ。最初はふわふわしてたんだけど、映画が完成すると、もうこの役はこの人、ってかっちりはまる感じですね。役者なり監督なりが考えて造形した人物って結局、ひとりの人間が理屈で考えた人間だから、実際に何十年か生きてきて、その人に成った人に較べると、やっぱり陳腐になっちゃう。たぶん、そういう作り方をしないほうがよくて。二階堂さんが果子をやったんだけど、二階堂さんがいままで20年ぐらいしか生きてないけど、その中でいろいろあったことがたぶんそのまま役になってる。本物の木を使った、というか。偽物の木ではなくて。本物を使った。そんなふうになれたんじゃないかな。そういうふうだといいなあ。役者さんがそうやってくれてても、こっちがぶち壊すこともあるだろうから……1年経って、どう感じるかですね。

(C)2016「ふきげんな過去」製作委員会

(C)2016「ふきげんな過去」製作委員会

前田監督の話はそんなふうに入口に戻った。するりと、ふっと。この感覚は『ふきげんな過去』という映画そのものに流れているものだ。いわゆる「達成感」のようなものが似合わない作品だが、そうしたものはあったのだろうか。

二階堂:なかったですね(笑)。いつの間にか始まって、いつの間にか終わった感じで。

まさに、この対談がいま、そうなりつつある。

二階堂:ほとんど笑ってない映画なんですよね。それこそ、(果子という役は)ずっとふきげんだし、たまに本気でキレたりしていて。ああ、でもこういう時期(自分にも)あった気がするなあっていうか。たぶん、観てる方々にとっても、こういう一瞬ってあった気がするなあという感じがするので。なので(芝居を)やったぞ! という感じではなくて、するっ、するっと。映画って監督の人柄が出るなあと思うんですけど、ほんと、前田さんの現場らしい現場だったなと。

前田:そうなんだ。もっとパリッとした監督だと、パリッとした現場になるんだ?

二階堂:そう、パリッとしますよ。香ばしい監督だと(現場も)香ばしくなります。

(C)2016「ふきげんな過去」製作委員会

(C)2016「ふきげんな過去」製作委員会

いつの間にか始まって、いつの間にか終わる。

前田:映画って、いつ終わるのかがわからなくて(笑)。撮り終えても編集があるし、編集してからも完成披露(試写会イベント)があったり、公開があって、公開が終わったと思ってもまだ続いてる、みたいな。いつ終わるのかがわかんない。不思議な感じですね。(舞台とは)すっきり感が違うかもしれない。小説も書いて本になったら終わるんですけど。売れてる作家だとまた違うのかな。そっから映画化とかがあったりして(笑)

二階堂:私はあんまりそういうことは思わないですね。そういうこと(時間差)も含めて映画だと思っているので。

前田:いちばん「終わった!」って感じるのは、撮影のクランクアップ?

二階堂:いや、公開のときです。

前田:あ、そこなんだ。

二階堂:(撮影という)ひとつの作業が終わって、俳優部は離れて、その後、仕上げがあって、(映画が完成したときに)久しぶりに再会して。こういう作品ができたのかって。(撮影していたときとは)全然違う自分になって観ますから。それから、いろんな人に観ていただきたいのでプロモーションをする。それも映画の醍醐味なのかなあと思ってるんですけど。

前田:その気持ちの持って行き方が映画人だね(笑)。僕なんかは撮り終わったら「終わった!」とか思っちゃって。

二階堂:あ、「現場、終わった!」っていう感覚はありますよ。

前田:でも、最終的なゴールは公開なんでしょ?

二階堂:公開されるまではある種の緊張感がありますね。ああ、終わったな、と、まず現場で感じて、そのあと、公開したあとに感じるんです。公開すると、完全に自分たちの手許から離れていったな、って感じがします。それまでは取材とかで、自分のものかのように話すわけじゃないですか。それがなくなって、やっと。

前田:なるほどね。そういう気持ちで(僕も)これから臨めばいいわけだね(笑) 

(C)2016「ふきげんな過去」製作委員会

(C)2016「ふきげんな過去」製作委員会

いつの間にか始まって、いつの間にか終わった撮影現場。出来上がった映画は、その感触とは落差があるのだろうか。

二階堂:いや、なかったですね。でも、予想以上に面白かったというか。

前田:小さく見積もってたんじゃないの(笑)

二階堂:いや、そんなことないです!(笑)。面白い作品にはなるんだろうなとは思ってたんですけど。わ、こんな面白いもの出来上がっちゃったんだ、と思って。なんか、ほんとはもっと苦労して、大変でした、でも、すごいのが出来ました、っていうのがわりと美しいお話なのかもしれないんですけど。暑くもなく寒くもなく、わーいと現場、行っていたら、めちゃくちゃいいの出来ちゃった!、みたいな。前田さん、すごいなと、あらためて。濃厚なんだけど、さらっとしてる。ゆずヨーグルトシャーベットみたいな。

前田:これとこれ、かけちゃった、みたいなね。

二階堂:かけたけど、さっぱりしてて美味しい。で、さわやか。

前田:こってり、さわやか。

素晴らしい比喩である。まさに『ふきげんな過去』はそのようにしか形容できないものである。

(C)2016「ふきげんな過去」製作委員会

(C)2016「ふきげんな過去」製作委員会

前田司郎の監督作品は『ジ、エクストリーム、スキヤキ』もそうだったが、要約させてはくれない。ストーリーが道しるべにはならない。言葉が追いつかないし、立ち行かない。かといって難解なわけではない。平易に流れていくのだが、非凡なのである。ゆずヨーグルトシャーベットのように。

だからこそ、面白い。手に入らないからこそ、価値がある。

前田:具体的には、自分が死んでから50年後くらいまで残るもの。できれば100年残りたい。だから普遍的なもの。「いま」を切り取ったものとか、ニュースとして価値があるものではなくて、人間っていうものの変わらない部分が描ければいいなっっていうのが目標としてあって。もう少し漠然としたことで言うと、言葉で掬えないところがあって。たとえば「ふきげん」も、人によって「ふきげん」の感覚は違うし、社会に対して抱いてる「怒り」も、「怒り」という言葉にすると共有できるような気がするけど、でも(人間は)腹の中を割って見てもわからないわけだから。その「怒り」を言葉じゃなくて、漠然としたもので捉えたい。それが芸術なんじゃないかなと思っていて。他のジャンルでもそうなんですけど、言葉というブロックで組むとーーたとえば円を作るときに、ブロックだと、円ではなく多角形になる。やっぱり言葉ってロジカルだから、どうしてもそういうふうになっちゃうんですけど。芸術だともっとなめらかな円が描けるんじゃないか。それ(芸術)を使って、人間の感情とか感覚とか雰囲気とか、そういうものを表現できないかなと思ってます。

二階堂ふみと前田司郎監督

(取材・文:相田冬二)


映画『ふきげんな過去』
6月25日(土)テアトル新宿他全国ロードショー

小泉今日子、二階堂ふみ
高良健吾、山田望叶、兵藤公美、山田裕貴 / 大竹まこと、きたろう、斉木しげる / 黒川芽以、梅沢昌代、板尾創路

監督・脚本:前田司郎
音楽:岡田 徹
主題歌:佐藤奈々子「花の夜」
製作:「ふきげんな過去」製作委員会
企画:キングレコード
制作・配給:東京テアトル(創立70周年記念作品)
制作協力:キリシマ1945
宣伝:ブリッジヘッド、ブラウニー
2016年/日本/120分/5.1ch/ビスタ/カラー/デジタル

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アーティスト情報

二階堂ふみ

生年月日1994年9月21日(24歳)
星座おとめ座
出生地沖縄県那覇市

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小泉今日子

生年月日1966年2月4日(53歳)
星座みずがめ座
出生地神奈川県厚木市

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