氷川竜介が選ぶ「明日からモノの見え方が変わるアニメ映画」10本

すべてを人の手で描くアニメーションには、絵にメッセージがこもる。アニメ研究家の氷川竜介さんが選んだ「見知った風景や日常が違ったものに見えてくる」10作品には、アニメならではの魅力がたっぷり!

※ピックアップ作品は、2012年末に発行された『シネマハンドブック2013』掲載のものとなります。ご了承ください。


氷川竜介が選ぶ「明日からモノの見え方が変わるアニメ映画」10本

東京ゴッドファーザーズ

『千年女優』に続く、今敏の監督第3作。現代の東京に生きるホームレス3人組が、聖夜に見つけた捨て子の親捜しに奔走するなかで、数々の奇跡に遭遇する。

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機動警察パトレイバー 劇場版

OVAとして始まったシリーズの劇場版第1作。人型作業ロボット“レイバー”の暴走事件を追う警視庁特車二課の面々が、巨大な計画犯罪に巻き込まれていく。

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デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!

モンスター育成ゲームの劇場用アニメ第2弾。突如インターネット上に出現した邪悪なデジモンにより混乱に陥った世界を救うため、少年たちが戦う。

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空飛ぶゆうれい船

街で暴れ出したロボットにより両親を亡くした少年が、事件を陰で操作し政治を動かす巨大企業の恐るべき正体に迫っていく。原作は石ノ森章太郎による短編漫画。

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ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序

人気アニメを再構築した新劇場版第1作。人型兵器、エヴァンゲリオンのパイロットとなった少年少女たちと、謎の敵、使徒との戦闘を、大迫力の映像で描く。

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マイマイ新子と千年の魔法

芥川賞作家、樹のぶ子の自伝的小説を基にした感動作。おでこにマイマイ(つむじ)のある少女が、祖父から千年前の話を聞き、その時代の人々を空想する。

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秒速5センチメートル

一組の男女のすれ違う思いとそれぞれの成長を美しくも切なく描いたラブストーリー。監督の希望で使用された山崎まさよしの主題歌も物語を盛り上げる。

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イヴの時間 劇場版

人間型ロボットが実用化された世界で、「人間とロボットを区別しない」というルールを掲げる喫茶店“イヴの時間”を舞台に、異種との共存が描かれる。

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ヒックとドラゴン

『リロ&スティッチ』の監督コンビが描く、偉大なバイキングを父に持つ臆病な少年と、傷ついたドラゴンという、敵対する種族間に芽生えた友情の物語。

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イリュージョニスト

仏の映画監督ジャック・タチが娘へ遺した脚本をアニメ化。50年代のパリを舞台に、時代に取り残された老手品師と貧しい少女の交流をつづる。

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『東京ゴッドファーザーズ』―バックに描かれたビルの窓やドアが“顔”に見える

東京ゴッドファーザーズ

『東京ゴッドファーザーズ』

この作品は今敏監督自身の超絶な画力で、背景画に“だまし絵”を仕掛けています。乳飲み子を抱えて右往左往するホームレスの涙ぐましい活躍の場面では、バックに描かれたビルの窓が目、ドアが口と、“顔”に見える構図で切り取られている場面ばかり。八百万の神は姿を変え、東京の街に溶け込んで人の営みを見つめているという、非凡な発想なんです。

風景もまた生きているという、表面的な言葉を超えた表現ができるのも、絵で何かを伝えるアニメならではの魅力。ドタバタを見つめるこの視線に気づくと、見慣れた街の風景も違って見えるはず。

『機動警察パトレイバー 劇場版』―バブル崩壊後、押井守監督の先見性にうなりました

『機動警察パトレイバー 劇場版』

『機動警察パトレイバー 劇場版』

これが作られたのは、バブル最盛期の'89年。押井守監督は、その浮かれた様子への異議申し立てを風景に託して訴えたのです。OSにウイルスを仕込んでテロを企てた犯人は、映画冒頭で自殺。二人の刑事が猛暑のなか、犯人の転居先を追ううちに、無言の背景のなかからダイイングメッセージが明らかになっていく緊張感がすごいです。

東京の古く懐かしい風景が壊され、無節操に味気ない高層ビルへ置き換えられていいのか、そう問いかけているんです。バブル崩壊後、その先見性にうなりました。今でも取り壊し工事を見るたび、この場面を思い出します。

『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』―『サマーウォーズ』の原点となった作品です

'00年、細田守監督が子ども向けに作った映画で、『サマーウォーズ』の原点になりました。ネット世界に発生した“悪意”の影響による生活の混乱を、モンスターとの戦いに置き換えて表現しています。広大な世界は膨大なインフラとネットによって支えられている。そんな目に見えにくいものに流れる、国境を越えた人々の善意こそが大事という視点は、21世紀になってより身近になりました。日々、膨大なデータがインフラに流れるネット時代ですが、そこにも希望などポジティブな気持ちが乗っかっていてほしいなと、よく思います。

『空飛ぶゆうれい船』―戦車と戦闘機の交戦による恐怖感をリアルに描いています

『空飛ぶゆうれい船』

『空飛ぶゆうれい船』

人間を溶かす毒物がジュースに混入され、CMソングによる洗脳効果で大衆に広がってしまう。怪事件の裏には軍需産業と食品を扱う複合企業がいて、政府も関与した巨大な陰謀をにおわせる内容です。生活の安全性を誰かに委ねてしまって大丈夫なのかと、日常を再点検したくなる気持ちは、今に通じますね。

アニメーター時代の宮崎駿さんも参加。都市の中に突如として巨大ロボットが侵入したため、国民を守るはずの戦車と戦闘機がいきなり無差別に交戦し始めるという恐怖感を、巧みな構図と作画でリアルに描き抜いているのも大きな魅力の作品です。

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』―CGでビル群が立体的に動くようになってビックリ!

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』

'07年からの『新劇場版』では、CGが導入されたことでエヴァの表現が充実しています。第1部『序』でビックリしたのは、CGで立体的に動くようになった第3新東京市のビル群。地下から地上へとスライドしたり、使徒の侵入時に外装を変えて武器が出たり、変化にあふれた映像です。

庵野秀明総監督にとって、都市とは全体が仕掛けたっぷりの秘密基地であり、敵と戦う変身ヒーローなんでしょうね。CGによる説得力はすごいものがあって、映画が終わって外に出たとたん、高層マンションが今にも沈み出しそうに見えて二度ビックリしました。

『マイマイ新子と千年の魔法』―過去があたかも同時存在するかのように描かれる

『マイマイ新子と千年の魔法』

『マイマイ新子と千年の魔法』

主人公たちが生活する舞台は、50年くらい前('55年)の山口県防府の田園風景。ところがそこに広がる麦畑は千年前、清少納言の少女時代に都だった場所の跡地なんです。過去は決して失われたものではなく、あたかも同時存在しているかのように描いている点がユニーク。過去と未来の流れに浮かぶピンポイントが“現在”ですから、過去は土地や人の中に生きているんですね。

子どもなりの考え方で、失われかけた“あした”を見つけていく物語から、そう思います。自分では少し嫌いだった子ども時代や学生時代が、改めて好きになれました。

『秒速5センチメートル』―雲の美しさをじっくり観察したくなります

『秒速5センチメートル』

『秒速5センチメートル』

桜の花びらが落下する速度が題名ということに象徴されていますが、思春期のふわっとした目線で見る生活ディテールを、すさまじい観察力によってアニメで再現し抜いた映像ばかりです。さすが『ほしのこえ』で鮮烈なデビューを果たした新海誠監督の作品です。

電車の連結器が揺れる微妙な動き、冷えきった待合室の空気感と流れていく二人だけの時間などなど、これはまさに映像詩。雲の中をロケットの光が突き抜けていくシーンは平面の絵なのに立体感があって、圧巻でした。時々、空を見上げては雲の美しさをじっくり観察したくなる映画です。

『イヴの時間 劇場版』―人間の思い込みをユーモラスな筆致で浮き彫りにする

『イヴの時間 劇場版』

『イヴの時間 劇場版』

人間と同居する人間そっくりのアンドロイド。その両者の軋轢から生まれる関係性と感情というテーマは、スマフォなど次第に機械が高度化して発達している現在、いろんなものに置き換えることが可能でしょう。若手作家、吉浦康裕監督は、ユーモラスな筆致で人間の思い込みを浮き彫りにしています。身近にいる人や動物、あるいは機械との関係も、ふと冷静に視点を変えて見直せば、幸せになれるかも。

『ヒックとドラゴン』―ドラゴンの習性が“ネコ”として描かれる、ネコ好き必見の映画

『ヒックとドラゴン』

『ヒックとドラゴン』

本来は敵であったドラゴンとバイキング少年が、仲よくなることで周囲を変えるCGアニメです。空気感など映像表現も見事ですが、なんと言ってもドラゴンの習性が“ネコ”として描かれているのがネコ飼いにはたまらない。上下関係のはっきりしたイヌとは違い、ネコは独立した対等のパートナー。ウチのネコとももっと仲よくなれないかな、なんてつい考えたりする、ネコ好き必見の映画です。

『イリュージョニスト』―観客の錯覚を応用する点でアニメは手品に近い

『イリュージョニスト』

『イリュージョニスト』

アニメは観客の錯覚を応用する点で、もともと手品に近いものなんです。ジャック・タチが遺した脚本を、ショメ監督はそう読み解いたに違いありません。本作ではTVが舞台ショーを駆逐する時代設定と、老手品師を魔法使いと誤解して慕った女の子がリアルな恋愛に傾く展開が意味深です。手描きアニメがCGに取って代わられる時代性の暗喩にも見える。アニメ自体が違う風に見えてくる、深い作品です。


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プロフィール

氷川竜介

1958年兵庫県生まれ。アニメと特撮についての執筆を中心に活動し、理系的な分析力で作品の魅力と本質を探る。文化庁メディア芸術祭アニメーション部門歴代審査委員。明治大学大学院客員教授。

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