【レビュー】『DOPE/ドープ!!』―ブラック・カルチャーのイメージを覆す、オタク系黒人映画

(C) 2015 That's Dope, LLC. All Rights Reserved.

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最高に「ドープな」青春コメディ

アメリカ英語のスラング(俗語)として良く用いられる“DOPE”という言葉には、「娯楽目的のドラッグ」「アホな奴」「クールである」という3つの意味がある。『ソウル・メイト』(日本未公開)や『ブラウン・シュガー』(日本未公開)で知られるリック・ファムイーワ監督の『DOPE/ドープ!!』は、「ドラッグ」が物語の起点となり、「アホな奴」が次々と登場する、最高に「クール」な、つまりあらゆる意味で「ドープな」青春コメディだ。

主人公のマルコム(シャメイク・ムーア)は、90年代のヒップホップを愛し、親友のジブ(トニー・レヴォロリ)、ディギー(カーシー・クレモンズ)と共にバンド活動をして平和に暮らしている高校生だ。ある日、マルコムはドラッグの売人であるドム(エイサップ・ロッキー)とひょんなことから親しくなってしまい、彼のパーティーに招かれる。密かに好意を寄せるナキーア(ゾーイ・クラヴィッツ)と共に楽しい時間を過ごすマルコムだったが、警察の手入れが入ってドミニクは逮捕され、パーティーはお開きに。翌朝、学校に登校したマルコムは、自分のバックパックに大量のコカインと銃が入っていることを発見する。謎の人物から電話を受けたマルコムは、指示に従ってコカインを運ぶのだが、電話の主はドミニクの仲間ではなく…。

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アメリカ映画における黒人文化(ブラック・カルチャー)というものは、ギャングスタラップ、あるいはギャングそのもの、はたまた銃やドラッグといった、一般的にはネガティブなイメージを抱かれる要素によって構成されているものだが、本作の主人公マルコムは、これらと一線を画す存在だ。というのもマルコムは、90年代のヒップホップを愛する、真面目なギーク(オタク)なのである。彼は周囲に気を使って生きる心優しい青年であり、好成績を維持して大学に行くことを夢見ながら、たちの悪い不良に絡まれては逃げ、時にはギャングのパシリをする日々を送っている。既存のアメリカ映画では、黒人はひとまとめに「ノリの良いお調子者」としてブランディングされてしまいがちだが、マルコムはこうした凝り固まった既存の黒人に対するイメージから大きく逸脱した青年なのだ。

斬新な主人公の登場によって、鑑賞者は自然と物語に引き込まれるが、マルコムの鞄にコカインが紛れ込んだことをきっかけに、本作は卓越したコメディ性と大胆な転調を見せ始める。この展開において目を見張るのが、メガホンを取ると同時に脚本も執筆したファムイーワ監督が披露する、見事なストーリーテリングだ。通常、どんなジャンルの映画にも一種の型があり、「この展開の次にはこの展開が続く」という風に、映画を見慣れている人間なら予想できてしまうものなのだが、ファムイーワ監督は「顔の見えない第3者」をストーリーに組み込むことで、予期せぬ展開を生む三つ巴の構図を形成し、これに行動が予想できないアホな登場人物を次々と放り込み、思わず笑ってしまうギャグを挿入しながら複雑に絡み合わせることによって、物語の謎性、さらには魅力を巧みに高めていく。

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大胆で独創的なストーリーもさることながら、キャストのパフォーマンスもグッド。主演のムーアは、情けなく弱弱しい表情がマルコムというキャラクターと親和しているだけでなく、その童貞臭さも素晴らしい。シャネル・イマン扮する、エロくて綺麗なお姉さんのリリーと見せる絡みは、オチを含めてニヤニヤせずにいられない。そして、あのレニー・クラヴィッツの娘で、セクシーでキュートなナキーアに扮したゾーイ・クラヴィッツも最高。物語を通じて漂わせ続ける色気にはクラクラ来てしまうし、マルコム同様に目標に向かってひた向きに頑張るその姿は、自然と応援したくなってしまう。そんなクラヴィッツとムーアが織り成すマルコムとナキーアのロマンスも、前半はコメディとミステリー、終盤はサスペンスの色が強いメインプロットの脇を、要所要所で締めるサブプロットとして、効果的に機能している。

また、スプリットスクリーン、ヒップホップ・モンタージュ、はたまた第4の壁の破壊など、映像・作劇の技術を随所に組み込んだ結果、観客を飽きさせることがない構成も素晴らしい。製作総指揮として参加したファレル・ウィリアムズが監修したオリジナル・サウンドトラックにも、キャッチーなメロディとメッセージ性に満ちたリリックが調和した良曲の数々が並んでいるし、黒人俳優の代表格である某スター(その名前はエンド・クレジットで確かめてみよう)が披露したナレーションも味わい深い。

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終盤にかけては、自身のリュックに紛れ込んだドラッグを捌くことを強制されるマルコムが、見事な手法で黒幕の鼻を明かし、自らの目標を達成する姿がクールに描かれる。その過程には、教育上非常に宜しくない描写もあるのだが、これは「黒人に対する既存のイメージや、観客の予想の破壊」という本作のテーマを象徴しており、結果的に観客は本作に対して、「ドープな映画だぜ!」と叫ぶこととなる。

ハリウッドの青春映画では、白人を主人公とする作品が圧倒的に多い。そもそも、黒人を主人公とする映画は、白人のそれと比較して、圧倒的に少ないのが現状だ。昨今のハリウッドでは、昨年のアカデミー賞における黒人へのノミネーションの少なさがその象徴だったように、至上命題とされている多様性の拡大が、建前に過ぎないと実感させられることが多い。それ故に、黒人が主人公の青春映画として、愉快でクールな、つまり「ドープな」物語を紡いだ本作は、その愉快でバカバカしいストーリー性からは考えられない程に価値のある作品と言えるのだ。ファムイーワ監督には、今後も引き続き「ドープな」作品を作り続けて、歪んだハリウッドの人種観に一石を投じてもらいたいものだ。

(文:岸豊)


映画『DOPE/ドープ!!』
7月30日(土)より渋谷HUMAXシネマにて公開中
8月13日(土)よりシネマート心斎橋にて
他全国順次公開

監督/脚本:リック・ファムイーワ
製作総指揮:ファレル・ウィリアムズ、マイケル・Y・チョウ、リック・ファムイーワ、デヴィッド・ロンナー
プロデューサー:フォレスト・ウィテカー、ニーナ・ヤン・ボンジョヴィ、PGA
共同製作総指揮:ショーン・コムズ撮影:レイチェル・モリソン美術:スコット・ファルコナー
オープン・ロード・フィルム製作
CAST:シャメイク・ムーア、トニー・レヴォロリ、カーシー・クレモンズ、ゾーイ・クラヴィッツ、ブレイク・アンダーソン、エイサップ・ロッキー、リック・フォックス、タイガ、キース・スタンフィールド、ヴィンス・ステイプルス、ケイシー・ヴェジーズ、シャネル・イマン、クインシー・ブラウン、ロジャー・グーンヴァー・スミス
2015年/アメリカ/103分/原題:DOPE
提供:パルコ配給:ビーズインターナショナル
協力:ソニー・ミュージック ジャパン インターナショナル

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