【レビュー】『グッバイ、サマー』―はぐれ者2人が歩む、愉快で切ない夏の旅路

(c)Partizan Films- Studiocanal 2015

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抱きしめたくなるような青春ロード・ムービー

ミシェル・ゴンドリー監督は、ファンタジカルな世界観と美しい映像が融合したラブストーリーで知られる。『エターナル・サンシャイン』では、記憶の消去が可能となった世界をモチーフに男女が織り成す切ない恋愛模様を描き、『恋愛睡眠のすすめ』では夢と現実の混同をテーマに男女の恋愛模様を軽やかに描いた。そして、『ムード・インディゴ うたかたの日々』でも、やはり幻想的な世界をベースに、心優しい男女が織り成す悲恋を描いた。「幻想と恋愛」というテーマがアイコンになりつつあるゴンドリー監督だが、最新作『グッバイ,サマー』は一味違う。というのも本作は、学校のはぐれ者2人が歩む、自由と切なさに満ちた夏の旅路を、ゴンドリー監督自身の思い出を基に描いた青春映画なのだ。

物語の舞台は、フランスのパリ。主人公のダニエル(アンジュ・ダルジャン)は、クラスメイトのローラ(ディアーヌ・ベニエ)に恋心を抱く、可愛らしく繊細な少年だ。ある日、ダニエルのクラスに、テオ(テオフィル・バケ)という名前の風変わりな少年が転校生として加わる。初めこそ浮いていたテオだったが、ふとしたことからダニエルはテオと親友になる。そうして迎えた夏休み。2人は退屈な日々から抜け出すために、「動くログハウス」を協力して作り、家出を決行する…。

先述した作品群でも観客を惹きつけるキャラクターを数々登場させてきたゴンドリー監督は、本作でもその手腕を発揮している。ダルジャン扮する主人公のダニエルは、とにかくその可愛らしさが素晴らしい。透明感と澄んだ瞳は見る者を吸い込むような美しさを放っているが、その一方で男らしさや個性の欠落に対する失望、さらには人生に対する実存的不安といったネガティブな思考は、かつて彼と同じようにそうした悩みを抱えていた観客に感情移入を促す。もう一人の主人公であるテオは、ダニエルとは全く異なる魅力に満ちている。機械いじりが大好きな姿は少年らしいが、年齢を感じさせない達観に基づく思想は大人をも唸らせるし、落ち込む友達を笑わせる優しさも持ち合わせている。しかし、その背後にはいささかショッキングな家族との不和、そして孤独や悲しみといった負の感情が隠されており、これが彼に人間としての奥行きを与えている。

(c)Partizan Films- Studiocanal 2015

(c)Partizan Films- Studiocanal 2015

大人たるもの、旅立つ前には入念な計画を立てるものだ。しかし、ダニエルとテオは「林間学校を目指す」という目標以外は、これといったプランを立てず、きまぐれに旅を進めていく。この無計画性こそが少年性を象徴する要素であり、これがあるからこそ、観客は少年(あるいは少女)だった自分を2人に重ね合わせたり、彼らに対する憧憬を抱くことができる。旅路の中では、フランスらしいユーモアとアイロニーがブレンドされた笑いだけでなく、なかなか強烈なものが描かれているのが面白い。特に笑えるのが、女の子のような容姿に悩み続けたダニエルが、一念発起して散髪に向かうシークエンスだ。街の不良に追われて迷い込んだダニエルは、美容院を装った風俗店(なぜか店員が日本人なのも笑える)にたどり着くのだが、このいかがわしさの塊のような美容院で施される衝撃的なヘアーチェンジには、誰もが爆笑することだろう。

プロダクション・デザイナーを務めたステファヌ・ローザンボームの仕事ぶりも秀逸だ。『ムード・インディゴ うたかたの日々』でも劇中美術を担当した彼女は、世界観を180度異にする本作でも、物語と調和した見事なデザインを披露している。序盤で映し出される、少年らしく無秩序に彩られた子供部屋は、かつて「少年だった」大人たちの心をくすぐるし、品のないネオンの灯りに満ちた美容院(という名の風俗店)は、その独特な空間設計が一笑いを誘う。そして何よりも素晴らしいのは、「動くログハウス」のデザインだ。あくまでも少年2人が作るものなので、そのデザインに「大人の感性」を持ち込むことは許されない。洗練されたデザインや、効率を考えた機能があってはならないのである。ローザンボームはこれを踏まえた上で、外装や内装、そして思わぬギミックに至るまで、「無駄が目立ちながらも子供らしさを感じさせる設計」を落とし込み、さまざまな無駄やバカっぽさを味付けしつつ、誰もが思わず「乗りたい!」と思ってしまうような、魅力的な「動くログハウス」を完成させている。

仲良く旅路を歩む2人だが、時には喧嘩もする。この理由が、少年らしい「些細なもの」ではなく、びっくりするような大事件なのが面白い。しかし、2人は曲がりなりにも旅を歩み終え、精神的に大きな成長を遂げて、再び平和な日常へと戻っていくのだった…。普通の映画なら、ここで物語は終わりを迎えるはずだ。しかし、ゴンドリー監督はこれまでもそうだったように、ありがちな展開で物語の幕を閉じることをしない。彼はラストに観客が予想だにしない悲劇を挿入して、この青春譚を完結させるのだ。後引くほろ苦さが加わることによって、本作はより一層、味わい深い作品になっている。また、ラストシーンで描かれるダニエルとテオの友情の不変性には、吹き出してしまうと同時に、少しばかり目頭が熱くなってしまった。

ゴンドリー監督が、これまでの作品とは異なる世界観をベースに、魅力的なキャラクターと美術、そしてありがちな展開の否定によって紡ぎ出したひと夏の冒険は、愉快でありながらも切なく、思わず抱きしめたくなってしまうほどに愛らしかった。映画界において夏という季節は、往々にして大作ひしめくシーズンだ。激しい戦いを繰り広げる、巨大な怪物やスーパーヒーローを応援するのも楽しい。しかし、本作のように平和な日常を繊細なタッチで描いた小品を見るのも、それはまたいいものである。

(文:岸豊)


映画『グッバイ、サマー』
公開中

出演:アンジュ・ダルジャン、テオフィル・バケ、オドレイ・トトゥ『アメリ』
監督・脚本:ミシェル・ゴンドリー
2015年/フランス/104分/DCP/原題:Microbe et Gasoil/日本語字幕:星加久実
提供:シネマライズ+トランスフォーマー
配給:トランスフォーマー
宣伝:ミラクルヴォイス

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アーティスト情報

ミシェル・ゴンドリー

生年月日1963年5月8日(56歳)
星座おうし座
出生地仏・ベルサイユ

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