【レビュー】映画『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』―「リーチャーの娘」がもたらした好影響と悪影響。

 

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年頃の「娘」に手こずるリーチャーの姿は面白いが…。

中年男がお年頃の娘に振り回される姿は面白いものだ。それは、たとえダメ男であっても、最高にハードボイルドな男であっても、変わらないことである。リー・チャイルドによる小説シリーズを基に、元陸軍のエリート指揮官で、流れ者となった男:ジャック・リーチャーが、アメリカ社会に潜む悪党を懲らしめる姿を描いたアクション映画『アウトロー』。その続編であり、11月11日に全国公開を迎えた『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』は、リーチャーの新たな戦い、そして彼と娘の関係を描く作品だ。

とある町で人身売買事件を解決したジャック・リーチャー(トム・クルーズ)は、友であり後任者だったスーザン・ターナー少佐(コビー・スマルダーズ)を尋ねるため、ワシントンD.C.へ。しかし、リーチャーはターナー少佐が国家反逆罪で逮捕されたことを知る。ターナー少佐の潔白を証明しようと行動を開始するリーチャーだったが、彼も不当に逮捕され、ターナー少佐が収監されている刑務所に移送されることに。何とかターナー少佐と共に脱出したリーチャーは、民間軍事会社パラソースを束ねるハークネス将軍(ロバート・ネッパー)、そして将軍が放った殺し屋:ザ・ハンター(パトリック・ヒューシンガー)に命を狙われることになってしまう…。

 

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エドワード・ホッパーによる現代絵画『ナイトホークス』を彷彿させるオープニングは実に素晴らしい。ダイナーのカウンター席に腰かけたまま、高圧的で腐敗した小悪党の未来をズバリ言い当て、颯爽と立ち去るリーチャーの姿には、「待ってました!」と拍手を送りたくなった。その後、リーチャーはターナー少佐の救出に挑むことになるのだが、このシークエンスでは閉所でのスピード感溢れるアクション、そして思わぬタイミングで挿入されるジョークが、「緊張と弛緩」として巧く機能しており、観客は前作と同様、ハードボイルドながらも少しのジョークが込められた「ジャック・リーチャー」の世界観に引き込まれていく。

その後、リーチャーはターナー少佐の潔白を証明しようと奔走するのだが、ここで思わぬキャラクターが物語に参入する。そのキャラクターこそ、若手女優ダニカ・ヤロシュが演じる、サマンサという名の「リーチャーの娘」だ。彼女の母親とリーチャーの関係は曖昧なもので、実際に彼女が「リーチャーの娘」であるのか否かはエンディングに至るまで謎なのだが、サマンサはその大胆過ぎる性格で物語を盛り上げる。屈強な男ですらたじろぐオーラを湛えるリーチャーへの遠慮のない口答えはもちろん、「一体どこで学んだんだ」と突っ込みたくなるスリのテクニックや男のあしらい方は、リーチャーが繰り広げる危険に満ちた逃避行を上手くサポートし、随所で観客の笑いも生んでいる。

 

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サマンサがかき乱すストーリーの中で興味深いのは、前作ではひたすらハードボイルドな男だったリーチャーが、「父としての顔」を見せることだ。時には振り回され、時には罵られながらも、リーチャーは少しずつサマンサに父親として接するようになる。父親だった経験がない故に、その言動はぶっきらぼうになってしまいがちなのだが、サマンサを心配し、守ろうと決意を固めるリーチャーの横顔(クルーズの微笑みはどうしてあれほど優しいのだろう)は、前作では見ることができなかった彼の魅力として、観客を引き付けるものがある。ただ、サマンサの存在は、物語に対してこうした好影響のみならず、悪影響を生むことにも繋がってしまった。

迎えた終盤。リーチャーは真相にたどり着き、ハークネス将軍を追い詰めていく。この過程では、懸命に戦うリーチャー&ターナー少佐の姿と、アジトで暇そうに待機しているサマンサの姿がクロスカッティング気味に映し出されていくのだが、ここで問題が表面化する。というのも、サマンサはクライマックスにかけて、呆れてものが言えないような行動を取り、これがリーチャーの大ピンチを招いてしまうのだ。この行動に、何らかの「必然性」がある場合、つまり、リーチャーやターナー少佐を救うアクションになっていたり、ハークネス将軍が仕組んだ陰謀を解明することに寄与しているのであれば、彼女の行いは正当化され、ヒロインとしての株も上がる。しかし、このシーンでサマンサは、自分の欲求を満たしているだけで、その行為に必然性は伴っていない。

要するに、中盤まではコミックレリーフ的なヒロインとして効果的に機能していたサマンサは、終盤にかけては観客にとってのストレスにしかなっていないのである。しかも性質が悪いことに、彼女はそうした行動が危険を導くであろうことを、物語の序盤で学んでいるはずだ。そんな愚かとしか言いようがない彼女の危機を通じてリーチャーのピンチを描き、彼がこれを乗り越えることで観客の感動を呼び起こそうという稚拙な作劇には、正直に言って、唖然とするほかなかった。

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一見すると、プロットの欠点はサマンサだけに思えるのだが、物語の味付けを整える「スパイス」が欠落しているのも残念だ。前作では、帰還兵のジェームズ・バー(ジョセフ・シコラ)が企業の買収工作に利用される形で殺人犯に仕立て上げられ、この陰謀をバーと因縁があるリーチャーが、弁護士のヘレン(ロザムンド・パイク)と共に暴く姿が描かれた。その過程では、バーが抱える戦争の後遺症や、ヘレンと父で検事のロディン(リチャード・ジェンキンス)との親子関係の問題、さらには名優ロバート・デュヴァルが演じた射撃場のオーナー:マーティン・キャッシュとの絡み、そしてその後の共闘関係など、物語に旨味とコクを与える「スパイス」が多く見られた。

しかし本作には、前作のような「スパイス」がない。サブキャラクターたちが魅力的なドラマを紡いだり、ギャグとして機能したりといったことはほとんど見受けられなかった。これはやはり、物語が「リーチャーとサマンサの親子関係」にフォーカスしているからであるが、その関係の魅力が終盤にかけて高められているならまだしも、先述したように、杜撰な展開によって魅力が希薄化されてしまっているのだから困ったものだ。また、結局「美味しいところ」はリーチャーが全て持って行ってしまい、終盤にかけてのターナー少佐の活躍が矮小化している点も惜しまれる。前作の成功のおかげか、興行収入面では成功を収めているので、恐らく次回作が製作されることになるだろう。ジャック・リーチャーの一ファンとして、次こそは、一作目のように魅力あるストーリーを紡いでほしい。

(文:岸豊)


映画『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』
2016年11月11日(金)より全国公開

出演:トム・クルーズ、コビー・スマルダーズ『アベンジャーズ』、ダニカ・ヤロシュ『HEROS』、ロバート・ネッパー『プリズン・ブレイク』他
監督:エドワード・ズウィック(『ラストサムライ』『ブラッド・ダイヤモンド』)
脚本:エドワード・ズウィック、マーシャル・ハースコヴィッツ(『ラストサムライ』『トラフィック』)
製作:クリストファー・マッカリー『アウトロー』、トム・クルーズ、ドン・グレンジャー(『M:Iローグ・ネイション』『アウトロー』)
原作:リー・チャイルド「Never Go Back」(2013年、シリーズ18作目)
原題:『Jack Reacher Never Go Back』 北米公開: 2016年10月21日(金)
配給:東和ピクチャーズ

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