闘う男たちの新たな挑戦―映画『ミュージアム』大友啓史監督&小栗旬インタビュー

大友啓史監督、小栗旬

大友啓史監督、小栗旬

闘っている──大友啓史監督と俳優の小栗旬さんは日本映画界のなかで闘っている、挑戦し続けている。そんな彼らが初タッグを組んで挑むのは、巴亮介氏のサスペンススリラー漫画の映画化『ミュージアム』だ。映像化が極めて困難な題材であっても、挑戦する者にとって“困難”は“やり甲斐”へと変わる。闘う男たちの新たな挑戦を聞いた。

漫画の世界観を実写でどう表現するのか、キャラクターを任せられる俳優をいかにキャスティングできるか、漫画原作の映画化は困難な道のりがつきものだが、この『ミュージアム』は「驚くほどすべてがスムーズに進んだ」と大友監督は言う。主人公の刑事・沢村役を「小栗旬に演じてほしい」という希望が叶ったこともそのひとつであり、映画化が動き出す決め手となった。2人の出会いは20年前、NHKの大河ドラマ『秀吉』の頃に遡る。

「最初に小栗くんに会ったのは、『秀吉』で真田広之さんの演じた石田三成の子ども時代のオーディションでした。それから約10年後、1分間のショートドラマ『エル・ポポラッチがゆく!!』に出演してもらったことはありましたが、(NHKを退社し)映画監督になってからは一緒に仕事をしたことがなくて、いつか……と思っていた。そして『ミュージアム』の原作漫画を読んだとき、この主人公・沢村は小栗くんだ! まっさきに彼の顔が思い浮かんだんです」

(C) 巴亮介/講談社 (C) 2016映画「ミュージアム」製作委員会

(C) 巴亮介/講談社 (C) 2016映画「ミュージアム」製作委員会

オファーを受けた小栗さんは「素直に嬉しかったです」と喜ぶ一方で、原作を読み「キツいかもしれない……」と不安も抱いた。映画やドラマの出演数は数知れず、蜷川幸雄氏の舞台も経験している、さらに監督もこなす、そんな百戦錬磨であっても不安を抱くことはある。しかし、そこに挑戦するからこそ、多くの監督が、俳優が「小栗旬と仕事がしてみたい」と切望する。

「大友監督も言っていることですが、『ミュージアム』は『セブン』(ブラッド・ピット主演の1995年のアメリカ映画)のような映画ですよね。となると、正直ちょっとキツいかもしれないなと思いました。(自分自身の生活環境と映画のなかで演じる役の設定は別モノではあるけれど)、自分の子どもの年齢がもう少し大きかったら躊躇していたかもしれないです。沢村と彼の息子、自分と自分の娘を結びつけるリアリティはそれほど大きくないはずだ、そう思って撮影に臨みましたが、いざ現場で沢村を演じてみると、しんどかったです(苦笑)。でも、出来上がった映画を観て思ったのは、世のお父さんたちの応援歌になっている、そうなったらいいなと」

(C) 巴亮介/講談社 (C) 2016映画「ミュージアム」製作委員会

(C) 巴亮介/講談社 (C) 2016映画「ミュージアム」製作委員会

小栗さんが「しんどかった」ということのひとつは、殺人鬼のカエル男に追い込まれていく心理をどう理解するか。後半、カエル男に監禁されるシーンにおいては、現場とホテル以外は外出せず、さらに寝ない食べないという状況に身を置くことで、沢村の追い込まれている心理をつかもうとした。そして「ロケ地に救われた」と話す。

「撮影は新潟、大阪、東京の順で、地方での撮影が多かったんです。東京を離れる、家族と離れて撮影することは、この役を演じる上でありがたいことでした。2ヵ月間東京で撮影となると、沢村として、あんな(悲惨な)状態のまま家に帰って、妻や子どもに会いたくない……という気持ちもありましたから」。苦悩しながら沢村を演じる小栗さんを大友監督はどんなふうに見ていたのだろう。

「いつもは役者たちに、役に入り込んでくれ、とにかく入り込んでくれと追い込んでいきますが、この『ミュージアム』に関しては、どの役も入り込んでしまうとおかしくなる、役者にとって“一線”が大切だと思いました。とは言っても、監督としてつい追い込んでしまうんですが(苦笑)。ですから、たとえ追い込んでしまったとしても、一線を保てる役者であることが求められた。これはフィクションであるという認識、エンターテイメントを作っているんだという、現実と映画の世界の線引きのできるメンバーでないと完成しないなと。カエル男に追い込まれていく小栗くんもそうですが、追い込んでいく側、妻夫木(聡)くんの役も本当に難しかったはず。だって、狂っていますからね。理解しようと思った時点で袋小路にはまっていくので、カエル男に関しては、キャラクターの心情を理解しようとせず、彼は自分で“表現者=アーティスト”と言っているので、本当にアーティストだと思って演じたらどうかと提案しました」。カエル男のあの何とも言えない不気味さ、恐ろしさはそうやって創られていった。

(C) 巴亮介/講談社 (C) 2016映画「ミュージアム」製作委員会

(C) 巴亮介/講談社 (C) 2016映画「ミュージアム」製作委員会

雨の日に限って現れ、アーティストと名乗り、次々と猟奇的殺人を繰り返していくカエル男。彼を追っているはずが、いつの間にか追いつめられていく刑事の沢村。役柄としては敵対する間柄であり、撮影現場のほとんどが目を覆いたくなるシーンばかり。小栗さんは撮影が始まってすぐに“母の痛みを知りましょうの刑”の撮影を迎え「かなり陰惨な撮影現場で、これはもう、みんなで覚悟を決めて臨まなくてはならない」と思ったそうだが、撮影の後半に用意されたクライマックスの監禁シーンにおいては、ちょっと意外なこともあったと振り返る。

「実は、クライマックスのシーンは、妻夫木くんと尾野(真千子)さんと僕、セットの裏で3人並んでふつうに談笑していました。撮影の準備ができると「さあ、行こうか!」という感じで──ああ、僕らの仕事って、やっぱり面白いんだなぁと思いましたね。俳優さんのなかには、役に集中したいから共演者と話しをしない役づくりをされる方もいますし、その逆、以前ドラマ『BORDER』で大森南朋さんと共演したときは「役柄が犯人と刑事の関係だからって、一切しゃべらないとかそういうアプローチしないよね? マジでやめてね」と言われたことも(笑)。今回、妻夫木くんは、殺人鬼役なのに常にフラットでしたし、尾野さんは、さっきまで普通に話していたのに突然(スイッチが入って)大泣きできる女優さんで、その瞬間を目の前で見て、乗せているエンジンが違うなって。2人には驚かされました」。まさに、大友監督が望んだ、選ばれた精鋭。

(C) 巴亮介/講談社 (C) 2016映画「ミュージアム」製作委員会

(C) 巴亮介/講談社 (C) 2016映画「ミュージアム」製作委員会

大友監督といえば映像美にこだわる監督としても有名だ。この映画では、ドッグフードの刑、母の痛みを知りましょうの刑、均等の愛の刑、ずっと美しくの刑、針千本飲ますの刑……次々と生々しい事件現場が登場するが、それらを表現するために必要だったのは“におい”と“血なまぐささ”だと説明する。

「どれだけ技術が進歩して3Dや4Dになったとしても“におい”までは映らないんです。でも、この映画はにおってこないとならない、においが伝わらないとならなくて……。たとえば、それを表現するためにVFX処理でハエの数にこだわりました(笑)。ハエの数で観客の反応って変わるんです。あとは、血なまぐささ。この映画はえげつない世界を描いている。人間の心の裏にあるもの──信じたい気持ちを弄ぶというか、精神的にとてもSMチックなんです。韓国映画はその手の表現が巧いので、韓国映画のような血なまぐささ、実在感、肉体の存在感を取り込んでいきたかった」。日本人がそういうものを描いたらどうなるのかという実験(=挑戦)でもあり、小栗さんと妻夫木さんはその“肉体の存在感”を表現するために、身体を鍛えて撮影に臨んだ。

これまでの経験と新たな試みで沢村を演じた小栗さん。役と一体となることで見えてきたのは、沢村への憧れだった。

(C) 巴亮介/講談社 (C) 2016映画「ミュージアム」製作委員会

(C) 巴亮介/講談社 (C) 2016映画「ミュージアム」製作委員会

「脚本を読みながら、自分があの状況に置かれたらどうするのかを考えたとき、男として沢村に憧れを抱いたんですよね。沢村は仕事ばかりで家庭を顧みず、エクスキューズが足りなかったがゆえにああいう状況を生んでしまっているけれど、本当に一生懸命に仕事をしている。沢村が事件に、犯人に辿り着けたのは、彼が刑事を続けてきたからなんです。彼の生きてきた道があるからこそ家族を守るために戦えたと思うと、そこに憧れを抱いてしまって。そういえば、自分の父親も仕事ばっかりだったなぁと、重なったりもしました。男は誰もがそういうところに(仕事に没頭することに)憧れてしまうんですよね」

小栗さんの言葉に大友監督も大きく頷き、ヒーロー不在の世の中であるからこそ「せめてフィクションのなかでヒーロー像を追い求めたい」と、沢村に現代のヒーロー像を託した。

「これからは、イクメン(子育てする男性)が増えていく時代、そこに沢村のようなヒーロー像を見いだすことは難しいですが、『ダイ・ハード』シリーズでブルース・ウィリスが演じたヒーローのように、クリント・イーストウッドが演じてきたいくつものヒーローのように、自分の大切なものは自分で守る、傷だらけになりながらも、自分が守らなければならない最低限のものは自分で守る、そこに向かって行動していくヒーローが好きなんです。背中で語る男、ですね」。もちろん、その期待を受けて小栗さんは“背中で語る男”を格好良く演じ、また彼自身も「後半の方では、俺ってこんな顔をするのかと、見たことのない自分の顔を見ることができて、俳優にとって大きな財産になりました」と嬉しそうに語る。男も女もその背中に、その格好良さに惚れるだろう。そして、大友監督が最後の最後で仕掛けてくる衝撃のエンディングによって、この『ミュージアム』は“忘れられない”映画として刻まれる──。

(取材・文:新谷里映)


映画『ミュージアム』
11月12日(土)全国ロードショー

出演:小栗旬 尾野真千子 野村周平 丸山智己 田畑智子 市川実日子 伊武雅刀 / 大森南朋 松重豊 / 妻夫木聡
原作:巴亮介『ミュージアム』(講談社「ヤングマガジン」刊)
主題歌:ONE OK ROCK“Taking Off” (A-Sketch)
監督:大友啓史
脚本:髙橋泉 藤井清美 大友啓史
音楽:岩代太郎
製作:映画「ミュージアム」製作委員会
制作プロダクション:ツインズジャパン
配給:ワーナー・ブラザース映画

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生年月日1982年12月26日(36歳)
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