【レビュー】映画『海賊とよばれた男』 ―岡田准一の熱演と実力派キャストの名演に括目せよ!

(C)2016「海賊とよばれた男」製作委員会 (C)百田尚樹/講談社

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会社勤めをしている知人から、よく上司の愚痴を聞く。フリーランスで働いている身としては「大変だね」という相づちで済ませてしまうしかないのだが、もし自分が会社勤めをしているのなら…と想像してみると、やはり尊敬できる、そして「ついて行きたい」と思える上司の下で働きたいものだ。そういった意味で、岡田准一が12月10日より公開中の映画『海賊とよばれた男』で演じた国岡鐡造は、多くの人がついて行きたいと思える「理想の上司」だと感じた。

物語の舞台は、終戦後の日本。石油を主たる商材とする国岡商店の店主・国岡鐡造(岡田)は、敗戦の影響によって石油を扱うことができなくなっていた。ラジオの修理や漁業など、経験のない仕事に手を広げて店員たちに仕事を与え続けた鐡造は、アメリカに石油の輸出を再開させるため、旧海軍の燃料タンクに残された石油を掬いだす仕事を引き受ける。苦労の末にこれを片付けた国岡商店は、晴れて石油を扱うことが認められ、戦前と同様に快進撃を見せるのだが、彼らには海外企業を中心に形成された「石油メジャー」による包囲網が忍び寄っていた。そこで鐡造は、虎の子のタンカー・日承丸をイランのアバダンへ送り、石油を持ち帰ろうとするのだが…。

(C)2016「海賊とよばれた男」製作委員会 (C)百田尚樹/講談社

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百田尚樹による同名小説の映画版である本作のメガホンを取り、脚本を執筆したのは、山崎貴監督だ。『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズや、昨年に公開して大ヒットとなった岡田とのタッグ作『永遠の0』など、戦時・戦後期の昭和を題材とする作品の代名詞的な存在である山崎監督は、本作でもその手腕をいかんなく発揮している。定評のある映像表現は言わずもがなだが、やはり脚本が上手くまとまっている。原作は上下巻で900ページを超えるボリュームだったが、山崎監督は情報量を削減しつつ、国岡商店の社史において最もドラマティックなエピソードを中心に、物語をおよそ2時間半に圧縮。さらに、映画独自の要素(後述する長谷部喜雄の存在や、東雲忠司のキャラ変更)を組み込むことで、原作ファンにも見ごたえのあるストーリーに仕上げている。

俳優陣で特筆すべきは、主演の岡田が見せた熱演だ。岡田が演じる鐡造は、「黄金の奴隷たる勿れ」や「士魂商才」といった高い志を掲げ、「権力による統制」を否定し、「利潤の追求をしない」という、風変わりな経営者であると同時に、その人柄によって誰にでも敬愛されるカリスマ的な男でもある。人間として非常に良くできた、求心力のある役柄(モデルは出光興産の創始者・出光佐三)がしっかりはまる役者は少ないが、岡田は鐡造役をものにしてみせた。その要因となっているのは、岡田の肉体と精神から感じ取れる「厚み」にほかならない。

劇中では、20代から90代までの鐡造の姿が描かれるのだが、岡田の肉体は常に厚みを感じさせる。特に胸と腕の厚みは、アイドルとは思えないレベルだ。この厚みは、人の上に立つ者であり、石油産業を背負う者としての鐡造の姿に説得力を付与すると同時に、男としての魅力、いわば「頼れる男像」を感じさせる。もちろん、端正な顔立ちや凛とした声など、岡田が元から有する個性も活かされているが、男が憧れる男としての鐡造を演じるうえでは、この厚みこそが必要不可欠な要素である。

(C)2016「海賊とよばれた男」製作委員会 (C)百田尚樹/講談社

(C)2016「海賊とよばれた男」製作委員会 (C)百田尚樹/講談社

肉体的アプローチだけでなく、岡田は精神的アプローチでも魅せる。20代半ば、まだ商売が軌道に乗らない頃の鐡造は、経営者として未熟な部分があり、その未熟さは岡田のせりふ回しに確と表れている。しかし、海上営業という活路を見出して、関門海峡で暴れまわり、海賊と呼ばれるようになった後の鐡造を演じる岡田のせりふ回しは、自信に満ちた男としての力強さを感じさせる。そして、特殊メイクを用いながら演じた50代以降では、岡田の肉体的・精神的な厚みはより顕著になり、鐡造はまるで、巨木の幹のような逞しさを感じさせる男として完成される。「この人になら、ついて行きたい」「この人のためなら、どんな仕事だってできる」…そう部下に思わせるような人間としての厚みがあるからこそ、岡田が演じる鐡造は、部下を率いて魅了する「理想の上司」となりえたのである。

岡田だけでなく、岡田の脇を固める俳優陣の演技も秀逸。近藤正臣小林薫堤真一ピエール瀧野間口徹鈴木亮平といった実力派キャストの中でも、長谷部喜雄を演じた染谷将太と、東雲忠司を演じた吉岡秀隆に注目してほしい。長谷部は原作に登場しないキャラクターながら、本作では国岡商店のムードメーカーとしてのポジションを与えられた。若手でも屈指の実力を誇る染谷は、陽性の表現で一種のコミックレリーフとして長谷部を輝かせる一方で、時折見せるきりりとした姿からは、観客が思わず引き込まれるギャップを生んでいる。また、染谷が明るい青年として形作った長谷部に、戦争という人為的災禍の残り火が襲い掛かることによって、改めて戦争の無念さが示されるという展開も感慨深い。

(C)2016「海賊とよばれた男」製作委員会 (C)百田尚樹/講談社

(C)2016「海賊とよばれた男」製作委員会 (C)百田尚樹/講談社

一方、山崎組には欠かせない俳優と言っても過言ではない吉岡は、原作ではあまりキャラ立ちしていなかった東雲という役柄に、お得意の「情けない男」としての色合いをうまく落とし込み、効果的に存在感を高めている。また終盤で、店員を犠牲にしかねない要求を出す鐡造に対して、従軍者の立場(原作の設定では従軍していない)から東雲が発するセリフも印象的。原作では「東雲の人間的な弱さ」はあまり感じられなかったが、このセリフを含めて本作では吉岡の好演によってしっかりと打ち出されており、これに併せてキャラクターとしての奥行きも生まれた。

男だらけの映画で紅一点の輝きを放つ、鐡造の妻・ユキを演じた綾瀬はるかの存在にも言及すべきだろう。かっぽう着姿が実に愛らしく、その場に佇むだけで大変結構な綾瀬だが、優しさと切なさを感じさせる独白や、ふとした瞬間に見せる菩薩のようなほほ笑みなど、彼女だからこそなしえた表現は、男たちの熱演とは対照的に、控えめで柔らかな魅力を放っている。綾瀬が演じるユキは出番こそ少ないが、中盤で見せる自己犠牲がそこで単純に完結するのではなく、終盤にかけて非常にドラマティックな効果を生み、硬派な人間ドラマとしての本作に、ラブストーリーとしての側面を与えてくれているのが素晴らしい。控えめながら、美しく、人を惹きつける。ユキは、これぞ大和撫子というヒロインだ。

(C)2016「海賊とよばれた男」製作委員会 (C)百田尚樹/講談社

(C)2016「海賊とよばれた男」製作委員会 (C)百田尚樹/講談社

情報の削減と追加によって、常に抑揚があり、観客を退屈させない物語を築いた山崎監督の手腕。憧憬を抱かせるリーダーとしての主人公像を築いて、主演としての務めを果たした岡田。岡田の脇を占めたキャスト陣が見せる好演の数々…。監督とキャストのパフォーマンスがしっかりと噛み合った本作は、随所に見所がある、ハイレベルな歴史ドラマとして完成されている。迎えた終盤、鐡造が下す一世一代の決断と、これに従う男たちが繰り広げる、命がけの戦いには手に汗握ること間違いない。映画『海賊とよばれた男』は、2016年を締めくくるにふさわしい映画として、ぜひおすすめしたい作品だ。

(文・岸豊)


映画『海賊とよばれた男』
2017年7月5日(水)レンタル開始!

出演:岡田准一
吉岡秀隆 染谷将太 鈴木亮平 野間口徹 ピエール瀧
綾瀬はるか 堤真一 近藤正臣(特別出演)/國村隼 小林薫

監督・脚本・VFX:山崎貴
原作:百田尚樹『海賊とよばれた男(上下)』(講談社文庫)
音楽:佐藤直紀
配給:東宝
製作:「海賊とよばれた男」製作委員会
企画製作幹事:日本テレビ

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