【レビュー】映画『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』―既存の『スター・ウォーズ』作品とは異なる魅力を放つ前日譚

(C)Lucasfilm 2016

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希望を信じて散った、名もなき戦士たちへの鎮魂歌。

1977年に公開した『スター・ウォーズ』(後の『スター・ウォーズ エピソードIV/新たなる希望』)の冒頭で、レイア姫(故キャリー・フィッシャー)から帝国軍の秘密兵器「デス・スター」の設計図を託されたR2-D2とC-3POは、命からがらにダース・ベイダーの魔の手を逃れていた。このシークエンスでは多くの戦士が命を落としていたが、反乱軍が払った犠牲はこれに留まらない。現在公開中の映画『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』は、反乱軍がいかにして「デス・スター」の設計図を帝国軍から奪ったのかを明かすと同時に、希望を信じて散った名もなき戦士たちへ、およそ40年の時を超えてレクイエムを捧げる作品である。

物語は、『エピソードIV』の少し前から幕を開ける。「デス・スター」の完成と時を同じくして、主人公のジン・アーソ(フェリシティ・ジョーンズ)は反乱軍に連行されてしまう。「デス・スター」の開発を手掛けた科学者のゲイレン・アーソ(マッツ・ミケルセン)が父であることを知られていたジンは、自由と引き換えに、ゲイレンとの接触を望む反乱軍へ協力することに。仲間たちと共に任務を遂行する中で、父が密かに帝国軍を裏切っていたことを知った彼女は、帝国軍に潜入して「デス・スター」の設計図を奪うという、97.6%生還不可能なミッションに挑む…。

(C)Lucasfilm 2016

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本作の魅力を語り尽くすことは難しいので、本稿では脚本に着目する。担当したのは、『アバウト・ア・ボーイ』(監督・脚本)や『ライラの冒険 黄金の羅針盤』(監督・脚本)で知られるクリス・ワイツと、『ジェイソン・ボーン』シリーズ(脚本)や『フィクサー』(監督・脚本)などを手掛けてきたトニー・ギルロイだ。大衆的な娯楽作品を得意とする前者と、社会派サスペンスやスリラーでキャリアを積み上げてきた後者による作劇で興味深いのは、主人公であるジンに与えられた「孤独」である。というのも、彼女は『スター・ウォーズ』シリーズの中で最も孤独を感じさせる主人公であり、孤独であることによって特別な魅力を放つのだ。

シリーズにおける主人公の初出時の設定を振り返ってみよう。『スター・ウォーズ エピソードI/ファントム・メナス』『スター・ウォーズ エピソードIII/シスの復讐』の主人公だったアナキン・スカイウォーカーや、「エピソードIV」~『スター・ウォーズ エピソードVI/ジェダイの帰還』の主人公だったルーク・スカイウォーカーは、「父の不在」という孤独を抱えてはいたが、彼らには共に暮らす親族や新たな仲間がいた。2015年に公開された『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』の主人公だったレイは、孤独という点ではジンと共通するものの(女性の主人公という点でも共通する)、彼女はジンのように家族を奪われたわけではなく、あくまでも家族の帰りを待っているだけだった。

一方のジンだが、彼女は幼くして母を殺され、父を奪われ、故郷を追われてしまう(レイは「家族の不在」が示されただけだったが、ジンは「奪われる」プロセスが明確に描かれているのも大きな違いだ)。両親との別れ以降、ジンは反乱軍の過激派ソウ・ゲレラ(フォレスト・ウィテカー)に育てられるものの、彼女は十代半ばでソウとも別れ、一人で生きていくことを強いられた。つまりジンは、人生において孤独を味わい続けてきたのだ。この生い立ちが明かされることによって、観客にはジンを応援する気持ちが芽生える。

 

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劇中ではさらなる孤独を経験することとなるジンだが、彼女は悲しい境遇の押し売りによって感動を煽る「悲劇の主人公」ではない。ジンは新たな仲間との出会いを経ながら、「不屈の精神」を発揮することによって、自分しか向き合うことのできない孤独を受け止め、乗り越えていくのである。この孤独を軸とする力強いスピリットこそ、ジンが真の意味で魅力的な主人公たる所以だ。付け加えると、強力なフォースを持たないという設定も良い。ジンはジェダイではなく、あくまでも「普通の人間」であり、彼女は自身の気力と体力を振り絞って、ボロボロになりながら奮闘する。だからこそ、観客はジンに親近感を抱くことができるし、彼女の頑張りに心を動かされるのだ。

反乱軍に秘められた暗部にフォーカスすることによって、物語に厚みを与えている点でも、ワイツとギルロイは評価に値する。帝国軍は、「デス・スター」が象徴するように、思想から手口に至るまで凶悪なものばかりだ。しかし、反乱軍も絶対的な正義とは言えない。悪に染まった帝国軍に対抗するためには、反乱軍も少なからず汚い手を使わざるを得ないからだ。過去のシリーズ作品では、反乱軍が汚い手を使っているというダークな背景が描かれることはなかったが、本作には明確な言及が存在する。

特に印象的なのは、ジンと任務を共にする情報将校キャシアン・アンドー(ディエゴ・ルナ)の告白だ。劇中でも最もドラマティックなシーンで彼の口から発される言葉には、大義に伴う汚れ仕事の重要性と、これが生む悲しみが象徴されている。彼の告白によって、シリーズでは半ば絶対的な正義であるかのように描かれてきた反乱軍のイメージは少しだけ崩れ、これによって物語には独自の味わいと深みが生まれた。

(C)Lucasfilm 2016

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メインキャラクターの死を描くことが少ないのが『スター・ウォーズ』シリーズの特徴だが、先述した通り、本作は生還することがほぼ不可能なミッションに挑んだ戦士たちの姿を描く。つまり劇中では、その多くが犠牲となるのだ。ワイツとギルロイが巧みなのは、彼らの死を描くのみならず、その散り際から「希望のため」「仲間のため」といった思い、つまり自己犠牲の精神をしっかりと感じさせることだ。これによって、観客は仲間や大義のために死を享受するという尊い行いの美しさに浸ることができ、「設計図の奪還」という予め示されていた結末にも、予定調和な印象を感じることなく、心から感動することができる。

『スター・ウォーズ』シリーズで必ず登場してきたお約束の「オープニング・クロール」(あらすじの説明)とジョン・ウィリアムズによるテーマ曲の不在によって、本作は導入部でシリーズ作品との明確な差別化を宣言していた。これは、先述した「ジンのキャラクター」「反乱軍の暗部」「自己犠牲」といった要素によって、確かに実現されている。本稿ではワイツとギルロイによる脚本に焦点を当てたが、アクション映画『イップ・マン』シリーズで知られるドニー・イェンが演じた盲目の戦士チアルート・イムウェが見せる超絶アクションや、人種的な多様性に富むキャスティングなど、本作には既存の『スター・ウォーズ』作品では見ることができなかったオリジナリティも多い。結末がある程度予測できてしまうという性質からか、興行収入では『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』に後塵を拝しているが、総合的なクオリティでは引けを取らないどころか、上回っていると言っても過言ではないはずだ。2017年を迎え、「映画初め」にどの作品を選ぶか迷っている人は多いだろう。そんな人には、ぜひ本作を鑑賞してほしい。

(文:岸豊)


映画『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』
大ヒット公開中

監督:ギャレス・エドワーズ
製作:キャスリーン・ケネディ
出演:フェリシティ・ジョーンズ/ディエゴ・ルナ/ベン・メンデルソーン/ドニー・イェン/チアン・ウェン/フォレスト・ウィテカー/マッツ・ミケルセン/アラン・テュディック/リズ・アーメッド
原題:ROGUE ONE A STAR WARS STORY
配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン

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トニー・ギルロイ

生年月日1956年9月11日(62歳)
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ディエゴ・ルナ

生年月日1979年12月29日(38歳)
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