【深読み】金曜ロードショー『風の谷のナウシカ』のリアルすぎるメッセージ、「ストックホルム宣言」と「冷戦」!?

画像は「金曜ロードSHOW!」公式ページより引用

冬もジブリ1週目は『風の谷のナウシカ』※画像は「金曜ロードSHOW!」公式ページより引用

1月13日(金)放映の金曜ロードSHOW !「冬のジブリ」第1週目は、1984年公開の宮崎駿監督作品『風の谷のナウシカ』。スタジオジブリ設立前に制作された本作は、宮崎駿の原作漫画を映画化。戦争、環境問題、自然との共生など壮大で深淵なメッセージに満ちている。今回は、本作のなかでも大きなテーマとなっている「環境破壊」「戦争」を名セリフと共にひもといていく。公開から30年以上経った今、本作が私たちに訴えかけるメッセージとは?

“腐海”の二面性に隠されたメッセージ

ユパ「また村が一つ死んだ」

本作の世界観で大きな柱になるのは「腐海」の存在だ。巨大産業文明が崩壊した1,000年後、腐海と呼ばれる有毒の瘴気を発する菌類の森が広がり続ける舞台設定は、公開当時の環境問題と深い関わりがあるように思われる。

戦後の急激な高度経済成長は、高度で文化的な生活様式をもたらした一方、大気汚染や水質汚濁などの公害問題が発生。1970年代には日常生活から引き起こされる都市生活型公害で、一般市民も環境破壊の加害者となっていた。そして1972年に採択された「ストックホルム宣言」以降、天然資源の枯渇、地球温暖化、オゾン層の破壊と、環境汚染は地球規模で問題視されるようになっていく…。

本作で描かれる、腐海の浸食も世界規模での環境汚染がテーマとなっている。映画冒頭で、ユパがある村を訪れるシーンでも、大気は濁り、果て無く続く荒涼とした風景が映し出される。マスクをしなければ肺が腐ってしまう瘴気、胞子に覆われた骸骨、かわいらしい人形が粉々に砕け散る様は、ジブリ作品の中でも衝撃的なディストピアの描写だ。

本作全体を通して描かれる腐海の脅威は、環境破壊の加害者となりうる現代人への痛烈な警鐘でもある。

アスベル「泣いているのかい?」 ナウシカ「うん、うれしいの」

しかし腐海の存在は環境破壊のおぞましい結果として描かれると同時に、「自然との共生」を訴えかける。

映画中盤、腐海の真ん中で流砂に巻き込まれたナウシカとアスベル。その底には巨大な地下空間が存在していた…。そこでナウシカは、腐海の木々が人間が汚した世界を浄化していることに気が付く。人間の生活を脅かしていたと思われた腐海が、本当は人間を生かしていたことを知ったナウシカは、砂に横たわり涙を流す。

本作を通して、壮大に描かれる腐海の脅威。その裏に隠された自浄作用には、「人間は自然の中で生き、生かされている」という強いメッセージが込められている。そのメッセージは現代社会を生きる我々にも強く共鳴する部分があるのではないだろうか?

大国に翻弄される小国と、「憎しみ」の連鎖

クシャナ「腐海を焼き払い 再びこの大地をよみがえらすのだ!」

そして、本作でもう一つ大きなテーマとなっているのは「戦争」だ。そもそもの文明破壊を招いた原因も、巨神兵による「火の7日間」と呼ばれる最終戦争によるものだった。本作のクライマックスで描かれる復活した巨神兵の破壊力と軍事力は、核兵器を想起せずにはいられない。

公開当初の1980年代は、アメリカの西側陣営とソ連の東側陣営が核開発を進めていた「東西冷戦」の時代だ。1960年代には、朝鮮やベトナムで米ソの代理戦争が勃発。1970年以降「緊張緩和」は進んだものの、ソ連のアフガン侵攻や、イラン・イラク戦争が勃発するなど、冷戦の火種はアジア、中東、東欧など世界各地に飛び火していた。

本作で描かれる戦争には、そんな「冷戦」のように大国の思惑に揺れ動かされる小国の姿が映し出される。映画中盤ナウシカの生まれ故郷「風の谷」に軍事国家トルメキア帝国の大型船が墜落する。船内には「巨神兵」の繭が積み込まれていた。その巨神兵を復活させるため、トルメキア軍が「風の谷」に侵攻してくる。巨大な飛行艇、戦車、機関銃で弾圧される村人たち。そうして拘束された村人に対しトルメキア辺境派遣軍司令官クシャナは「巨神兵を復活させ、腐海を焼き払う」という演説を行う。高々と謳われた大国のイデオロギーを押し付けられるシーン。巨大な軍事力を前に従うしかない小国の悲惨な運命をまざまざと描いている。

さらにその後、トルメキアと対立するペジテの策略によって、トルメキア軍が駐留する「風の谷」に王蟲の大軍がけしかけられる。大義名分のもと、何の罪もない村人を巻き込んだ虐殺行為。「風の谷」の翻弄される姿には、フィクションの枠には収まらない現代的な戦争の生々しさを感じる。

ナウシカ「憎しみにかられて何をするかわからない もう誰も殺したくないのに」

そんな残酷でおぞましい展開がある一方で、本作で描かれるナウシカは「生命への愛」に満ちている。その姿は、世紀末的な世界の中、生き生きと映し出される。「風の谷」の村人に対する愛情はもちろん、腐海や蟲に対する慈しみ、畏敬の念。さらには侵略してきたクシャナの命までも助けるのだ。

しかし本作には、そんなナウシカが人を殺してしまうシーンも描かれる。それは「風の谷」に侵攻してきたトルメキア軍に、父親のジルを殺された場面。「生命への愛」が強いナウシカだからこそ、父親が殺された時の怒りはひとしお。怒りで髪は逆立ち、鬼の形相でトルメキアの軍人を何人も殴り殺していく。その後、ナウシカは「憎しみで、人を殺めてしまった自分が怖い」とユパに打ち明けるのだ。このシーンは、ナウシカの完璧すぎない人間性を表現すると共に、「憎しみ」という感情がいかに暴力の連鎖を巻き起こしていくかということを逆説的に示唆している。

「憎しみ」によって人を殺めてしまったナウシカ。だが、この経験はナウシカに生命の尊さをより実感させるものとなる。それが象徴されているのがクライマックス、王蟲の大軍の前にナウシカが降り立つシーンだ。子供を奪われ、怒り狂った王蟲の大軍。巨神兵の強大な力を持ってしても止められなかった王蟲の「憎しみ」に対して、ナウシカは丸腰で、真正面から向き合う。それは父親を殺された時の暴力的な態度とは真逆なものだ。「風の谷」、そして王蟲を守るため、「憎しみ」の連鎖を断ち切り自己犠牲も厭わないその姿にこそ、究極的な「生命への愛」が表現されているといえるだろう。

公開から30年、ナウシカが訴えかけるのは?

公開から30年以上たった今でも、本作の世界観は依然として現実世界を映し出す鏡のようだ。人口増加にともない深刻化する大気汚染や地球温暖化、資源の枯渇などの環境問題。また、思想の違いや貧富の格差から生じる戦争やテロの脅威。

そんな混沌とした問題を抱える現代人にとって、「自然との共生」を模索し、底知れぬ「生命への愛」を持ったナウシカの姿は美しく魅力的だ。人類が破壊し、支配しようとしてきた自然によって、私たちが生かされていること。「憎しみ」の連鎖が引き起こす暴力の恐ろしさと、それを断ち切るための献身的な「生命への愛」の尊さ。そんなナウシカの姿から感じるメッセージは、現代社会を生きる私たちにとって重要な指針となるのではないだろか。

今こそ、娯楽作品として楽しむだけではなく、ナウシカが訴えかけるメッセージに耳を傾けるべき時代なのかも知れない。

(文・nony)

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