【レビュー】映画『ネオン・デーモン』―エロくてグロくて美しい!デンマークの異端児が放つ今年NO.1の問題作

(C)2016, Space Rocket, Gaumont, Wild Bunch

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美に憑りつかれた女たちの末路を描くホラー映画

デンマーク出身のニコラス・ウィンディング・レフン監督は、『プッシャー』シリーズや『ブロンソン』『ヴァルハラ・ライジング』でキャリアを積み、『ドライヴ』で大ブレイク。鮮烈な映像表現を通じてロマンスと暴力を美しく描き出した同作は、世界中の映画ファンの心を奪った。その後、『オンリー・ゴッド』でカンヌ国際映画祭をはじめ、各国で賛否両論を巻き起こしたレフン監督は、世界を挑発するかのように、また新たな問題作を産み落とした。1月13日から公開中のレフン監督の最新作『ネオン・デーモン』は、ファッション業界に巣食う「美への執着」をモチーフに、現代に潜む悪魔たちの姿を描き出すホラー映画である。

物語の舞台はロサンゼルス。田舎町から上京してきたモデル志望の少女・ジェシー(エル・ファニング)は、一流のモデル事務所と契約を交わす。その後、メイクアップアーティストのルビー(ジェナ・マローン)や、心優しいボーイフレンドのディーン(カール・グルスマン)の助けを得ながら、著名なカメラマンに写真を撮られ、世界的デザイナーのショーに立つなど、次々と成功を収めていくジェシーだったが、彼女は自分の美貌を過信するようになった結果、他のモデルから嫉妬を買ってしまい、思わぬ窮地に立たされることになる…。

(C)2016, Space Rocket, Gaumont, Wild Bunch

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デビューから一貫して男性の物語を作ってきたレフン監督は、男性が男性に向ける暴力を無骨に(『プッシャー』シリーズ、『ヴァルハラ・ライジング』)、そしてスタイリッシュに(『ドライヴ』『オンリー・ゴッド』)描き出す映像表現を武器としてきた(『ブロンソン』は両方の色合いを持っている)。しかし、初めて女性の物語を手掛けた本作では、暴力表現を抑えつつ、ストレートに映像美を追求している。

極端なライティングと深みのある影が生むコントラストや、ネオンサインから放たれる蛍光色など、本作の映像には過去作で見受けられた特徴も受け継がれているが、ファッション誌の撮影やショーで使用する衣装および小道具など、これまで登場しなかった美の要素も加わった。これによって、レフン監督はフィルモグラフィーにおいて最もアーティスティックな映像を生むことに成功しており、次々に映し出される美しいシーンの数々は、観客の目を奪い続ける。

特に印象的なのは、ポスタービジュアルにも採用されているジェシーの姿だ。本作の世界観を象徴するかのような、エロティックでグロテスクで、それでもなお美しさを感じさせる「死体」(実際にはジェシーは生きている)が、その雰囲気と調和するよう絶妙に構築された背景美術とともに映し出される様は、圧倒的な芸術性を感じさせると同時に、観客の心を力強く掴むシークエンスとして効果的に機能している。

(C)2016, Space Rocket, Gaumont, Wild Bunch

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レフン監督のもとに集結したキャストも素晴らしい。主人公を務めたのは、『マレフィセント』や『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』で知られ、清純派女優として活躍してきたエル・ファニングである。透き通るような白い肌、丸みを帯びた輪郭、柔らかな輝きを放つ金髪…。その容姿がどこか純粋さと素朴さを感じさせるファニングは、「人形的な」造形が人々の羨望のまなざしを集めるものの、決定的な差別化要素を持たないために、デザイナーから注目を浴びることができないモデルたちを追い抜き、瞬く間にスターダムを駆け上がるというジェシーの設定に、ぴたりとはまっている。

劇中では、先輩モデルたちを押しのけて活躍を重ねるジェシーが、自身の美貌に溺れ、純粋な美少女から悪魔的な美女へ変身する姿も描かれる。この変身の過程で、ファニングは既存の「清純派女優」という自身のイメージを覆す表現力を持っていることを証明した。驚かされるのは、刺激的な瞳だ。美しさに絶対的な自信を持っていることが伺えるその瞳からは、突き抜けているがために嫌悪感すら抱きようがないナルシシズムと、思わず眩暈を覚えるほどの蠱惑という、これまでのファニングからは感じられなかったダークな魅力が発散されている。

(C)2016, Space Rocket, Gaumont, Wild Bunch

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ファニングに匹敵するインパクトを感じさせるマローンにも拍手を送りたい。『ハンガー・ゲーム』シリーズなどで知られるマローンが演じるルビーは、序盤から中盤にかけては、ジェシーにロサンゼルスでのクールなライフスタイルを提案する「親切なお姉さん」キャラとして魅力を振りまく。しかし、とある場面で彼女の特殊なセクシャリティが明かされることにより、観客が彼女に対して抱いていたイメージは一変する。これ以降、ルビーは内に秘めていた精神を大胆に開放していくのだが、この過程におけるマローンの演技が、実に淫らで、実に美しい。後半にかけてはジェシーを上回るほどの存在感を示しているルビーが、歪んだ性的欲求を満たすことによって見せる、恍惚の極地と言える表情は、一度見たら忘れられないほど強烈かつ奸濫な輝きを放っている。

劇中では、意味深に映し出されるシンボルの数々にも注目してほしい。レフン監督は、ジェシーの脳裏に奇妙な三角形を浮かび上がらせたり、彼女が暮らすモーテルの部屋に肉食獣を迷い込ませたりすることで、物語の緊張感や神秘性を高めているのだが、それと同時にジェシーの行く末も暗示しているのだ。終盤にかけては、特異なセクシャリティ、「美への執着」がこれらのシンボルと噛み合うことによって、なりを潜めていたレフン監督の暴力性が爆発する。その結果としてジェシーに与えられる結末は衝撃的と言うほかなく、カンヌ国際映画祭で多数からブーイングを浴びたことも頷けた。

(C)2016, Space Rocket, Gaumont, Wild Bunch

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ただ、レフン監督は浅薄にショッキングなラストを導いているのではない。彼は目をそらしたくなる毒性に加えて、目を奪われる映像美を共存させているので、筆者は後味の悪さだけではなく、その裏にある徹底した美意識の存在にも気づかされ、この二つの要素が溶け合うことで生まれる独特な余韻に魅了された。レフン監督が与えてくれたこの不思議な余韻は、初めてポルノを見た時に抱いた、罪の意識と喜びが入り混じった言いようのない感情に似ており、いけないと思いながらも「また見たい」と思わせる、背徳的な魅力に満ちたものだったのである。

ジェシー、そして彼女を取り巻く女性たちの姿を通じて、「美しさのためならば、女性は悪魔にもなりうる」というメッセージを挑発的に示したレフン監督は、「美についてのホラー映画」という新ジャンルを確立し、またしても世界を揺さぶった。はっきり言って、本作は誰にでもすすめられる映画ではないが、ファニングやマローンの好演を引き出し、自身のキャリアで最も美しい映像と、最も衝撃的なラストを紡いだデンマークの鬼才には、一映画ファンとして大きな拍手を送りたい。

(文:岸豊)


映画『ネオン・デーモン』
公開中

監督:ニコラス・ウィンディング・レフン 『ドライヴ』『オンリーゴッド』
出演:エル・ファニング、カール・グルスマン、ジェナ・マローン、ベラ・ヒースコート、アビー・リー and キアヌ・リーヴス
配給:ギャガ

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アーティスト情報

ニコラス・ウィンディング・レフン

生年月日1970年9月29日(48歳)
星座てんびん座
出生地デンマーク

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エル・ファニング

生年月日1998年4月9日(21歳)
星座おひつじ座
出生地米・ジョージア

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