【レビュー】映画『ザ・コンサルタント』―障害を抱えながら悪と戦う「天才会計士」の魅力とは

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「自警映画」に新風を吹かせる秀作

主人公が公権力に頼らず悪を裁く姿を描く「自警映画」は、常にハリウッドを盛り上げてきた。特に2010年代における勢いは凄まじく、2013年に公開したトム・クルーズ主演の『アウトロー』、2014年に公開したデンゼル・ワシントン主演の『イコライザー』、2015年に公開したキアヌ・リーヴス主演の『ジョン・ウィック』は、それぞれ興行収入でも批評面でも、ハイレベルな成績を残してきた。この群雄割拠と言うべき「自警映画」に新規参入するのであれば、既存の秀作と決定的に違う「何か」をストーリーに組み込むことが必要不可欠である。ギャヴィン・オコナー監督の最新作で、ベン・アフレックが主演を務めた映画『ザ・コンサルタント』におけるこの「何か」は、「キャラクターに与えられた多面性」と「障害を抱える主人公」だった。

イリノイ州・シカゴ近郊の田舎町に、小さな公認会計事務所を構えるクリスチャン・ウルフ(アフレック)は、一見すると冴えない会計士だが、彼は天才的な数学力を駆使して、犯罪組織の資金洗浄を請け負う、裏社会の会計士でもあった。ある日、サポート役のハンドラー(声:?)に、FBIの情報分析官が自分の情報を集めていることを知らされたクリスチャンは、身を潜めるため、大企業リビング・ロボ社から「堅気の」仕事を受ける。しかし、表向きは健全な企業であるリビング・ロボ社には、クリスチャン同様に裏の顔があり、秘密を知ってしまったクリスチャンは、社長のラマー(ジョン・リスゴー)が送り込んだ刺客に命を狙われてしまう…。

脚本を務めたのは、『ジャッジ 裁かれる判事』で知られるビル・ドゥビューク。同作は地元の名士として知られる判事が事件の容疑者として裁判を受ける姿を描いた法廷ドラマで、ドゥビュークは「大衆が抱くイメージと素顔」の間に生じるギャップ、つまり人間の二面性を描いた。このテーマは本作で拡張的に継承されており、クリスチャンやラマーなど、物語のカギを握る登場人物には、必ずと言ってよいほど多面性がある。ドゥビュークは主要キャラクターを交わらせながら、彼らの中にこの多面性をちらつかせることで、予期せぬミステリーやサスペンス、そしてドラマティックで意外な人物の関係性を構築し、見ごたえのあるストーリーを形成して観客を引き込んでいくのだ。

ドゥビュークによる脚本では、もう一つ興味深い点がある。それは、主人公であるクリスチャンが「高機能自閉症スペクトラム」という障害を抱えていること。既存の「自警映画」で、先天的な精神面での障害を抱える主人公の姿を描くことは非常に稀である。筆者が知る限り、ジージャーが主演を務め、阿部寛が共演しているタイのアクション映画『チョコレート・ファイター』 以外にない。そういった意味において、本作はハリウッド製の「自警映画」の多様性を拡大した作品なのである。また、ただ組み込むのではなく、「高機能自閉症スペクトラム」がもたらす「コミュニケーション不全」や「特殊な才能」などを物語にうまく絡めている点でも、ドゥビュークの作劇は評価に値する。

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多面性に話を戻すが、クリスチャンには会計士以外にも別の顔がある。実は彼、凄腕の格闘術者なのだ(この背景には、切なく、そして親の愛を感じさせる「家族のドラマ」が隠されている)。ラマーに送り込まれた刺客を、圧倒的な戦力で瞬殺するクリスチャンが使用する格闘技は、「シラット」である。インドネシア発祥のもので、映画界では『ザ・レイド』シリーズをきっかけに広く知られるようになった。『ウォーリアー』で総合格闘技の世界を職人的なタッチで描いたオコナー監督は、同作で仕事を共にしたスタント・コーディネーターのフェルナンド・チェンとサム・ハーグレイブを再び招聘。本作では、攻撃と防御の連続性、ナイフなどの片手武器とのコンビネーション、クリスチャンの明晰な頭脳による先読みなどを効果的に組み込み、「超実践派」のシラットを完成させている。圧倒的な迫力と芸術性を共存させるために、実践性を犠牲にした『ザ・レイド』シリーズの「アーティスティックなシラット」と比較すれば、見栄えの面では数段劣る。しかし、本作がよりリアルな戦い(シラット)を描いていることは誰の目にも明らかだ。

シラットと併せて言及しておきたいのは、クリスチャンが銃を用いる際に必ずヘッドショット(頭部への銃撃)を行っていること。通例、アクション映画では敵が銃弾を浴びて倒れれば、その敵に対して主人公が止めを下すことはまずない。しかし、こうした省略を含む映画はリアリティを追及しているとは言えないだろう。仮に倒れても、敵が再び襲い掛かってこないとは限らないからだ。これを踏まえたうえで、オコナー監督はクリスチャンに必ずヘッドショットを行わせている。この徹底した演出によって、彼はクリスチャンが殺しにおいて絶対的なルールを持っている「プロフェッショナル」であること、そして本作にアクション映画にありがちな誤魔化しや省略がないことを示すのである(ちなみに、このヘッドショットへのこだわりは、先述した『ジョン・ウィック』と共通している)。

脚本とアクションに加え、キャスト陣のパフォーマンスにも拍手を送りたい。主演のアフレックは、知性的な顔つき、鍛え上げられた肉体が役柄に説得力を与えているほか、ほぼすべて自分で務めたというスタントのキレも鋭い。また、クリスチャンの複雑かつ繊細な心理も丁寧に表現してみせ、演技派としての魅力を再確認させてくれた。一方、『ピッチ・パーフェクト』シリーズで知られるアナ・ケンドリックは、クリスチャンが親しくなるリビング・ロボ社の経理の女性・デイナを好演。不器用なクリスチャンに心を開かせる優しさ、そして頑固なまでの真っすぐさを感じさせる等身大の演技で、ヒロインとしての存在感をしっかりと出せている。他にも、クリスチャンを襲う殺し屋集団のリーダー:ブラクストンを演じたジョン・バーンサル(『フューリー』など)は、皮肉な運命に翻弄される男を飾らないせりふ回しで魅力的に演じ切り、『セッション』での演技が未だ記憶に新しい名優J・K・シモンズは、引退を目前に控える中でクリスチャンを追う財務省の犯罪捜査部局長キングにふんし、意図せずしてエリートのレッテルを張られた中年男の悲哀をいぶし銀の演技で確立している。

物語の締めくくり方も言うことなし。クリスチャンがラマー、そしてブラクストン、キングらとの関係に決着をつけ、ちりばめられていた点と点が一本の線によって繋がり、観客が抱きうる疑問がすべて解消される終盤の展開には、思わず「ブラボー!」と叫びたくなった。「キャラクターに与えられた多面性」と「障害を抱える主人公」によって既存の作品との差別化を実現し、これに「実践的なアクション」「実力派キャスト陣の好演」「秀逸なエンディング」を加えることで、本作は上質で独創的な「自警映画」として成立し、同ジャンルに新たな風を吹かせた。季節柄、映画界はアカデミー賞一色になってしまいがちだが、映画ファンには本作のような隠れた名作も見逃さないでほしいものである。

(文:岸豊)


映画『ザ・コンサルタント』
公開中

出演:ベン・アフレック、アナ・ケンドリック、J・K・シモンズ、ジョン・バーンサル、ジーン・スマート、シンシア・アダイ=ロビンソン、ジェフリー・タンバー、ジョン・リスゴー
原題:The Accountant
公開日:(US)2016年10月14日
配給:ワーナー・ブラザース映画

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J・K・シモンズ

生年月日1955年1月9日(63歳)
星座やぎ座
出生地米・ミシガン・デトロイト

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アナ・ケンドリック

生年月日1985年8月9日(33歳)
星座しし座
出生地ポーランド

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