【レビュー】映画『キセキ-あの日のソビト-』―松坂桃李と菅田将暉に胸熱!GReeeeNの楽曲のように等身大の音楽ドラマ

 

(C)2017「キセキ ーあの⽇のソビトー」製作委員会

成功と挫折。光と影。正反対の兄弟が目指した共通の夢。

「明日、今日よりも好きになれる 溢れる想いが止まらない」。おそらく、このフレーズを聞いたことがない日本人は少ないだろう。そう言えるほどに、覆面音楽グループ「GReeeeN」が2008年にリリースした楽曲『キセキ』は売れた。売れに売れた。聞かない日はないというくらいに。音楽業界では珍しい秘密主義も効果的に機能して、ここ10年では稀に見るブレイクを果たしたGReeeeNだが、この楽曲が生まれるまでには紆余曲折の日々があった。1月28日から公開中の映画『キセキ ーあの日のソビトー』は、GReeeeNのプロデューサーであるジン、そしてメンバーのヒデの姿を中心に、『キセキ』がリリースされるまでの日々を描いた作品である。

メタルバンドのボーカルであるジン(松坂桃李)は、レコード会社からメジャーデビューの誘いを受け、医師として働く厳格な父親・誠一(小林薫)の反対を押し切り、音楽で食べていくことを決める。一方、ジンと同じく音楽を愛する弟のヒデ(菅田将暉)は、医科大学志望ながら自分の学力に限界を感じ、友人とともに歯科大学を目指す決意を固めていた。その後、ヒデは歯科大学に合格し、ナビ(横浜流星)、クニ(成田凌)、ソウ(杉野遥亮)と共に「グリーンボーイズ」として音楽活動を始める一方で、ジンは方向性の相違がきっかけとなり、バンドが空中分解してしまう。行き場を失っていたジンのもとに、ある日ヒデが訪ねてくる。その手には、一本のデモテープが握られていた…。

GReeeeNの楽曲は、比喩を使わない等身大の歌詞と、キャッチーなメロディが魅力だが、彼らの姿を描く本作もその性質を受け継いでいる。青春と音楽を掛け合わせた作品なので、斉藤ひろし(『娚の一生』『余命1ヶ月の花嫁』など)が手掛けた脚本には、もちろんドラマティックな展開は存在するが、過剰な演出や「観客の心に引っかかるように」作り込まれたセリフ回しは組み込まれていない。この「自然体」な空気が伴いながら物語が進むからこそ、観客は挫折や失敗を繰り返しながらも、CDデビューという共通の夢に向かってひたむきに努力し続けるヒデやジンの姿にリアリティを感じつつ、深く共感することができ、彼らを応援することができる。

ジンとヒデの姿を中心に、グリーンボーイズがGReeeeNになり、『キセキ』がリリースされるまでを描く本作だが、その裏で描かれるサブプロットも効果的に機能している。劇中では、ジンとヒデの父親である誠一、誠一の患者で心筋症と戦う少女・結衣(平祐奈)、ジンのバンドに参加していた自動車修理工のトシオ(奥野瑛太)にもスポットが当てられ、彼らがGReeeeNの歌によって、何らかの「気づき」を発見する姿が描かれる。この影のドラマが描かれることによって、本作はGReeeeNについての一面的な物語に終始することがなく、多層的で深みのある人間模様として観客を魅了するのだ。W主演ものでは二人の主人公に対するフォーカスが強すぎることで、周囲の人物の描写に対するピントがずれてしまう危険性があるが、脚本を手掛けた斉藤とメガホンを取った兼重淳監督は、この点に留意してバランスの取れた物語を構築している(ただ、これを実現するうえで、ナビ、クニ、ソウへの肉付けは犠牲にされている)。

言うまでもないが、いま最も輝きを放つ二人の若手俳優が見せるパフォーマンスも、本作の大きな魅力である。ジンにふんした松坂は、「語らないシーン」と「語るシーン」の両面で類稀な演技力を見せる。バンドがうまくいかない様子が描かれる前半では、セリフなしでうなだれたり、満たされない表情で煙草を吸う姿を通じて、ジンの挫折感や失望の念を生々しく表現している。後半では、劇中で唯一ヒデと喧嘩するシーンで放つ、「続けたくても続けらんねえ奴もいんだぞ!」というセリフが印象的だ。文字面からはありきたりなセリフに聞こえるかもしれないが、松坂は前半部分で自信家ゆえに高慢な印象すら与えるジンの姿も確立しており、この前振りがあるからこそ、明確に自分の敗北を受け入れ、自分にはもう夢を託すことしかできないと宣言する後半のセリフには、見る者の心に響くパワーが生じている。

一方の菅田は、母親思いの優しい青年で、兄と同様に音楽に対して情熱を抱くヒデを好演。一見すると優柔不断なところがあるヒデだが、これは家の中で絶対君主のように振舞う父、父に反発して我が道を進む兄、息子たちを愛しながらも父の期待に応えることも望む母(麻生祐未)によって構成される、抑圧的な家庭環境の産物だ。彼の優柔不断は、家族への期待に応えたいという思いが複雑に絡み合った結果であり、菅田はこれに苦しみながらも歩むことを止めないヒデの姿を、持ち前の飾らない演技と繊細な心理描写でリアルに描き出している。「顔が見えない実在の人物」という、観客にとっては想像しにくい役柄だが、菅田のパフォーマンスは「きっとヒデはこういう人物なのだろう」と思わせる説得力を確と感じさせる。

夢に敗れる者もいれば、夢を叶えることができる者もいる。悲しいかな、この世はそうやって回っている。しかし、夢を追いかけること、そして夢を託すことは美しい。本作はこのリアルでポジティブなメッセージを示しながら、物語の幕を閉じる。類似したメッセージを孕む作品は少なくないが、本作が示すメッセージが胸に響き渡る理由は、実話ベースであることに加えて、やはり作品全体に自然体でリアルな空気が漂っているからだろう。これは、丁寧に書き上げられた脚本とキャストの熱演が、良いバランスで溶け合った結果に他ならない。

海外では、ミュージシャンを題材とする「音楽映画」は頻繁に製作されているが、邦画におけるそれの数は、国内に魅力的なミュージシャンが多いにもかかわらず、まだまだ少ないのが現状だ。そういった意味において、GReeeeNの実話を基にする本作は、邦画における「音楽映画」の可能性を拡大した。また、音楽業界の厳しい現実を踏まえたうえで、自然体かつ情熱的なストーリーを描いたという点では、ハリウッドで「音楽映画」を牽引してきたジョン・カーニー監督の『はじまりのうた』に通じるものがあり、日本のみならず、海外のオーディエンスにも受け入れられるポテンシャルを感じた。先述したように、ナビ、クニ、ソウのファンには物足りなさを抱かせる内容になっているが、等身大の青春、そして音楽ドラマを描く作品として、『キセキ ーあの日のソビトー』は非常に上質な作品である。

(文:岸豊)


映画『キセキ ーあの日のソビトー』
2017年7月4日(火)レンタル開始!

出演:松坂桃李、菅田将暉、忽那汐里、平祐奈、横浜流星、成田凌、杉野遥亮、早織、奥野瑛太、野間口徹/麻生祐未、小林薫
監督:兼重淳
脚本:斉藤ひろし
配給:東映
製作プロダクション:JOKER FILMS

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アーティスト情報

松坂桃李

生年月日1988年10月17日(31歳)
星座てんびん座
出生地神奈川県茅ヶ崎市

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菅田将暉

生年月日1993年2月21日(26歳)
星座うお座
出生地大阪府大阪市

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忽那汐里

生年月日1992年12月22日(26歳)
星座やぎ座
出生地豪・シドニー

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