【追悼】映画監督・鈴木清順の逝去に寄せて。

『東京流れ者』『殺しの烙印』『ツィゴイネルワイゼン』

『東京流れ者』『殺しの烙印』『ツィゴイネルワイゼン』

鈴木清順が死んだ。93歳だったという。見た目も、存在そのものも、もう随分前から、映画の仙人のようだったから、永遠に生きているはず、そう信じていたひとも少なくなかったと思う。最後に監督したのはチャン・ツィイーとオダギリ・ジョーが共演したミュージカル(と言っていいものかどうか自信がないが)『オペレッタ狸御殿』で、もう12年も前のことになるが、そんなに前のことという気もしない。なぜならば、この監督の作品は、あらかじめ時空を超えているようなところがあり、古いとか、新しいとか、そんなチンケな現世の価値とは無縁に、超然と雲の上に、ふわふわと漂っていたからだ。

忘れられないことがある。代表作『ツィゴイネルワイゼン』がリバイバル公開されるときのことだった。あるときから、インタビューに質問は用意していかず、ぶっつけ本番で臨むようになっていたわたしだが、清順監督に話が訊けるというので、前日、この映画を見直して、久しぶりに準備をした。かなり綿密に計画を立てた。だが、いや、だからこそなのかもしれないが、大失敗した。清順監督は、あの涼しげな微笑みを浮かべるだけで、一切まともには答えてくれなかった。「そうなのかな」「そうなのかもしれないね」「どうなんだろうね」。そんなようなことをつぶやきながら、やんわりと、一端のことを尋ねようとした若造の野心を、粉砕した。質問を拒否していたわけではない。頑固で偏屈というような印象はない。ただ、受け流す。平気でスルーする。なんとなく笑っている。その表情には「お前さんが望んでいるようなことは、決して言わないよ」というような、こざっぱりとした意志が垣間見えた。いまとなっては、インタビュアーとしてのあまりの惨敗ぶりに心地よささえおぼえるが、当時はかなりショックだった。

どんな質問をしたのか、もう憶えてはいない。そのあたりの記憶は消去しているのだろう。ただ、おそらく、何か創作の秘密のようなことを知ろうとしていたのだろうし、そうした無粋さは黙殺に値するものだったのだといまなら思える。

そもそも、仙人に、「あなたはどうして宙に浮くことができるのですか」とか「霞って食べたら美味しいですか」とか、そんなことを訊いたところで、答えるはずがないし、質問するという行為自体が不毛なのだった。

考えてみれば、清順監督の映画は、論理では構成されていないように思えるし、観客と映画の関係性も決して「コール&レスポンス」で結ばれていたわけではない。そこでは、思ってもみなかったことが起こる。だが、その現象には、これみよがしなところは微塵もなく、映画はぬけぬけと、ここではないどこかに浮遊しているのだ。

たとえば『東京流れ者』。清順映画を特徴づけるものとして、特殊な色彩感覚があるが、ある色とある色が隣り合わせにあることは、そもそも意味を超えている。それは、ただの「色と色」にすぎず、だが、わたしたちは、ただの「色と色」にこれほどまでの刺激を受けるのだということを知る。ヒーロー、アウトロー、ハードボイルド、歌謡映画……いかようにも形容できるが、しかし、カテゴライズしようとした瞬間、清順映画はするりと逃げる。どう見てもらってもかまわないが、元素が自由であり、何かしらの定型に絡め取られることが一切ない。ただただ、流れていく。あれよあれよという間に、映画はどこかに行っている。その様は、シャボン玉のようでもあり、風船のようでもある。美しい。だが、実体がない。捕まえようとすると消えてしまう。だから、尊いし、愛おしい。物語を追っても意味はない。飄々とたくましく、何かになびくことなど一切なまま、仙人はいまもどこかで微笑んでいる。

(文:相田冬二)

相田冬二氏による鈴木清順監督作品3選

東京流れ者

東京流れ者(1966)

カッコいいが、いわゆるスタイリッシュではない。突き抜けているが、いわゆるクールではない。既存の価値観では掴まえきれない洒脱な世界観。

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殺しの烙印

殺しの烙印(1967)

難解すぎるという烙印を押され、所属していた映画会社を追われ、その後10年沈黙することになった伝説的一作。難解なのではない。自由すぎたのだ。

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ツィゴイネルワイゼン(1980)

おそらく最も高い評価を得ている一作。美と怪奇と大正浪漫とが、平然と互いを弄り合う。誰にも文句を言わせない一種の「高み」に存在する決定作。

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アーティスト情報

鈴木清順

生年月日1923年5月24日(93歳)
星座ふたご座
出生地東京都

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