【レビュー】映画『ラビング 愛という名前のふたり』―穏やかで優しい、歴史に残った夫婦の愛。

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既存の公民権運動を描く映画とは異なる穏やかなドラマ

アメリカで初めて異人種間の結婚を実現した夫婦の姓を知っているだろうか?驚くべきことに、夫婦の姓は「Loving」という。人種を超えた結婚を、まさしく愛によって体現した男女の姿とは、いかなるものだったのか…。『テイク・シェルター』『MUD マッド』で知られるジェフ・ニコルズ監督は、3月3日より公開中の最新作『ラビング 愛という名前のふたり』において、ラビング夫妻が歩んだ静かな公民権運動の日々を、実に穏やかなタッチで描き出した。

物語は、バージニア州キャロライン群で幕を開ける。白人のリチャード(ジョエル・エドガートン)と、黒人のミルドレッド( ルース・ネッガ)は、人種を超えて愛し合うカップルだ。妊娠をきっかけに、手続きが簡易化されたワシントンで婚姻届けを提出した2人は、ミルドレッドの実家で新婚生活を始める。しかし、ある晩に保安官たちが乗り込んで来て、夫妻は逮捕。裁判で結婚は違法という判決を受け、2人は25年間にわたってキャロライン群に戻ることを禁止されてしまう。やむなくワシントンに移り住んだ夫婦は、3人の子供たちと慎ましくも幸せな生活を送っていたが、ミルドレッドは都会での子育てに難しさを感じていた。そんな折、彼女は人権派の弁護士から一本の電話を受ける…。

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『テイク・シェルター』では悪夢に思い悩む父親の姿をサスペンスフルに描き、『MUD マッド』では逃亡犯と少年たちの友情を感動的に紡いだニコルズ監督は、本作でも優れた演出力を見せている。劇中では、ラビング夫妻が異人種間の結婚の合法化を実現しようと、最高裁に至るまで裁判で戦う日々が描かれるのだが、映し出されるのは法廷での戦いではない。カメラが捉えるのは、元気に遊びまわる子供たち、そして彼らを見守る夫婦など、「愛のある風景」ばかりなのだ。公民権運動を扱う映画では、裁判や演説など、いわゆる見せ場で観客の感情を高めることが多いが、脚本も兼任したニコルズ監督は、こうした作劇と一貫して距離を取り、「愛のある風景」を映し続けながら、裁判の流れを拾い上げていく。これによって、スクリーンには観客が緊張する必要のない、なおかつ物語を見つめやすい、緩やかなリズムが生まれる。

ニコルズ監督のシンプルなストーリーテリングと共に観客を引き込むのが、実力派キャストが見せる精妙な演技だ。エドガートンは、話し方や視線の向け方など、リチャードの繊細な心を表現する心理描写が素晴らしい。特に、不条理な法を押し付けるブルックス保安官(マートン・ソーカス)とのやり取りで見せる悲しげな表情が印象的。これまではアクション映画のイメージが強かったこともあって、劇中で披露しているような演技ができることには驚かされた。一方のネッガで特筆すべきは、何気ない瞬間に見せる柔らかい微笑みだ。リチャードや子供へ向けられるその微笑みは、彼らへの深い愛を表すと同時に、心が浄化されるような清らかさを感じさせるもので、いつまでも見ていたいと思わせる不思議な魅力がある。

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物語の中盤にかけては、ミルドレッドがロバート・ケネディ司法長官へ送った手紙がきっかけで、人権派の弁護士バーナード・コーエン(ニック・クロール)がラビング夫妻の助け舟として登場するのだが、クロールは静かに進むストーリーの中で、程よくユーモラスな挙動を見せることによって効果的に笑いを生み、物語の雰囲気に良い変化をもたらしている。また、ニコルズ監督の『テイク・シェルター』や『MUD マッド』でも好演を見せてきたマイケル・シャノンは、TIME誌の心優しい記者グレイ・ビレットにふんして、短い出演時間の中で確かな存在感を残した。ラビング夫妻をカメラに収める際、柔らかな笑顔を見せるグレイの姿は、劇中でも最も印象的なシーンの一つになっている。

抑えの効いた演出と演技が噛み合いながら展開する本作だが、少々ドラマティズムを欠きすぎているように思う観客もいるかもしれない。確かに、先述した緩やかなリズムをキープし続けるニコルズ監督のスタイルは、「史上初の異人種間の結婚」を描く上では、些か地味すぎる、あるいは退屈だと思えなくもない。しかし、ニコルズ監督には狙いがある。彼は終盤の「あるシーン」に生まれる感動を際立たせるために、他のシーンでは観客の感情を高ぶらせないよう、意図的に演出をコントロールしていたのだ。実を言うと、筆者もかなりやきもきさせられたのだが、ニコルズ監督の狙いが炸裂した瞬間には、心がじんわりと温まる感覚を覚えていた。

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劇中でリチャードが黙々とレンガを積み重ねる姿が印象的だが、愛を守るための戦いを一つ一つ積み重ねていったラビング夫妻が、最終的に結婚の権利を勝ち取る姿は実に感動的だ。また、たった50年前まで、異人種間の結婚が違法とされていたこと、そしてその悪法が一組の夫婦の深い愛によって変えられたという事実を咀嚼すると、そういった制約がない社会に生きる我々が、いかに幸福であるかを再認識させられる(最高裁が異人種間結婚禁止法を違憲としたのは1967年6月12日のこと。この日は"Loving Day"として記念日になっている)。

ニコルズ監督の演出やキャストの演技における「意図的な抑制」によって、端正な映画として完成されている本作は、『マルコムX』『大統領の執事の涙』『ヘルプ ~心がつなぐストーリー~』『グローリー/明日への行進』など、公民権運動をドラマティックに描いた既存の名作と異なる雰囲気を持つ秀作として、ぜひおすすめしたい。また、トランプ政権の登場に伴い、多様性の議論が紛糾していることからも、今見ておくべき一本と言えるだろう。

(文:岸豊)


映画『ラビング 愛という名前のふたり』
公開中

監督・脚本:ジェフ・ニコルズ
キャスト:ジョエル・エドガートン、ルース・ネッガ、マートン・ソーカス、ニック・クロール、テリー・アブニー、アラーノ・ミラー、ジョン・ベース、マイケル・シャノン
原題:Loving/2016年/イギリス・アメリカ映画/123分/カラー
シネスコ/5.1chデジタル/字幕翻訳:牧野琴子
提供:ギャガ、カルチュア・パブリッシャーズ
配給:ギャガ

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アーティスト情報

コリン・ファース

生年月日1960年9月10日(59歳)
星座おとめ座
出生地イギリス

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ジェフ・ニコルズ

生年月日1978年12月7日(40歳)
星座いて座
出生地米・アーカンソー・リトルロック

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