こういう恋愛映画を待っていた!―映画『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』【連載コラムVol.21】

映画ライター・新谷里映が心動かされた、本当に観て欲しい映画たちを連載コラムでお届け。

第21回目は「大人にしかわからない恋愛の苦しさと醍醐味を共感できる」という1本、『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』。やはり“恋愛映画”といえばフランス映画、というのが鉄板なのだろうか―? この作品との出会いで改めて思わされたこと、そしてリアルさについて語ります。


(C)2015 / LES PRODUCTIONS DU TRESOR - STUDIOCANAL

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恋愛映画は大好きで昔からよく観てきた。家の近所に初めてTSUTAYAができたときは(もちろんビデオレンタルの頃だけれど)毎週のように通っていたし、今のようにネットが普及していない頃の情報源は雑誌やテレビ、ラジオ、レンタルショップの棚、ビデオパッケージそのものが情報源だった。邦題に“愛”とか“恋”の文字が入っている作品を片っ端から観たり、気に入った作品の監督や俳優の名前をたどって次に借りる作品を選んだりもしていた。

そんなふうに恋愛映画に浸っていると当然フランス映画にたどり着く。たとえば『ベティ・ブルー 愛と激情の日々』。冒頭の激しいセックスシーンにはじまり、心も身体も相手に溺れ恋愛にのめり込んでいく姿、それを目にした時に抱いた感情は今でもはっきりと心に残っている。ほかにも有名どころで言えば、レオス・カラックス監督の“アレックス三部作”『ボーイ・ミーツ・ガール』『汚れた血』『ポンヌフの恋人』、女優で言うとカトリーヌ・ドヌーヴジュリエット・ビノシュの作品にも夢中になった。振り返ってみると、10代半ば〜20歳前後の頃に観たフランス映画はどれも刺激的で官能的、とても濃くて、とても深くて、とても美しくて、そしてとても重く後を引くイメージがある。人生は「愛こそすべて」的な世界は、怖くもあり憧れだったように思う。

(C)2015 / LES PRODUCTIONS DU TRESOR - STUDIOCANAL

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その映画をどの年齢で観たのかによって、捉え方や受け取り方は変わるものだ。最近は自分自身が仕事モードだったということもあり、家族や人生についての映画、社会的な映画などに目が向いていた。それが理由なのか、時代の流れなのか、恋愛映画にどっぷりだった頃に観ていた刺激的で官能的なフランス映画と出会う確率は減っているような気がしていた。そんななか「こういう恋愛映画を待っていた!」とハッとさせられたのが『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』だ。

主人公は、トニー(エマニュエル・ベルコ)とジョルジオ(ヴァンサン・カッセル)。この2人の10年間の愛を描いていくのだけれど、その描き方が生々しくて素晴らしかった。スキー場で転倒し、ひざに大けがを負ったトニーがリハビリしていく過程で、回想シーンが差し込まれていく。物語の構造はとてもシンプルだが、日ごとに回復していく肉体と10年間でトニーの感情がどう変化していったのか──女が揺れ動き、悩み、決断するまでを丁寧に描いている。

ジョルジオはいわゆるダメ男だ。ものすごく色気があってイイ男だけれど、中身はどこまでも身勝手、ダメ男の要素をぜんぶ詰め込んだかのようなキャラクター。どれだけダメなのかは映画を観てあ然としてほしいのでここで語るのは避けておくが、ダメ男だけれど愛さずにはいられない、つい許してしまう、ヴァンサン・カッセルのダメ男っぷりはある意味ほれぼれする。

(C)2015 / LES PRODUCTIONS DU TRESOR - STUDIOCANAL

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トニーがジョルジオにどうしようもなく惹かれてしまう気持ちもわかる。理屈じゃない──とにかく惹かれて、愛して、傷ついて……もう限界だと自分の心が悲鳴を上げるまで、いや悲鳴を上げてもなお愛してしまう女の心情が切なかった。そこからトニーがどうケジメをつけるのか、どう未来に向かって歩いていくのか、女性の弱さと強さがリアルに描かれているから感動する。

また、トニーを演じたエマニュエル・ベルコはカンヌ国際映画祭(第68回)で女優賞を受賞しているが、同映画祭では彼女の監督作『太陽のめざめ』がオープニングを飾った。そして今回の『モン・ロワ〜』のマイウェン監督も女優として活躍している。それぞれ女優であり監督である2人だからこそトニーをあれほど魅力的に描けたのではないだろうか。

いま流行りの胸キュン映画も大人の女性の心をほっこりさせ潤してくれるだろうけれど、もう少し大人の恋愛映画が観たいというなら『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』はぴったりの1本だ。大人にしかわからない恋愛の苦しさと醍醐味を共感できるはず。

(文・新谷里映)

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新谷里映

フリーライター、映画ライター、コラムニスト
新谷里映

情報誌、ファッション誌、音楽誌の編集部に所属、様々なジャンルの企画&編集に携わり、2005年3月、映画ライターとして独立。 独立後は、映画や音楽などのエンターテイメントを中心に雑誌やウェブにコラムやインタビューを寄稿中。

【tumblr】新谷里映/Rie Shintani 

映画『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』
公開中

監督:マイウェン
脚本:エティエンヌ・コマール
出演:ヴァンサン・カッセル、エマニュエル・ベルコ、ルイ・ガレル、イジルド・ル・ベスコ、クリステル・サン=ルイ・オーギュスタン
2015年/フランス/126分/日本語字幕・横井和子
配給:アルバトロス・フィルム、セテラ・インターナショナル

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