アカデミー賞(R)受賞が裏付ける脚本と演技の素晴らしさ、そしてケイシー・アフレック。映画『マンチェスター・バイ・ザ・シー』【連載コラムVol.24】

映画ライター・新谷里映が心動かされた、本当に観て欲しい映画たちを連載コラムでお届け。

第24回目は、本年度アカデミー賞(R)にて主演男優賞と脚本賞の2冠に輝いた『マンチェスター・バイ・ザ・シー』。オスカー受賞は伊達じゃない! ということで作品の内容はお墨付き。そんな中でも光るのは、愛される人柄とチャンスをモノにするケイシー・アフレックの実力なのです。


(C)2016 K Films Manchester LLC. All Rights Reserved.

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本年度のアカデミー賞で6部門ノミネート、主演男優賞と脚本賞に輝いた『マンチェスター・バイ・ザ・シー』。正直、とても地味な映画です。でも、とても心揺さぶられる人間ドラマです。すでにこの映画に興味を持っている人は別として、毎週何十本と公開される映画の中から何を観ようか選ぶとき、この手の“地味な人間ドラマ”は映画館じゃなくてもいいか……と候補から外してしまう人もいると思います。もちろん観たいと思った映画を観るのがいちばんなので、何か面白そう、何か気になる、そういう直感を大切にしてほしいのですが、もしもこの『マンチェスター・バイ・ザ・シー』を“地味な人間ドラマ”だからと外してしまったらもったいない。こんなにも主人公や主人公を取り巻く人たちの感情に寄り添える映画は、そう滅多にめぐり逢えるものじゃないからです。

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主人公はリー・チャンドラー(ケイシー・アフレック)。アメリカのボストン郊外で便利屋として働く中年男性です。無愛想で、人付き合いもいいわけじゃない、むしろ自ら孤独になることを望んでいるかのようにも見えます。簡単な言葉で説明するなら“偏屈な男”。でも、孤独に生きていることにも、偏屈になってしまったことにも理由があって──。複雑に絡まってしまった彼の心をすぐに知ることはできませんが、リーの最愛の兄が倒れてしまい故郷のマンチェスター・バイ・ザ・シーへ戻らなくてはならなくなったこと、そして兄の死によって甥っ子パトリックの後見人にならなければならなくなって、リーがどんな悲しみと過去を抱えているのかが徐々に明らかになっていきます。

アカデミー賞の脚本賞を受賞したことからも、どれだけ素晴らしい物語であるのかは説明不要でしょう。主演のケイシー・アフレックが「物語や場面、登場人物の関連性に矛盾点がまったくない」とコメントしているように、吸い込まれるように物語に入っていける、気づくとリーの隣人として彼を見守っているような感覚になります。最近は漫画や原作の映画化が多く、どんな内容なのかある程度知った状態で映画を観ることが当たり前になりつつありますが、『マンチェスター・バイ・ザ・シー』のようなオリジナル脚本の作品は、ぜひ前情報をできるだけ収集せずに観てほしい。なので、どんな物語なのか、これ以上語るのはやめておきます。

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ただ、ケイシー・アフレックについて少し説明します。ベン・アフレックの3つ下の弟です。兄のベンと彼の大親友マット・デイモンと仲が良いこともあり、ベンやマットが出演する作品にケイシーもちゃっかり出演してきました。マットとベンが脚本と出演を兼ねた名作『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』をはじめ、『チェイシング・エイミー』『200本のたばこ』では兄と共演、また兄の監督作『ゴーン・ベイビー・ゴーン』では主演をつとめています。マット・デイモンとも『オーシャンズ』シリーズや『インターステラー』で共演。なかでもケイシーの転機となったのは『オーシャンズ11』ブラッド・ピットと知り合ったことです。

その後、ブラピが主演・製作を兼ねた『ジェシー・ジェームズの暗殺』に出演したことで、ケイシーはアカデミー賞助演男優賞にノミネート。お兄ちゃんたちに負んぶに抱っこの印象が強かったわけですが、その実力をみせることに成功。続いて『容疑者、ホアキン・フェニックス』を監督・脚本・製作・撮影しますが、ホアキンのドキュメンタリーを撮っていると思っていたら実は大嘘で……フェイクドキュメンタリーだったことで映画界から大きな反感を買ってしまいます。そんなお騒がせな俳優ではありますが、それでも何とかしてあげたくなる、愛される人柄なのでしょう。

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『マンチェスター・バイ・ザ・シー』も、もともとはマット・デイモンが監督と主演をつとめる予定でしたが、スケジュールが合わなくなり、マットはプロデューサーとして参加。自分の代わりに、リー役にケイシーはどうかと推薦したそうです。というわけで今回もマットのお世話になっていますが、アカデミー賞主演男優賞を受賞した演技はまぎれもなくケイシーの実力。本当に素晴らしい演技です。驚きます。ケイシーの演じるリーから受け取るのは、無理に悲しみを乗り越えようとしなくてもいいということ。悲しみを抱いたまま生きてもいい、自分のペースで進んでいけばいいということです。とても地味な人間ドラマですが、こんなにも主人公に寄り添えて、ぎゅうっと抱きしめたくなる。そして、抱きしめたその温かさがずっとずっと心に残る、とても優しい映画です。

(文・新谷里映)

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新谷里映

フリーライター、映画ライター、コラムニスト
新谷里映

情報誌、ファッション誌、音楽誌の編集部に所属、様々なジャンルの企画&編集に携わり、2005年3月、映画ライターとして独立。 独立後は、映画や音楽などのエンターテイメントを中心に雑誌やウェブにコラムやインタビューを寄稿中。

【tumblr】新谷里映/Rie Shintani 

『マンチェスター・バイ・ザ・シー』
5月13日(土)シネスイッチ銀座、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国ロードショー

監督・脚本:ケネス・ロナーガン
出演:ケイシー・アフレック、ミシェル・ウィリアムズ、カイル・チャンドラー、ルーカス・ヘッジズ、カーラ・ヘイワード
2016年/アメリカ/137分
配給:ビターズ・エンド/パルコ

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アーティスト情報

ケイシー・アフレック

生年月日1975年8月12日(43歳)
星座しし座
出生地米・マサチューセッツ

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ミシェル・ウィリアムズ

生年月日1980年9月9日(38歳)
星座おとめ座
出生地米・モンタナ

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