【レビュー】映画『スパイダーマン:ホームカミング』―世界興行収入7億ドル突破!新たなスパイダーマンの魅力とは?

(C)Marvel Studios 2017. (C)2017 CTMG. All Rights Reserved.

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『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』で初めて姿を見せた、トム・ホランド演じる新生スパイダーマンが、高校生としての日常を送りながらも、アベンジャーズ入りをアイアンマンに認めてもらおうと奮闘する姿を描く映画『スパイダーマン:ホームカミング』。8月11日に日本公開を迎えた本作が、現在までに世界興行収入7億ドル突破という大ヒットを飛ばしている。これまでにサム・ライミやマーク・ウェブが手掛けてきた『スパイダーマン』シリーズだが、ジョン・ワッツ監督がメガホンを取った本作が支持された背景には、何があるのか? 作品を紐解くと、正義と悪の双方に感情移入できるストーリーが構築されているとともに、これまでの『スパイダーマン』作品よりもコメディ性が大幅に拡大されたことが見えてくる。

物語は、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』で描かれた出来事の直後から幕を開ける。アベンジャーズとともに戦ったスパイダーマンこと15歳のピーター・パーカーは、アイアンマンことトニー・スターク(ロバート・ダウニー・Jr)に認めてもらおうと、学校の放課後に悪人を探しては捕まえる日々を送っていた。トニーからの連絡がないことに不満を感じていたピーターは、ある日、特殊な武器を使っている銀行強盗に遭遇。捕まえようとするも逃げられてしまった彼は、トニーを認めさせるため、強盗団を追いかけるのだが、首領であるバルチャーことエイドリアン・トゥームス(マイケル・キートン)の素性は、ピーターが思いもよらぬものだった...。

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大金持ちや冷凍催眠から覚めた兵士、はたまた緑色の巨人や神様など、マーベルコミックの実写映画によって形成されるMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)には変わり者が多い。しかし、彼らは特殊な存在でありながら、観客が感情移入できる要素も持ち合わせている。つまり、MCUのキャラクターは特殊性と共感性によって支持を得てきたのだ。スパイダーマンもその例外ではない。本作では、蜘蛛の能力を持つヒーローとしてのスパイダーマンという特殊性が非現実的なエンターテイメントとして機能している一方で、クイーンズの街角できわめて庶民的な暮らしを送っており、同じ高校に通うリズ(ローラ・ハリアー)への恋心をのぞかせ、優しいけれど口うるさいメイおばさん(マリサ・トメイ)に頭を悩ませるピーターの姿が映し出されることにより、観客は彼に深く感情移入することができる。

劇中では、そんなピーターがアベンジャーズ入りを認めてもらおうと奮闘するのだが、その模様が実に愉快だ。というのも、クイーンズの街は比較的平和であり、ピーターの“自警活動”は空回りして、寧ろ住人たちの迷惑になってしまうのである。学校が終わるのを今か今かと待ってから、気合十分に街に飛び出していき、善意を持ちながら活動しているにも関わらず、住人たちに迷惑がられて怒鳴られることもしばしばのピーターの姿は、可笑しくて仕方がない。だがそれと同時に、愛さずにはいられない親しみやすさがあり、過去にトビー・マグワイアやアンドリュー・ガーフィールドが演じてきたスパイダーマンとは異なる魅力を感じさせる。

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そんなピーターの日々に大きな刺激を与えるのが、名優マイケル・キートンが演じた悪役バルチャーだ。彼は『アベンジャーズ』で描かれたニューヨークの闘いによって崩壊したビルのがれきを撤去する仕事を請け負っていたのだが、これをトニーによって奪われて恨みを抱き、その結果として地球外物質を組み込んだ武器を使って強盗家業を営んできたという複雑な過去を持っている。ヒーローのみならず、魅力的な悪を作る条件にも、どこかしらに共感性を付与することが挙げられるが、バルチャーには資本主義的ブルジョワジー=トニーに怒りを覚えるプロレタリアートという性質が早い段階で付与されており、序盤から観客が感情移入できる悪役になっている。また、彼が仕事に情熱を注ぐ背景に“家族への想い”があるという肉付けも、観客による感情移入の余地を拡張している。

中盤以降では、ピーターとバルチャーの関係を通じて、正義と悪の構図が明確に描かれていくことになるが、それとともに、ピーターと友人のネッド(ジェイコブ・バタロン)が繰り広げる愉快な掛け合いの描写によって、コメディ性も積み重ねられていく。アベンジャーズへの憧れを持つネッドからの質問にピーターが自慢げに答えるのをはじめ、ポップカルチャーへの言及やスパイダーマンの存在についてなど、彼らが交わすトークは小気味よく愉快に展開していき、たびたび観客の笑いを誘うのだ。ピーターとバルチャーの邂逅・衝突を経て、正義と悪の対立が物語の軸となっていく一方で、緊張感のある物語を弛緩する役割を持つ笑いが良きタイミングで挿入されることにより、劇中にはシリアスとコミカルのバランスが上手く取れた、独特なリズムが刻まれていくこととなった。

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正義と悪の双方に感情移入することができる物語は、クライマックスに向かうにつれて、思いもよらぬ登場人物の関係性に焦点を当てていくのだが、この展開によって生じるドラマティック・アイロニーが極めて効果的に機能している。この“登場人物間で知っていることと知らぬことのギャップ”が存在しているからこそ、バルチャーとの戦いの中でピーターが抱く複雑な感情はハイライトされ、彼が力を振り絞って立ち上がり続ける姿には大きな感動が生まれるのだ。最終的に、バルチャーが絶対的な悪として裁かれていない点も、物語の味わいをぐっと深めているし、時折登場するトニーとの師弟関係のもつれ、これに伴うピーターの挫折といった要素も、ストーリーに厚みを与えた。

サム・ライミが手掛けた『スパイダーマン』シリーズではヒロインとのロマンスや親友との間に抱える秘密が、マーク・ウェブによる『アメイジング・スパイダーマン』シリーズではピーターのアイデンティティや恋人の死がシリアスな作風で描き出されたが、本作はコメディ性の高さとシリアスな闘いの間における“ふり幅の大きさ”で、過去の作品と趣を異にした。アクションや映像表現が抜かりなく構築されており、ピーターを愛されるキャラクターにしようという作り手の意識が随所に強く感じ取れた点にも、非常に好感が持てる。そして、最終的に明かされるミシェル(ゼンデイヤ)の本名が象徴的だが、『スパイダーマン』のファンなら思わずニヤリとしてしまうシーン・枠組みが確認できることも素晴らしい。

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デビュー作の『クラウン』『COP CAR/コップ・カー』といった小規模な作品でキャリアを積んできたワッツ監督は、『スパイダーマン』というアメリカン・カルチャーにおける特別な存在を扱った本作で、観客を失望させないパフォーマンスを見せてくれた。ロンドンで生まれ、スパイダーマンになりたいと願う少年の一人だったというホランドも、ピーターをクールかつ愛される存在に仕上げているし、脇を固めたキャストも上質なパフォーマンスを披露した。彼らの仕事ぶりからは、世界興行収入7億278万1093ドル(8月16日現在)という大成功にも納得がいく。果たして、今後スパイダーマンはどんな敵と戦い、どう成長していくのだろうか?その活躍からは、目が離せなくなりそうだ。

(文:岸豊)


映画『スパイダーマン:ホームカミング』
公開中

全米公開:2017年7月7日
監督:ジョン・ワッツ(『COP CAR/コップ・カー』
キャスト:トム・ホランド(『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』『白鯨との闘い』)、ロバート・ダウニー・Jr(『アイアンマン』『アベンジャーズ』)、マイケル・キートン(『バットマン』、『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』)、マリサ・トメイ(『レスラー』)、ジョン・ファヴロー(『アベンジャーズ』)、ゼンデイヤ、トニー・レヴォロリ(『グランド・ブダペスト・ホテル』)、ローラ・ハリアー、ジェイコブ・バタラン

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