レニー・ハーリン監督が語る、ジャッキー・チェンの魅力と中国進出の狙い【単独インタビュー】

レニー・ハーリン監督

レニー・ハーリン監督

「今の中国映画界は面白くて、まるで80年代のハリウッドなんだ」。そう語るのは、『ダイ・ハード2』『クリフハンガー』で知られるアクション映画の名匠レニー・ハーリン監督だ。90年代前半におけるハリウッドのアクション映画を牽引したハーリン監督だが、現在は中国に拠点を置いて映画作りに励んでいる。ジャッキー・チェンを主演に迎えてメガホンを取ったアクション・コメディ映画『スキップ・トレース』も、アメリカ・中国・香港が合作した作品だ。果たして、ジャッキーに対してどんな印象を抱いたのか?そして中国進出の意図とは?同作のプロモーションのために来日したハーリン監督に話を聞いた。

―本作は、ジャッキー・チェン演じる香港警察の刑事ベニー・チャンと、ジョニー・ノックスヴィルふんする詐欺師のコナー・ワッツが、世界中を舞台に繰り広げるドタバタ劇を描いた作品ですね。世界興行収入が1億3000万ドルを突破する大ヒットを飛ばしていますが(8月22日時点、Box Office Mojo調べ)、まずはこの大成功を受けた心境を教えてください。

ハーリン監督:オープニングの成績が、ジャッキーのキャリアにおける新記録を樹立したんだけど、あの週末は本当にうれしかったよ。ジャッキーと組んで映画を作ることは長年の夢だったし、この上なく幸せな気分だったよ。

―「長年の夢だった」とのことですが、この作品が実現に至るまでの経緯は?

ハーリン監督:ジャッキーとは過去に2度、一緒に映画を作ろうという話があったんだけど、両方とも企画が頓挫してしまったんだ。今回は3度目の縁だった。それこそ、20年来の夢みたいなものさ。ジャッキーとのコラボレーションだったから、ぜひやりたいと思ってオファーに応じたんだ。

―撮影に入る前の段階で、ジャッキーとのコラボがうまくいくと予感する瞬間はありましたか?

ハーリン監督:最初の脚本はとてもラフなものだった。ロードムービーで、バディものでもある、典型的なアメリカ映画だったんだ。「これはぜひやってみたい」と思って、香港に飛んでジャッキーと会い、この映画についていろいろと話をした。この作品はジャッキーにとっても、20年越しの念願が叶った企画だったんだ。彼と話す中では、お互いが向いている方向が同じだということに気づいて、これはきっと良いコラボレーションになるという確信を得たよ。

(C)2015 TALENT INTERNATIONAL FILM CO., LTD.& DASYM ENTERTAINMENT, LLC ALL RIGHTS RESERVED

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―熱い心を持つ刑事のベニーを演じたジャッキーは、63歳とは思えない身のこなしを披露していますね。ジャッキーのアクションを演出する中では、どんな印象を得たのでしょう?

ハーリン監督:現場で見るジャッキーは、本当に素晴らしかったよ。アイディアをたくさん持っているし、次から次へといろいろな考えが浮かんでくるんだ。その一方では、監督に対するリスペクトも見せてくれて、最終的に何をどうしていきたいのかという判断は私に委ねてくれた。何かを無理強いするようなことはなかったよ。

―この作品はアメリカ・中国・香港が合作した映画ですが、ハリウッドらしさと香港らしさが融合しているような印象を得ました。

ハーリン監督:香港流とハリウッド流の撮影に対するアプローチは、いろいろな面で異なるけど、本作では両方のスタイルを上手く融合させながら撮影していったんだ。アクション・シーンについては、昔からの私のやり方を通させてもらったよ。現場にいるジャッキーは、常にエネルギッシュで、何でもやってやろうというスピリットを持っていたね。監督として意識したのは、とにかく怪我がないように、次の日も無事に撮影に来てもらえるようにということだった。さすがのジャッキーも、昔ほど若くないし、骨も幾分か折れやすくなっているからね(笑)。

―アクションに関して、なかなか思い通りに決まらなかったり、テイクを重ねたシーンはありましたか?

ハーリン監督:基本的に大きな問題はなかった。というのも、何回も何回も繰り返すことを厭わないところに、ジャッキーの秘密があるからさ。優れたアクションができるのは、卓越した技術を持っているからではなく、何回もチャレンジすることを厭わない忍耐強さがあるからなんだと、彼自身がよく語っているみたいだね。この映画では、とてもスムーズに撮影が進んだよ。大変だったシーンを一つ挙げれば、ロシアの伝統的な人形「マトリョーシカ」を使ったシーンかな。見た目はさらりとやっているように見えるけど、手の込んだ小道具作りや撮影があったんだ。

―この作品のもう一人の主人公が、ジョニー・ノックスヴィルが演じた詐欺師のコナーですね。ジョニーは自由に演技していた印象があるのですが、具体的に演出をするというよりも、任せるという感じでしたか?

ハーリン監督:基本的に、演技は俳優たちに任せる方針なんだ。軌道修正を図る必要があれば、アドバイスを送ったりはするけどね。ジョニーに関して言えば、とんでもないスタントをしてばかりいる役者だということは知っていたけど(笑)、意外なことに、彼は芝居がうまいんだ。ジャッキーとのバディ感や温かみが出てきたのもうれしい驚きだったね。お互いに尊敬していて、良い関係を醸し出していたんだ。

―ベニーが過去に亡くした相棒の娘で、ヒロインのサマンサを演じたファン・ビンビンは凄まじくフォトジェニックですね。彼女は国際的に活躍していますが、監督から見てどんな女優さんですか?

ハーリン監督:最高な女優だったよ。ほかの作品の役柄を見ると、皇族だったり、上品なレディーといった印象があるけど、彼女は男たちに交じってアクションをすることも厭わないし、プロ意識が高く、しっかり準備もしてくる、素晴らしい女優だった。“どうぞ演出してください”という姿勢で、「今の演技で大丈夫でしたか?変えましょうか?」と丁寧に確認してくれるんだ。感覚的には、自由に造形できる粘土のようだったよ。エゴは全くなく、オープンかつ気さくで、いろいろなことに果敢にチャレンジしてくれる人だった。知名度や人気が高いトップ女優だから、わがままなイメージがあるかもしれないけど、全くそんなことはないね。フラットでとっつきやすい人なんだ。

(C)2015 TALENT INTERNATIONAL FILM CO., LTD.& DASYM ENTERTAINMENT, LLC ALL RIGHTS RESERVED

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―彼女に関して言えば、歴史ものやハリウッドの大作に出演している印象がある一方で、コメディのテイストを含む作品に出演しているイメージは、あまりないです。ジャッキーとは『新宿インシデント』で共演しているので、これが2度目の共演となりましたが、彼女はどういったプロセスを経て、この作品に出演することになったのでしょう?

ハーリン監督:私たちはただ、中国でベストの女優を求めて彼女をキャスティングしたんだ(笑)。シンプルな話さ(笑)。

―なるほど(笑)。では、劇中で特に気に入っているシーンがあれば教えてください。

ハーリン監督:アクション・シーンだと思うかもしれないけれど、実は私が一番好きなのは、ベニーとコナーがモンゴルで焚火を囲みながら歌って踊るシーンなんだ。アデルの歌をみんなで歌うところだよ。あのシーンは、ロケハンをしている中で内モンゴルに渡って、あの場所を気に入ったこと、そしてあの場所で暮らす人々が素敵だったことにインスパイアされた私のアイディアで入れたんだ。ポップソングというなんてことないものが、異文化の人々に連帯感を持たせて、懸け橋になるということを意味している良いシーンだと思う。みんなが笑顔になるようなシーンであり、人間はそうそう違わないということ、仲良くしようよということを示してくれているね。

―アクション・コメディとしてだけでなく、ミステリーとしても楽しめる作品ですが、全体的な仕上がりで特に意識したことは?

監督として意識する必要を感じたのは、作品のトーンをどう仕上げるかということだった。中国の観客だけでなく、いろいろな国の人々に見せる映画を作るわけだから、作品としてのトーンに一貫性を持たせるだけでなく、どこでもしっかり受け入れてもらえるようなものに仕上げなければならない。スラップスティックになりすぎないように、アメリカの観客にも消化してもらえるように、ということを意識したよ。

(C)2015 TALENT INTERNATIONAL FILM CO., LTD.& DASYM ENTERTAINMENT, LLC ALL RIGHTS RESERVED

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―次は、この作品を監督したのちに生活の拠点を北京に移され、Midnight Sun Pictures(ミッドナイト・サン・ピクチャーズ)という製作会社を設立した件についてお聞きします。ずばり、中国における映画製作の狙いと、現状で感じている課題やメリットを教えてください。

ハーリン監督:今の中国映画界は面白くて、まるで80年代のハリウッドなんだ。みんながエネルギッシュで成功への野望を抱いているし、様々なチャンスもある。いろいろな映画を作っていきたいというエネルギーが、ふつふつと沸いているね。一方で、今のハリウッドは減退していると思う。映画の多様性がなくなってきているよ。製作される映画は大抵3種類で、アメコミのスーパーヒーローものか、低予算のホラー、そしてロマンティック・コメディだ。

―ここ数年のハリウッドにおいては、中国資本を取り込もうという積極的な動きが見えます。この点についてはどうお考えですか?

ハーリン監督:ハリウッドの映画スタジオのプロデューサーたちは、どうやって中国とタッグを組んで、合作を行い、中国の文化と繋げていくかを模索している。ぶっきらぼうに言えば、中国マネーを狙っているわけだね。中国は中国で、海外にも訴求する映画をどうやって作っていくかを一生懸命に考えている。そんな中にあって、私は丁度良い時期に、丁度良い立ち位置にいると思うよ。

『スキップ・トレース』を撮影したのも、中国の映画市場の爆発が始まっていた頃だったけど、私はハリウッドで30年間積み重ねてきた経験を生かして、双方の映画界の架け橋的な役割を、上手く担えればいいと思っているんだ。今は中国に根を張って、中国文化の理解を深めつつ、彼らが作っていきたいものや実現したいものを手助けしながら、大勢の観客が喜ぶ映画を作っていきたいと思っているよ。

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―中国という映画製作の舞台が秘める可能性は大きそうですね。そうなると、監督の後を追って、アメリカのフィルムメーカーたちは中国に渡って来ているのでしょうか?

ハーリン監督:来そうだと思っていたけど、暮らしを劇的に変えることができる人は少ないみたいだ。旅行に行って北京ダックを食べるのとはわけが違うからね(笑)。ハリウッドのプロデューサーは、1週間だけ中国に行って中国文化を理解した気になるけれど、それはとんでもないことさ。全く異なる世界だし、全く異なる文化だからね。異文化を受け入れ、愛するようにならなければいけない。ハリウッドの人々が自分のライフスタイルを変えることは難しいし、家族もいたりするから、そうそう簡単に移住するわけにはいかないんだと思う。私はたまたま、そういったことができるユニークな立場にあった。中国に居を据えた今となっては、中国が大好きになったよ。

―興味深いお話をありがとうございます。最後に、この作品の公開を待っている映画ファンにメッセージをお願いします!

ハーリン監督:ジャッキーとは20年来のコラボレーションだから、念願が叶った作品なんだ。ジャッキーも私も、たくさんの映画愛を注入している。今までそれぞれがほかの映画でやってきたこと、あるいはやりたかったけれど実現しなかったことを盛り込んでいるよ。また、誰もが見に行けるものを作ろうと意識した。男性でも女性でも関係ないし、年齢も問わない。家族でもティーンエイジャーでも見に行ける。みんなにエンジョイしてもらいたいし、たくさん笑ってエキサイトしてほしい。『スキップ・トレース』は、映画好きのための映画さ!

(取材・文・写真:岸豊)


映画『スキップ・トレース』
9月1日(金)全国ロードショー

監督:レニー・ハーリン
出演:ジャッキー・チェン、ジョニー・ノックスヴィル、ファン・ビンビン
提供:カルチュア・パブリッシャーズ KADOKAWA
配給:KADOKAWA 2016年/アメリカ・中国・香港合作/107 分

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