【独占対談】樋口泰人×森直人『ダンケルク』もう一度観たくなる魅力を激論!

爆音映画祭プロデューサー・樋口泰人と映画評論家・森直人

爆音映画祭プロデューサー・樋口泰人と映画評論家・森直人

クリストファー・ノーラン監督最新作『ダンケルク』が9月9日(土)よりいよいよ全国ロードショー。このたび公開に先駆け、本作のT-SITE独占試写会が、東京・日比谷にて開催され、試写終了後には、爆音映画祭プロデューサー・樋口泰人と映画評論家・森直人が登壇し“もう一度観たくなる『ダンケルク』講座”が開講された。

エコーを切った映画

本作の舞台は、第二次世界大戦中のフランス北部の都市ダンケルク。迫りくるドイツ軍の猛威の中、1940年5月26日から9日間、860隻の船舶でイギリス軍、フランス軍の兵士約30万人以上もの命を救った救出作戦「ダンケルク作戦」を描く。樋口はこの作品を「密室映画だ」と表現する。

樋口:密室からいかにして抜け出すかという、息苦しい切迫感から出来上がっている映画。それは本当の密室のシチュエーションもあるけど、個人がそれぞれ孤立している。“個”しかないということが、ものすごく“今”の映画だという気がしました。

(C)2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED.

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また自身も爆音映画祭などで携わってきた映画の音について、本作の特徴的な表現方法があることに言及した。

樋口:ダークナイトまでは、音楽は音楽として盛り上げて、環境音は画を補足するものとしてオーソドックスな使い方をしていた。そんな物語性に沿った音の使い方だったけど、『ダンケルク』は音楽なのか、環境音なのかわからないような印象的な音の使い方をしている。音が途切れることがなくて、本当に音が消えるのは最後の方のシーンだけ。その音の消え方も今までが夢の出来事だったかのような消え方をする…。予感とか予兆とか名残がない音作りからは、前後がはっきりとしたような物質としての音でしたね。音楽でいうと、50年代末くらいからはエコー(反響)をどう音楽に入れるかという時代だったところから、70年代末にエコーを消した後腐れのない音が完成して、80年代以降のはエコーゲート(エコーを切った音)が主流になっていって新しい音楽が始まった。そういう“音”が、これからのアメリカ映画を作っていくんだと思います。

森:映画の物語としても最後に盛り上がりを見せるんですが、悪い意味ではなく、どこかとってつけたような感じがする。そこが見せ場にはならないんですよね。ノーラン監督の変にあっけらかんとしていて情緒がないようなところは、逆に新鮮だったんですよね。

樋口:エコーが無くなった80年代以降の音楽というのも、当時の人からするとスカスカに感じられていた。それからまたエコーが隆盛して新しい領域にも入ってきたんだけど…。ここにきて、『ダンケルク』で、エコーのない、ニュアンスのない音や物語が登場してきたことはすごく面白いことだと思いますね。

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時間の解体と再構築

森は「完全にエンタメ大作の顔をした実験映画ですね」とコメントし、時空を自在に組み立てる“アーキテクト(設計士)”としての実験的な面に着目した。

森:本作の“時間の推移”ってすぐには理解できないと思います。最初に、陸で1週間、海で1日、空で1時間という大きな枠組みだけでて、あとは何の説明もなくごちゃまぜ。朝昼夜の推移もない。これは本当に大胆な“解体と再構築”だと思います。例えばインセプションでは、それまで文学的でぼやっとしたイメージの「夢」にカッチリとした“階層”という建築を与えている。それがノーラン監督のコントロールフリークとしての特徴なんです。本作における時間軸のあり得ないシャッフルも、現実世界に囚われず自分のコードでスクリーンの上に時間をもう一度作り直している。それがノーラン作品にしかない手触りを与えているんです。もしも、それぞれのシーンを整理して繋げてみたら…多分、面白くなくなるんでしょうね(笑)。

(C)2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED.

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アナログ主義者としてのノーランスタイル

そんなノーラン監督の特徴として外せないのが、実写にこだわる撮影だ。本作でもスピットファイアの実機にカメラをくくりつけて飛ばしたり、遠景に映る兵士をCGではなく立て板によって撮影を行うなど、そのこだわりは異常とも言える。しかし、その表現にこそアナログ主義者ノーランのリアリティへの追及があることを指摘する。

森:ノーランの面白いところは、CGでできるところをすべて実景、実写でやってしまう。海の上で炎が燃えているのも、役者からしたら「俺ら、あそこに行くんですか? 死んじゃいません?」って感じじゃないですか(笑)。そんなアナログ主義者なところもありますよね。

樋口:アナログ的なところに行く人たちは、デジタルで切り落とされたノイズの部分をすごく大切にするんだけど、ノーランはそういう事をしないんですよね。

森:ジェームズ・キャメロンをはじめ、21世紀の実験性と大衆性を兼ね備えながら映画の先端を極めようとした時に、3Dの手法がひとつあったと思うんです。けれども、3Dではない方向で、その先端を極めようとしているのがノーランスタイルだと思うんです。いろんな映像環境がある中で、そのスタイルは「映画でしか体験できないものってこういう事なのか」というヒントを与えてくれるものだと思うんですよ。そうすると、アナログ主義で、映画の新しいリアリティにタッチするノーランのトライアルは、樋口さんが爆音映画祭でやっていることと繋がっていると思うんです。

(C)2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED.

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樋口:インターステラーの爆音上映した時に、お客さんたちの印象に残ったのは、むしろ音が消えている時だったんです。『ダンケルク』でも、無音の部分にどれだけのものが詰まっているか…。この物語自体も、王道の物語からすると“無音”の部分だと思うんです。王道の物語からは排除されるような、無名の人たちの物語、無として捨て去られてしまうものを拾い上げている物語だと思うんです。そういう意味でも、エコーやニュアンスをなくして、その人たちを感情的に見ない。「無の人たちがここにいるのだ」ということを、“事実として存在している”ことを描いている。

森:透明の個が剥き出しになって、そこに“ある”という事なんですよね。実は、戦争も世界もそうですが、個人の小さなところと世界の大事件は直結して平行して連結しているという残酷さがありますよね。

樋口:多分アメリカ映画でそういう小さなこと、個が語られ始めたのは9.11以降。その個がが大きな出来事に重なっているという描き方がダンケルクでも印象的でしたね。

2度目を観ることで…

本日が2度目の『ダンケルク』鑑賞となった両名。イベント最後に、2度目の『ダンケルク』体験だからこそ見えてくる魅力をアピールした。

樋口:1度目と2度目で印象が違って観れました。最初は、映像や音響など技術的な凄味に圧倒されていましたが、2度目で少し余裕があった。2度、3度鑑賞することで、より小さいところまで目に見えるようになって、そこから物語を考えられるようになると思いますので、ぜひ何度も劇場に足を運んで頂きたいですね。

森:多分きりがないくらい話が続く、捉えがたい映画だと思うんです。掘り進めて行けばいくほど面白さが発掘できて、自分自身の映画の見方や考え方まで変えてくれる作品だと思います。私も樋口さんも劇場パンフに寄稿したのですが…、2度目を観てちょっと書き直したくなりましたね(笑)。

(C)2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED.

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またこのたび、公開初日の9日0:00より、新宿ピカデリーにて『ダンケルク』の爆音映画祭の開催も決定した! 『インターステラー』、『インセプション』を含めた豪華3本立てのオールナイト爆音上映となるので、ぜひお見逃しなく!

■イベント概要

『ダンケルク』公開記念 爆音前夜祭

▼会場:新宿ピカデリー(東京都新宿区新宿3丁目15番15号)
▼期間:2017年9月9日(土) AM 0:00 上映スタート予定(AM7:30頃、終了予定)
※23:30〜 樋口泰人氏、他ゲストをお招きしてトークショーを予定。
▼内容:クリストファー・ノーラン監督作3作品
『ダンケルク』、『インターステラー』、『インセプション』
▼料金:4,800円(税込)
▼チケット発売:9月3日 (日)24:00時より、新宿ピカデリー公式WEBにて発売開始

(取材・文/nony)


映画『ダンケルク』
9月9日公開

監督・脚本・製作:クリストファー・ノーラン
出演:トム・ハーディ、マーク・ライランス、ケネス・ブラナー、キリアン・マーフィー、ハリー・スタイルズ ほか

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