「いつか自分に『100点』をあげたい」―『三度目の殺人』吉田鋼太郎&是枝裕和監督インタビュー

吉田鋼太郎&是枝裕和監督

吉田鋼太郎&是枝裕和監督

合理主義の弁護士(福山雅治)が、ある殺人事件の容疑者(役所広司)の弁護を担当したことから、真実探求にはまり込んでいく。是枝裕和監督の最新作『三度目の殺人』は、そんな展開で映画の醍醐味を見せつける。緊張感を持続する作品の中で、観客がふっと日常の感覚に戻れる存在。それが吉田鋼太郎扮する、主人公のビジネスパートナーだ。吉田と是枝監督は初顔合わせである。

是枝:バランス的にはベストだったでしょ? 直感的に決めた部分もありますが、福山(雅治)さんの隣に誰を置くか。(福山とは)声の質の違う人を置きたかった。(キャスティングは)まず、声から考えますね。あと、ご出演いただくのは初めてなんですけど、ときどき事務所のそばでお見かけしていたんです(笑)。その姿をちょっとイメージして(オリジナル脚本を)書いています。ちょっとだけね(笑)

吉田:家が、是枝さんの事務所の近所なんですよ。たまたまオレが女の子をたくさん連れて歩いてるときに……

是枝:たまたまかどうかわかんないですけど(笑)

吉田:たまたまです!(笑) 

是枝:それがね、もうカッコいいんだ……こうなりたいなと。

吉田:実は、そんなにたくさん連れていた記憶がないんだけど。

是枝:いや、5人ぐらいはいましたよ。しかも、みんな綺麗だし。

吉田:記憶がないんだけどなあ……一昨日も道でばったりお会いしましたね。

(C)2017 フジテレビジョン アミューズ ギャガ

(C)2017 フジテレビジョン アミューズ ギャガ

吉田が演じているのは、懐の深いキャラクターである。相棒のようでもあり、保護者のようでもあり、ビジネスに徹しているようでもある。柔らかさの中にシビアさがあり、大らかでありながら現実的な印象も受ける。

吉田:福山さんがおやりになった弁護士はどこか、弁護に真実はいらない、減刑、もしくは無罪にすればいいという考え方。僕(の役)も、その考えで。福山さんよりもさらに大きな割合でそう思っている人でしょうね。ところが、途中から福山さんは(真実追求に)のめり込んでいってしまう。僕はそれを、おそるおそる覗いている感じですね。その関係性はとっても居心地が良かったですね。福山さんと一緒に演じていて。

吉田の存在が、映画全体の客観性にもつながっている。

吉田:そうですね。だから、こう言うと語弊があるけど、演じる上では無責任でいいんですよ。責任とらなくていいというか。

是枝:大人の役だからね。ヤメケン(元検事の弁護士)の方、何人か取材して、実はひとりモデルがいるんです。検察官を辞めている時点で、検察官が求めている真実とどこかで距離をとって生きようとしているわけですよね。もちろん、他にも理由はいくつかあるんでしょうけど。そういう正義感からドロップアウトして離れた、その人間性みたいなものがちょっと出るといいなと思っていたんですけど。そこは見事に表現してくれましたね。

(C)2017 フジテレビジョン アミューズ ギャガ

(C)2017 フジテレビジョン アミューズ ギャガ

どこか醒めているからこその度量とスケールが、吉田の芝居からは感じられる。

吉田:基本的に弁護士なので、司法試験に受かるまでものすごく勉強してきたわけじゃないですか。そのインテリジェンスみたいなものは弁護士さんにはあると思うんです。あとは、ちょっとした胡散臭さ。是枝さんがモデルになさった方とお会いしたことあるんですが、なかなか胡散臭いんです(笑)。どこか人を寄せ付けない雰囲気もある。それはほんと、弁護士独特のものだなと思って。それが出てるといいな……と(演じていて)毎回思いましたね。僕はもともと胡散臭い人間ですから(笑)、そこは出ると思うんですが、(弁護士ならではの)プラスアルファがあるかどうか。知的な感じと、人を寄せ付けない感じ。そこは難しいなと思いながらやってましたけど。

そのキャラクターには、どこか容易に踏み込ませない雰囲気があった。軽やかさはある。が、尻尾はつかませない。スキはない人物なのである。

是枝:そうなんだよね。あの吉田さんが演じた摂津が、裏で何してるか、わかんないよ。

吉田:役者になってなかったら、弁護士になりたいと考えたときもあったんですよ。弁護士という職業について何も知らない頃に、漠然と思ったんです。映画でよく出てくる法廷のシーンなんかを観ると、俳優と似てる部分がある。やっぱり、何かを演じている。面白そうな職業だなと。それはあくまでも表に表れてくる部分であって、裏ではおそらくいろんな駆け引きや取り引きがあるだろうからこそ、あるリアルを自分の中にきっちり置いておかないといけない。そうでないと演じられないですよね。あと、若い頃は正義というものがあって、自分は正義の側に立ちたいと思うんですよね。正義のために働く人。正義のために尽くす人。そういう意味で、弁護士はいいなと思ってましたね。

是枝:今回はたくさん取材できたのが大きかった。司法関係者って、思考のプロセスが全然自分と違うから。いかに(自分が)物事を情緒的に捉えているかが、司法関係者と話すとよくわかる。「いや、弁護士はそこには関心を持ちません」と、脚本を読んでもらったときに何度も言われたんです。流れが違う、と。殺人犯に対して、こういう順番では訊かない、と。それがキャラクター設定にも物語展開にも活きたんだろうなって。

(C)2017 フジテレビジョン アミューズ ギャガ

(C)2017 フジテレビジョン アミューズ ギャガ

さて、是枝監督がなりたい職業はなんだったのだろう。

是枝:小説家。物書きになりたいと思ってました。高校を卒業するくらいには、物書いてメシが食える人になりたいと。その前はもうプロ野球選手だから、夢のまた夢。小学校の卒業アルバムとかは普通にプロ野球選手と書いていた。なれると思ってないのに。

是枝監督は、自身の映画の小説版も執筆しているから、小説家でもある。そもそも、オリジナル脚本が多い監督だけに、もはやその時点で作家であり、物書きではあるのだ。つまり、夢は実現している。

是枝:物語が書きたかった。小学校の学芸会でも、物語を書く方で、出る方ではなかった。(舞台に)出るのは自分には向かないと思ってたから。話を考える「裏方」でしたね、小学校低学年の頃からずっと。そっちのほうが好きだったんだと思います。

(C)2017 フジテレビジョン アミューズ ギャガ

(C)2017 フジテレビジョン アミューズ ギャガ

吉田はもともと志向が「表方」だったのだろうか。

吉田:たぶん、そうですね。物心ついてからは。小学校6年生ぐらいから活発な少年になったんですよ。それまでは身体が弱かったので、表には出れずにいたんですが。中学3年のときは生徒会長とかやってましたから。ま、目立ちたがりだったんでしょうね。間違いなく。口八丁なんですよ。中身は何にもないのに口先だけは上手い、みたいなところはありますね。それで自分で自分のことが嫌になったりする(笑)。だから、役者は天職なんですよ。しゃべってるのは自分が考えたことじゃないですからね。人が考えたことを喋ってる。自分の中はがらんどうなのに、あたかも自分で考えたかのように喋るわけじゃないですか。だから、そういう意味では楽な仕事ですね。「それらしく」やればいいわけですから(笑)

是枝:すごく興味あるんですけど、そのがらんどうを何で満たすんですか。

吉田:結局、全部通り過ぎていきますよね。舞台でやったことも、映画でカメラの前でやったことも。全部通り過ぎちゃうんです。次のをまた入れなきゃいけない。結局、自分にはいつも何もないと。じゃ、どこで満たせばいいか。きっと、日常生活なんですよ。「苦労」をしたいと思うんです。結局、(大した)苦労はしてないんですけどね。僕は離婚もしてますけど、たとえば女での苦労。痴話喧嘩を何回やったか。包丁突きつけられたことがあるか。そういうことでガランドウがちょっとずつ満たされていって。他には何にもないんですよ。日常生活でのそういうこと以外は。

是枝:それって役に戻ってくるものなんですか。

吉田:そう信じてやってるんです。結構(役に)戻ってくることも、たまにある。弁護士やるときも不安なのはリアリティがあるかどうか。何やるにも絶対リアリティは気になるところで。足が地についてるかどうか。フィードバックされるときが、たまにあるんです。そうすると(いろんな経験を)やっておいて良かった、と心の底から思うわけですよ。弁護士に関しては、資格さえくれれば、法廷は乗り切れると思いますよ(笑)。ヤブ医者のような偽弁護士として(笑)

(C)2017 フジテレビジョン アミューズ ギャガ

(C)2017 フジテレビジョン アミューズ ギャガ

是枝監督は、天職なのだろうか?

是枝:この仕事があってよかった……というふうには思う。僕、ヤバいくらい他に何もできないんですよ。あと、飽きないからね、この仕事。まだ20年くらいだから。全然飽きないので、続けられるなあと。

吉田:僕もまったく飽きないですね。ただ、40年役者やってきて、これは満足だ、というのは一個もないです。だから飽きるというところまで行ってないんですね。

是枝:それはおんなじですよ。ああ、これ、満足、ってなったら、それ以上続かないんじゃないですかね。

吉田:ただ、俳優は体力が大事で。たぶん、それがもうすぐなくなってくるんですよ。間違いなく年齢のせいで。そうするとやれることがどんどん減ってくるんですよね。結局、何もできないまま終わってしまう可能性がいま見えてきている。どこかで、自分で自分を甘やかせて、これはもう「できた」としようと(笑)。どこかで自分に「100点」あげるときがないと、何もできなかったまま死んでいくことになる。それは嫌なんで。年齢をひとつの言い訳にして。どこかで「できた」ことにしたいですね(笑)

(取材・文:相田冬二)


映画『三度目の殺人』
2017年9月9日(土)全国ロードショー

監督:是枝裕和
出演:福山雅治、役所広司、広瀬すず、斉藤由貴、吉田鋼太郎、満島真之介、松岡依都美、市川実日子、橋爪功
配給:東宝・ギャガ

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是枝裕和

生年月日1962年6月6日(57歳)
星座ふたご座
出生地東京都

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