【レビュー】映画『彼女がその名を知らない鳥たち』―最低なのに感動的!豪華キャスト共演で紡ぐ愛のミステリー

(C)2017映画「彼女がその名を知らない鳥たち」製作委員会

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共感することはできないのに、胸を打つ感動がある小説を書く作家・沼田まほかる。公開中の『ユリゴコロ』原作)に続いて、彼女が手掛けた小説『彼女がその名を知らない鳥たち』実写映画が、10月28日に全国公開を迎えた。蒼井優、阿部サダヲ、松坂桃李、竹野内豊という豪華キャストを迎え、どうしようもないクズたちが絡み合う濃厚な人間模様を描く本作は、思わず頭を抱えたくなるほど陰鬱なのだが、その終幕には力強い感動が確かにあった。

物語の主人公は、働きもせずに怠惰な暮らしを送る十和子(蒼井)だ。十和子は同居している陣治(阿部)に経済的に依存しながらも、元カレである黒崎(竹野内)のことが忘れられない。そんなある日、十和子はクレームをつけたデパートの社員・水島(松坂)と、ふとしたきっかけから不倫関係を結ぶ。水島との仲を深めていくうち、いよいよ陣治を疎ましく思う十和子だったが、ある日彼女は、黒崎が失踪しているという予期せぬ事実を知ることになり…。

(C)2017映画「彼女がその名を知らない鳥たち」製作委員会

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これまでに『凶悪』『日本で一番悪い奴ら』で実写化を成功させてきた白石監督は、本作でもその辣腕を発揮している。沼田の小説を基にする作品では、『ユリゴコロ』に無理のある脚色が組み込まれたことで構造的破綻が生じていたことが記憶に新しいが、白石監督は本作で部分的な脚色を行っているものの(脚本は『NANA』やテレビドラマ『ラスト・フレンズ』『ごめん、愛してる』の浅野妙子)、原作に極めて忠実な物語を紡ぎ、構造的破綻の無い物語を構築している。また、濡れ場や暴力を含め、小説に描かれていた過激な場面もシビアかつリアリスティックに演出しているので、原作ファンが違和感や失望を抱くことはないだろう。

白石監督のもとに集結したキャストの共演にも拍手を送りたい。主演の蒼井は、これまでにも多彩な役柄で輝きを放ってきたが、本作では今後のキャリアにおいても語り継がれていくであろう名芝居を見せてくれた。陣治に対する一つ一つの台詞に込められた嫌悪、水島と肉体を重ねているときの恍惚、払しょくできない黒崎に対する思慕をはじめ、劇中における十和子の姿には「だらしなさ」がありありと表れており、非常に嫌な女として映る。しかし、蒼井はそのネガティブなイメージとともに、どこか十和子が気になってしまうよう意識させる「何か」も宿らせているため、観客は十和子というキャラクターから目が離せなくなる。単なる嫌な女ではない、不思議な引力を持つ十和子の姿を、「演じている」と感じさせないリアルな質感を伴わせながら表現した蒼井の芝居からは、改めて役者としての巧さを感じた。

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その蒼井と向かい合っての芝居は初めてとなった阿部も素晴らしい。彼が演じる陣治は物語の核となる人物で、物語の構成上、極めて重要な役割も持っているが、これまでに個性派としてキャリアを積み重ねてきた阿部は、台詞の後に残る余韻や表情から感じさせる「秘密めいたもの」によって、この役割を見事に果たしてみせた。一つ一つの所作に現れる嫌な男臭さ、そして背中越しに醸し出すペーソスも絶妙で、陣治というキャラクターとの親和性は極めて高い。ちなみに、一見すると見落としてしまいそうな部分にも「汚れ」が確認できるが、彼の「汚れ」には表面的な視点からは見えない意味が隠されている。一方の竹野内と松坂は、それぞれ「どうしようもないクズ」「薄っぺらで滑稽な男」の生きざまを体現し、ドロドロな人間模様における「痛み」と「苦味」に深みを与えてくれた。ただ、イメージと役柄のギャップがあまりにも大きいので、ファンが減ってしまわないか、こちらが心配になってしまう。

(C)2017映画「彼女がその名を知らない鳥たち」製作委員会

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物語が進行するごとに「クズだなあ」「最低だなあ」といったネガティブな印象が強まっていく本作だが、理解の余地がないわけではない。黒崎は人間とは思えない突き抜けたクズであるため例外なのだが、十和子、陣治、水島が見せる行いには、嫌悪感を抱くことは避けられないながらも、どこか部分的に理解できるものがある。それは共感とは異なるものなのだが、観客は「あまりにも人間的な匂い」を醸し出すクズたちと、どこかで繋がりを感じることができるのだ。共感できないのに、なぜ理解できてしまうのか?その理由は、人には多かれ少なかれ、クズな一面が隠されているからだろう。それを発露するか否かは人それぞれだが、本作の登場人物は、発露してしまう不器用な人々なのである。これまでにも「普通」の枠組みから外れた人々の姿を描いてきた白石監督のディレクションからは、そうした「ダメな人々」への愛情を感じることができた。その愛情もまた、見る者を引き込むパワーの源となっているのだろう。

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最低な人間たちが絡み合った結果として導き出される結末では、恐るべき真実が明らかになる。しかしそれと同時に、あまりにも悲しく、それでいて深い愛が表出する。それまで紡がれてきた陰鬱なドラマが前振りとして存在していることも相まって、自己犠牲によって他者の生が肯定される終幕には、力強い感動が確かに生まれていた。一つの疑問も残されるが、その疑問に対する正解はない。だからこそ観客は、ラストシーンで示される究極の愛について反芻することができる。良い映画とは、必ずしも白黒をはっきりつけるものではない。また、必ずしも共感できるものだったり、観客に寄り添うものではない場合もある。そういう意味で、『彼女がその名を知らない鳥たち』は、長きにわたって見る者の心に残る映画である。

(文:岸豊)


映画『彼女がその名を知らない鳥たち』
公開中

蒼井優 阿部サダヲ
松坂桃李 / 村川絵梨 赤堀雅秋 赤澤ムック・中嶋しゅう / 竹野内豊
監督:白石和彌
原作:沼田まほかる「彼女がその名を知らない鳥たち」(幻冬舎文庫)
制作プロダクション:C&Iエンタテインメント
製作:映画「彼女がその名を知らない鳥たち」製作委員会
【R15】
配給:クロックワークス
2017年/カラー/シネマスコープ/DCP5.1ch/123分

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