声での仕事という難しさと奥深さ―映画『ジオストーム』日本語吹替版声優 上川隆也×山本耕史×ブルゾンちえみインタビュー

ブルゾンちえみ、上川隆也、山本耕史

ブルゾンちえみ、上川隆也、山本耕史(クリックでフォトギャラリーへ)

世界中が度重なる自然災害に悩まされている中、人類の悲願である全世界の天候を制御する希少コントロール衛星が開発され、世界の天候は完璧に管理されていた。ところが、運用から3年が経とうとしていたある日、衛星が暴走を始める――。

『インデペンデンス・デイ』で脚本・制作を担当したディーン・デブリンの長編映画デビュー作『ジオストーム』は、衛星の暴走による地球規模の同時多発災害=ジオストームの発生を食い止めようとする人類の奮闘を描く。

今回、本作の日本語吹替版で声優を務めた上川隆也、山本耕史、ブルゾンちえみにインタビュー。上川は洋画実写吹替が初、ブルゾンは声優初挑戦がハリウッド大作となった。

上川は、ジェラルド・バトラー演じる衛星開発者の科学者・ジェイク役、山本はそのジェイクの弟でホワイトハウスのスタッフであるマックス役(演:ジム・スタージェス)、ブルゾンはマックスの恋人であり凄腕の女性シークレットサービスであるサラ役(演:アビー・コーニッシュ)を担当した。

上川はジェラルド・バトラー(手前)を担当/(c) 2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., SKYDANCE PRODUCTIONS, LLC AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

上川はジェラルド・バトラー(手前)を担当/(c) 2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., SKYDANCE PRODUCTIONS, LLC AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

上川:お話をいただいた時はとても嬉しかったです。ただ、吹き込む相手がジェラルド・バトラーさんだと聞いて、僕とは体格からして全く違いますし、声も僕の普段のトーンが持ち込めるかどうかがすでに疑わしかったんです。なので、むしろ何も決め込まずに臨んで、現場でディレクターさんとコミュニケーションしながら演技や声色を造っていきました。これまでも幾つかの役を声で演じさせてもらいましたが、それまでの経験とは全く違ったアプローチが必要でした。

山本:僕は基本的に声のお仕事は好きなんです。自分たちがやっている俳優業と使っている神経が違うので、より役に対して繊細になれたり、芝居をするということに対してある意味初心に帰らせてくれる瞬間でしたね。人は、歳を取れば取るほど先生のようにはなるけど、生徒にはなれなくなっていくじゃないですか。なのでこういう経験は貴重ですし、今回もとても刺激的で、いろいろと吸収することが出来ました。

ブルゾン:お話が来た時は本当に嬉しかったんです。洋画を観るのが好きですし、映画に携われることが嬉しくて嬉しくて。自分がどんな声をだすのかとか、(アフレコの作業が)実際どんなことになるかもわかっていない中で「やるしかない」という感じでした。

山本はジム・スタージェス、ブルゾンはアビー・コーニッシュ/(c) 2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., SKYDANCE PRODUCTIONS, LLC AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

山本はジム・スタージェス、ブルゾンはアビー・コーニッシュ/(c) 2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., SKYDANCE PRODUCTIONS, LLC AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

画面上では会話もある3人でも、実際のアフレコ収録はひとりひとりの作業。上川は3人の中で一番最初に、次いで山本、ブルゾンと続いていくが、相手の声があるかないかというのは一つ大きな要素だし、自分の引き出しの出し方も変わってくるだろう。今回で言えば、上川には実際に弟が、山本には兄がいたことも大きな助けになったに違いない。

上川:ぞんさいさやその中にある信頼感や絆といった、兄弟だからこその距離感は自分の引き出しから持ち出した感はあります。ジェイクとマックスのような関係の時期は僕は過ぎましたが、若い頃は兄弟間のいさかいや衝突は必ず通ります。でも、だからと言って関係が断絶するわけでもなく、次会う時はまたあっけらかんと笑いあっていたりする――そういったことが実際の生活であったという経験は大きな助けになったと思います。

山本:もし僕が兄役だった場合「どうやって弟に接したら良いのかな」と考えたと思うんです。でも、今回の現場では最初から最後まで何の違和感もなく普通のこととして出来たので、これはひとえに僕が弟だからか、と収録後に気付いたんです。(ジェイクとマックスについては)兄弟はどちらかが違う才を持っているんですよ。実際僕と兄は得意なことが真逆だったので、似ているようでやれることが全く違ったりするのは、この作品でも共感したところかもしれません。だから時には相手が羨ましかったり、時には優越感を感じたり。そんな2人が歳を取っていくにつれて補い合って、支え合うという形になるのが『ジオストーム』にも共通する部分なのかなと。

希少コントロール衛星・ダッチボーイ/(c) 2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., SKYDANCE PRODUCTIONS, LLC AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

気象コントロール衛星・ダッチボーイ/(c) 2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., SKYDANCE PRODUCTIONS, LLC AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

役者として経験値のある上川・山本とは違いまったく声優としての演技経験のないブルゾンだが、声を当てていることに違和感を感じさせないのは彼女が必死にもがき、試行錯誤した努力が実を結んだ結果だろう。

ブルゾン:自分がネタでやっているキャリアウーマンの感じで行くと、全然通用しなかったんですよね。声だけだと合わなかった。この顔と身振り手振りにどれだけ救われていたのか、ということがよくわかりましたし、サラの見た目・動きで、となるともっと大人っぽい言い方だったり低いトーンで、と演出家の方に指導いただいて。自分ではこの音を出せていると思っても、実際後で聞いてみると想像以上に高かったりとか、演出家の方が言ってくださることも頭では理解できるんですが、その音をどうやったらこの体から出せるのかがわからなくて、それが悔しくて悔しくて仕方なかったです。

また、初めて故に「正解がわからずに自分を見失った」とも。

ブルゾン:演出家の方が部屋の中に入ってきて「これくらいの距離感で話してみて」とか、「うっ」って声を出すときも体を押してもらって感覚を教えていただいたり、本当にゼロから指導していただいたので…もう、修行でしたね。何が正解か本当にわからなくて自分を見失いましたし、まだ自分が映画の中に入ってやったほうが簡単なんじゃないかなと思うくらい、声優さんって難しいお仕事なんだなってことをあらためて痛感しましたね。本当に難しかったですが「上手くなりたい」とか「ちゃんと100点を出したい」という気持ちも強かった分、(上手くいかない)悔しさも大きかったんです。

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(c) 2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., SKYDANCE PRODUCTIONS, LLC AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

自分がすべてを演じれば、100%の自分で勝負できる。しかし、吹替では実際の人間がすでに演じたものにシンクロさせていく作業だ。声以外でフォローできるものがない芝居に対してどういったアプローチを試みているのだろう?

上川:僕は幸いにも山寺宏一さんや林原めぐみさんとお友達としてお付き合いさせていただいているんですが、声の芝居の師匠と密かに仰いでいるお二人でもあるんです。そんな林原さんから聞いたとても素敵な忘れられない話があって、ある時林原さんが『新世紀エヴァンゲリオン』のファンの方に「あのシーンのレイちゃんの表情、とても印象的でした」と言われたことがあったらしいんです。でも、林原さんが頭のなかでそのシーンをどんなに再生しても、その方が言っている表情が見つからない。それはよくよく考えてみたら、お客さんはシンジとレイのカットバックを見ているので2人の顔を見ているんですが、林原さんは自分が演じるレイの目を通してシンジしか見ていないので、頭のなかにはシンジ君の顔しかなかったという訳なんです。初めてその話を聞いた時には心底驚きましたし、感動しました。理想はそんな演技です。いつの日かそこに至れて、マックスの顔だけしか自分の記憶に残らないような芝居ができたらと思いますが、遠く及びません(笑)。

(c) 2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., SKYDANCE PRODUCTIONS, LLC AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

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山本:僕はまずジム・スタージェスさんの顔と芝居の雰囲気を見て「このくらいの声の感じかな」といったような摺り寄せでの入り方をします。声だけで参加する時は、自分が思っている以上の波を付けないとハマらないんですよね。会話のところはまだ良いんですが、追われて大声で叫ぶところとかは、(自分の芝居が)思ったより声に動きがなかったりするので。「あ、もっとなんだ」って思って「こんなやるか?」って思ってやってみると「これで普通だな」と。だから声優さんって声での表現力・説明が凄く長けていますよね。今回やりながらちょっと気づいたのは、俳優業では僕は台詞にあまりに抑揚をつけないようにやっている気がするんです。それをやると芝居がかっている感じになってしまうので。なるべくオーバーにしないように、台詞に抑揚をつけないように…と演技している時はもっとフラットですから。普通のドラマでやるようなテンションでは、何かスーッとしすぎちゃって届いていない感が出てきてしまうんです。なので、声だけで参加するというのはぜんぜん違う作業なんだと。ただ、似たようなことは舞台ではたまにやりますけどね。優しい人や怖い人がいきなり豹変するとかいうのを声で表現したりとか。

(c) 2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., SKYDANCE PRODUCTIONS, LLC AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

(c) 2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., SKYDANCE PRODUCTIONS, LLC AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

主に兄弟としての心情面でのやりとりがメインとなるジェイク&マックスとは違い、ブルゾン演じるサラは恋愛面(女性らしさ)や仕事面(アクション含む)において多彩な活躍を見せる幅もある。初体験にしてはかなりの大役だったのではないだろうか。

ブルゾン:「『上手くできるかな』って想いでやるとそういう声になるよ」とも教えていただいたので、できるだけ「上手くできるかな」を考えないために、サラがちょっとでも笑ったら自分も笑う、ニヤッとしたら自分もニヤッとする、真剣な顔をしたらそうする、というようにできるだけ寄り添うというか「私が今できることは、この人と同じにすることだ」と。椅子から立ち上がる時の声とか、普段無意識でやっていることほど難しくて、どうやって出しているのかわからないんですよね。人に指図することは今まで…なんとなくやったことはあるんですけど、その時も言われました。「with Bに指図するように」とかだったらすごく分かりやすかったんですけど(笑)。マックスと恋人としてのシーンは「その場の雰囲気に溶け込め!」と思っていました。私は本当にありがたいことに山本さんの声があったので、雰囲気をつかみやすかったですし、相手のことを好きだって言う気持ちでやりました。「自分の好きな相手だったらこういうトーンかな」とか、できるだけ自分の中にある経験を掘り起こしていましたね。今回いろいろと勉強になりましたし、ナチュラルなことほど難しいんだなというか、吹替の見方が変わりましたね。

(c) 2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., SKYDANCE PRODUCTIONS, LLC AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

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様々な苦労やアプローチを元に挑んだ本作での吹替えでは、上川と山本の経験が生きたナチュラルな兄弟感や、ネタではない本気のキャリアウーマンを演じるブルゾンが見せる人間模様にももちろん注目だが、ジェイクは宇宙で、マックスとサラは地球で、世界各地で巻き起ころうとする大災害を止めるべく立ち向かう彼らの活躍からももちろん目が離せないのである。

(上川隆也 衣装協力:「D’URBAN」「Losguapos」)


映画『ジオストーム』
公開中

監督:ディーン・デブリン
脚本:ディーン・デブリン&ポール・ギヨー
出演:ジェラルド・バトラー、ジム・スタージェス、アビー・コーニッシュ、アレクサンドラ・マリア・ララ、ダニエル・ウー、エウヘニオ・デルベス、エド・ハリス、アンディ・ガルシア
全米公開:2017年10月20日
配給:ワーナー・ブラザース映画

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