“愛とは何なんのか”を突き付けてくるラブストーリー『嘘を愛する女』【連載コラムVol.40】

映画ライター・新谷里映が心動かされた、本当に観て欲しい映画たちを連載コラムでお届け。

第40回目は、2015年から始まった『TSUTAYA CREATORS’ PROGRAM』(TCP)で応募総数474本の中から初代グランプリを勝ち取った企画を、長澤まさみを主演に迎えて映画化した『嘘を愛する女』。実話に基づきながらも、中江和仁監督が生み出したオリジナル脚本の面白さは、観る人ごとに答えの違う愛の形だろう。


(C)2018「嘘を愛する女」製作委員会

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この人を愛している、と信じて疑わなかった自分の愛を試される──映画『嘘を愛する女』は、人を愛するとはどういうことなのか、愛する人の何を愛しているのか、愛とは何なんのかを突き付けてくるラブストーリーだ。

主人公の川原由加利(長澤まさみ)は、ウーマン・オブ・ザ・イヤーに輝くキャリアウーマン。5年間同棲している恋人の小出桔平(高橋一生)との結婚を考えていたが、ある日、その幸せな日々が一変。桔平がくも膜下出血で倒れ病院に運ばれたことで、彼の名前・職業・免許証・戸籍、すべてが“嘘”であることが分かる。

(C)2018「嘘を愛する女」製作委員会

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すべて嘘……? 彼は何者なのか? 騙していたのか? 愛情が一瞬にして疑惑に変わり、自分自身が彼を愛した事実さえも不確かになっていく。愛した男が何者なのか、という謎を突き止めようとする物語であると同時に、彼の何を愛していたのか、そもそも愛しているのか、女の気持ちを整理していく心の旅でもあり、ラストで描かれるヒロインの選択にひとつの答えが用意されている。

映画において、愛した人が詐欺師だった、マフィアだった、犯罪者だったなど、騙しや嘘は物語を面白くするスパイスのひとつであり、決して珍しくはないが、この『嘘を愛する女』の面白さはリアリティにある。もしも、いま自分の愛している人がこの映画の桔平のように、嘘の塊だったら? と、映画の世界から現実の世界へと、その疑問が流れ出てくるところにある。

(C)2018「嘘を愛する女」製作委員会

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実際、この映画のアイデアは実話に基づいている。中江和仁監督が高校時代に辻仁成のあるエッセイを読んだとき、そこにこの映画のヒントとなるエピソード──病気になっても病院に行こうとしない男性を不思議に思った内縁の妻が彼の素性を調べると、名前も何もかも嘘だった──という事件と出会う。それをヒントに中江監督は脚本を執筆し、新たな才能の発掘を目指すプロジェクト「TSUTAYA CREATOR’ S PROGRAM FILM 2015」でグランプリを勝ち取った。応募総数474本の中から選ばれた1本は、実話に基づくリアリティと原作ものではないオリジナル脚本の面白さのある映画として放たれた。やはり、オリジナル脚本は未知なる部分が多いからこそドキドキする。

物語としては、嘘で固められた恋人が何者なのかを明らかにするため、由加利は私立探偵の海原匠(吉田鋼太郎)に調査を依頼。桔平が書き溜めていた700ページにも及ぶ書きかけの小説が見つかり、その内容から瀬戸内にある灯台に彼の秘密があるのではないかと2人はしまなみ海道へと向かい、ひとつひとつ灯台を訪ねていく。ラブストーリーでありロードムービーでもある。

(C)2018「嘘を愛する女」製作委員会

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TSUTAYA CREATOR’S PROGRAM FILMに応募したときは、灯台ではなく狛犬の設定だったそうだが、灯台に変更したことで、よりロマンチックになっている。海で船が遭難しないよう道しるべとなる灯台。その灯台に、男は秘密を隠し、女が探す──。深読みするとしたら、桔平は本当の自分を探して欲しかったのかもしれないし、由加利は彼に照らされ続けたいと思っていたのかもしれない。ラストシーンは説明セリフはなく、観る人によってきっと解釈は異なるだろう。それは、観る人が愛をどう捉えているのかを突き付けられる瞬間であり、自分の愛の概念を知るシーンでもある。

由加利は桔平を本当に愛していたのか? また、桔平は由加利を愛していたのか? 男と女の違いではなく、愛する立場と愛される立場それぞれであの結末を考えると、ますます愛って何なんだ? と迷い込む。そして、もう一度映画を観て答えを探したくなる。何とも中毒的な映画だ。

(文・新谷里映)

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新谷里映

フリーライター、映画ライター、コラムニスト
新谷里映

情報誌、ファッション誌、音楽誌の編集部に所属、様々なジャンルの企画&編集に携わり、2005年3月、映画ライターとして独立。 独立後は、映画や音楽などのエンターテイメントを中心に雑誌やウェブにコラムやインタビューを寄稿中。

【tumblr】新谷里映/Rie Shintani

映画『嘘を愛する女』
公開中

監督:中江和仁
脚本:中江和仁・近藤希実
出演:長澤まさみ 高橋一生 DAIGO 川栄李奈 黒木瞳 吉田鋼太郎
配給:東宝
製作:「嘘を愛する女」製作委員会
制作プロダクション:ROBOT

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