「もどかしい10代を過ごしていたからこそ、いまできることがある」―『坂道のアポロン』三木孝浩監督&真野恵里菜インタビュー

真野恵里菜×三木孝浩監督監督

真野恵里菜×三木孝浩監督監督

小玉ユキの伝説的人気コミックを三木孝浩監督が映画化した『坂道のアポロン』は、胸を締めつけられ、心が震える青春劇だ。友情と恋が入り混じった男子ふたり女子ひとりの幸せなトライアングル。その関係を(結果的に)かき乱す存在を真野恵里菜は演じ、鮮烈な印象を残す。高校生たちには手が届かない「大人」の世界を垣間見せるヒロインに扮している。

三木:難しいですよね。ピンポイントで出てきて、ある種の爪痕を残すキャラクターというか、波を立てる役ですから。とはいえ、別に悪い人でもなくて、その中でどう役割を果たすか。出どころが全編にわたっているキャラクターではないからこそ役者にかかる負担は大きいなと。でも、そのあたりの塩梅がいいんですよね。薫(知念侑李)とか千太郎(中川大志)とか律子(小松菜奈)がわからない、大人のふたり。(真野演じる百合香の恋人、淳一役の)ディーン(・フジオカ)さんとのカップリングも素敵だったんですけど、(高校生では)わからないなりの大人な空気を、非常に素敵にお芝居してくれていて、良かったです。

(C)2018 映画「坂道のアポロン」製作委員会 (C)2008 小玉ユキ/小学館

(C)2018 映画「坂道のアポロン」製作委員会 (C)2008 小玉ユキ/小学館

真野:そういう役が初めてだったんです。どっちかというと、ワイワイうるさい元ヤンとか、ドSとか、色の濃い役が多かったので(笑)

三木:同じ世代の隣にいるようなイメージ。

真野:ミステリアスな大人の女性と言う役柄はなかったです。千太郎が一瞬で恋に落ちるっていうのは、もうただプレッシャーでしかなくて。あ、新しいポジション来た! と思ったんですけど。でも、実際現場に入ってみると、衣装などでやメイク百合香にさせていただけました。あとディーンさんが最初の共演シーンで、車中の雰囲気を作ってくれたことにも助けられました。ディーンさんに感謝です。きっと千太郎はこういう女性をいままで見たことがなかったんだろうなって。海で真っ白いワンピースを着て、帽子をかぶって。見た目のインパクトがすごくあったので。あなたとは住む世界が違うのよ、じゃないですけど。そういう感じなのかなあと思って演じました。

(C)2018 映画「坂道のアポロン」製作委員会 (C)2008 小玉ユキ/小学館

(C)2018 映画「坂道のアポロン」製作委員会 (C)2008 小玉ユキ/小学館

真野=百合香の存在は映画の良質なアクセントであり、素敵なスパイスになっている。出番の多くない役を輝かせるために必要な演出はなんだろう?

三木:目線ですね。大事にしているのは、台詞を喋っていないとき、どこを見ているか。たとえば千太郎が百合香を連れて地下室に来たときに、百合香はどこを見て、どういう空気を察して、最後、どういう感情で淳兄(千太郎にとって淳一は兄貴のような存在)の背中を見つめるのか。観客が想像する部分ですけど、語らないところでの、ああ、そういう関係性なんだろうなとふくらむ部分は、やっぱり役者の目線の芝居によるところが大きいかなと思っていて。僕、真野さんのすごいなと思うところは、現場でも素敵だったんですけど、編集のときにすごく助けられたんです。キャラクターのバランスを考えて、視線のカットを撮ってるときに、ここで百合香の表情の変わった瞬間が欲しいなと思うと、そういうタイミングのお芝居をちゃんとしてくれていて。

真野:そう言っていただけてうれしいです!

三木:これは助かる!

真野:ほんとですか。

三木:ここで百合香の表情の変化が欲しいと思うと、ちゃんとある。それはびっくりしました。

真野:わたしもびっくりです! わたしは監督が上手く編集してくれたんだなと思ってたんですよ。

三木:無意識かもしれないけど、どこか感覚で「それが必要だ」と捉える女優さんなのかなと。そこの感覚が鋭いというか。それは現場以上に編集でびっくりしました。

真野恵里菜

真野恵里菜

多くを語る役ではない。だから、要所要所に挟み込まれる百合香の目線は重要だ。

真野:あとは、空気感と間を意識しました。大人の女性だからこそ、多くは語らない。空気は大事だなーと思ってました。

三木:わかりやすく敵役とか、ライバルとかだったら、表現としてやりやすいけど、そうじゃないから難しいよね。

真野:やりがいがありました。実写ならではのシーンってあると思うんです。生身の人間が、役者たちが、その空気感の中で芝居をすることが、実写化することの意義だと思うんです。アニメではできない目線や空気があるので、それが大事なんだなと今回の作品であらためて思いました。

限られた時間でキャラクターを伝える。「それが脇役の醍醐味」とある女優が語ってくれたことがる。ある意味、主演するとき以上に注力するのだと。

(C)2018 映画「坂道のアポロン」製作委員会 (C)2008 小玉ユキ/小学館

(C)2018 映画「坂道のアポロン」製作委員会 (C)2008 小玉ユキ/小学館

真野:それはすごく思います。自分のいる意味というか。いなくても成立してしまうかもしれないけど、なぜこのキャラクターは(この物語に)いるのかということは考えています。主役じゃないから自由度も効く。役作りの上で、やっぱりメインとなるとなかなか遊びがきかないですし、アドリブもできなかったりする。そこで盛り上げてくれるのが脇だったりするので、(芝居は)みんなバランスなんだなと思います。逆にいろんな人がいるからこそ主役が輝いたりもしますし、いろいろな感情を得るのだと思います。何年か前は「主役をやりたい」という野望はすごくあったんですよ。漫画原作のヒロインやるんだ! みたいな(笑)。でも、途中で、私、そっちじゃないなと気づいて。

三木:え? 全然できると思うけどね。

真野:ヒロインに意地悪するみたいな役柄の方が自分はやりがいを感じられるのかなと思うようになりました。もともとディズニー映画がすごく好きで。なんでプリンセスたちは最初、普通の女の子からプリンセスになれるのか? というと悪役がいて、そこから試練を渡されて、それを乗り越えて輝く。この人がいなければプリンセスはプリンセスにはなれないということに気づいたときに、あ、主役にこだわる必要はないんだと。みんな役者は平等。もちろん主役の人も輝ける分、大変なこともいっぱい背負っているし、わたしたちも悔しい想いをしながらも、いただいた役で次のチャンスを掴む。みんな、うまく回ってるんだなと。

真野恵里菜

真野恵里菜

三木:真野さんの演技って、相手の芝居を活かす演技だと思うんですよ。リアクションが違ってたら、相手の演技も伝わらない。そこを的確に表現してくれるので、監督としてはすごくありがたい存在。みんながまた使いたくなる存在だとは思いますけどね。それは役者としてのすごい才能だと思いますし。そこは大事にしてほしいなと思いますね。

真野:褒められることがあまりないので……どうしよう……

三木:そんな!

真野:ダメ出しを受けて、悔しい! って感じることが多かったので、(褒められると)むず痒いですね(笑)!

三木:これからこういう大人の女性の役もくるんじゃない?

真野:そうですね。自分の中でもう学生役はおしまいかなと思っていて、2年くらい前から、これが最後の制服かなと思ってるんですが、去年も制服着てたんですよね(笑)。そろそろ自分自身も大人の女性にもなりたいですし。今回の作品は試写で観たときに、純粋に楽しめたんですよ。自分が出演させていただいている作品って、自分の反省会になってしまって、作品自体を楽しめなくなってしまうんです。それが役者をやる上での悲しいことだなと思ってるんですけど、試写で観たときに、最後、すごく泣いちゃって。友情、恋、音楽、全部が絡み合う感じが素敵でした。思ってたより大人向けの映画なんだなと。一見すると見若い子向けの映画かなと思うんですけど、大人が観たら、より一層響くものがあるんだろうなあと思いますし、親子で観られる映画だと思います。

(C)2018 映画「坂道のアポロン」製作委員会 (C)2008 小玉ユキ/小学館

(C)2018 映画「坂道のアポロン」製作委員会 (C)2008 小玉ユキ/小学館

この映画は後味がいい。だが、同時に、もうどうにもならない青春期の過ちを描いてもいる。ふたりには「やり直したいこと」はあるだろうか。

三木:小学校ぐらいのときの話ですけど、すごく仲良かった幼馴染みの子と、ほんの些細なことで喧嘩しちゃって。しかも、自分がちょっと気になる女の子がらみで、何か冷たく当たったりして。そういう後悔っていまだに憶えてるんだなあと。自分も傷ついてるんですよ、そのことで。そういう意味では(この映画も自分と)同じだな、と思いながら撮ってましたけどね。

真野:小学校4年生ぐらいのときの話ですごく苦い思い出なんですけど、その頃は男の子とドッジボールをしたり外を駆け回ったりするような活発なタイプで。掃除の時間に、同じグループで、ちょっといいなと思う男の子がいたんですけど、照れかくしもあって、どうしても言葉遣いも悪く、男の子に向かって「お前」とか言ってしまってたんです。掃除をサボってた男の子に「お前」って言ってたら、そのちょっといいなと思ってた男の子から「お前、ガサツだな」と言われたのは……

三木:ショック!

真野:……結構、憶えてますね。照れかくしもあったけど、活発すぎるがゆえに、ですね。男の子に対しても強気で言葉悪く言ってたら、ちょっといいなと思う男の子からそう言われてしまうっていうのは……その日の帰りは、かなりテンション低く帰りました。それこそ映画に出てくるような急な坂道を上りながら。気が重く、すごく時間が長く感じられましたね。それ以来、その男の子とは喋れなくなりましたね。戻りたい……あと、箒は振り回すもんじゃない(笑)

(C)2018 映画「坂道のアポロン」製作委員会 (C)2008 小玉ユキ/小学館

(C)2018 映画「坂道のアポロン」製作委員会 (C)2008 小玉ユキ/小学館

三木:学生時代、恋愛にしても、うまくいかなかったことが、すごくいまに活かされてるなって思います。あのとき、こうしておけばよかったな、とか。好きな女の子に気持ちも伝えられなかったり。なんかおかしいなっていう……

真野:もどかしい……

三木:もどかしさが10代の頃たくさんあったから、いまも「そっち側」の気持ちで描ける。何十年も経って、それが活かされてるんですよね。10代の自分に「その気持ちが、必ず役に立つから」と言ってあげたいですね。

真野:こういう作品をやると思いますけど、私は15歳で「ハロー!プロジェクト」に入って、21歳ぐらいまで活動してきて。自分ができなかった青春時代を、作品を通していま、経験できている気がします。それがありますね。いまだに学生役をいただいたりして「青春」がくると、自分がもしこのお仕事をしてなくて学生だったら、こういうことができてたんだ! と。お仕事をしながら、できなかったことを取り戻してる感じはすごくあります。

(取材・文:相田冬二)


映画『坂道のアポロン』
3月10日(土)全国ロードショー

出演:知念侑李 中川大志 小松菜奈
真野恵里菜/山下容莉枝 松村北斗(SixTONES/ジャニーズJr.) 野間口徹
中村梅雀 ディーン・フジオカ

監督:三木孝浩
脚本:髙橋泉
原作:小玉ユキ「坂道のアポロン」(小学館「月刊flowers」FCα刊)
製作幹事:アスミック・エース、東宝
配給:東宝=アスミック・エース
制作プロダクション:アスミック・エース、C&Iエンタテインメント

坂道のアポロン

坂道のアポロン

監督 渡辺信一郎
脚本 加藤綾子  柿原優子
原作者 小玉ユキ
音楽 菅野よう子
声の出演 木村良平  細谷佳正  南里侑香  遠藤綾  諏訪部順一  北島善紀  岡本信彦  村瀬歩  佐藤亜美菜
概要 フジテレビ系“ノイタミナ”枠で放映されたTVアニメーション。原作は“このマンガがすごい!オンナ編”2009年版で第1位に選ばれ、2012年第57回小学館漫画賞(一般向け部門)を受賞した小玉ユキの同名コミック。「カウボーイ・ビバップ」の渡辺信一郎監督と音楽担当の菅野よう子が、再びタッグを組んで贈る音楽アニメ。若手ジャズミュージシャンの松永貴志(ピアノ)、石若駿(ドラム)を演奏に起用した、本格的なジャズサウンドと斬新な映像表現の融合が話題となった。
1966年、異国情緒あふれる港町・佐世保。高校1年生の西見薫は、横須賀から伯父の住むこの町に一人引っ越して来た。転校初日、繊細な薫は環境の変化と周囲からの無遠慮な視線によるストレスから、吐き気を催してしまう。屋上に向かった薫は、そこで“札付きの不良(ワル)”の異名をとる川渕千太郎と出会う。転校生の薫を何かと気にかけてくれるのは、千太郎の幼なじみで“ムカエレコード”の看板娘の迎律子だ。ある日律子に誘われてムカエレコードに立ち寄った薫は、店の地下にあるスタジオで千太郎のドラムプレイを目の当たりにする。幼い頃からクラシックピアノに親しんできた薫にとって、その響きは新鮮な衝撃だった。優等生で周囲に心を閉ざしがちだった薫が、ジャズを通して仲間と出会い、変わっていく姿を描く青春群像劇。

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