分かっていたつもりだけど、改めて感じたメリル・ストリープの凄さ ― 『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』【連載コラムVol.44】

映画ライター・新谷里映が心動かされた、本当に観て欲しい映画たちを連載コラムでお届け。

第44回目はスティーブン・スピルバーグ監督が手がける『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』。メリル・ストリープ(なんとスピルバーグとは初仕事!)とトム・ハンクスを軸に描かれる「絶対的権力(=政府)」との闘い。イメージにないような女性像を演じても、やっぱりメリル・ストリープは凄いと感じた1本。


(C)Twentieth Century Fox Film Corporation and Storyteller Distribution Co., LLC.

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ペンタゴン・ペーパーズとは、アメリカ政府──トルーマン、アイゼンハワー、ケネディ、ジョンソンの4政権にわたって隠蔽されてきたベトナム戦争に関する最高機密文書のこと。この映画は、彼らが30年もの間ひた隠しにしてきた7,000枚に及ぶその文書がどのように国民に公表されたのか、その事実を描いている。

物語は1971年にニュヨーク・タイムズが文書の一部をスクープしたところから始まる。先を越されてしまったワシントン・ポストもすぐに残りの文書を入手し全貌を公表しようとするが、ニュヨーク・タイムズがホワイトハウスから圧力をかけられ法的な脅威にさらされてしまう。ワシントン・ポストのトップのキャサリン・グラハム(メリル・ストリープ)と編集主幹ベン・ブラッドリー(トム・ハンクス)を中心に、どうやって文書を公表したのかを映し出していく。

(C)Twentieth Century Fox Film Corporation and Storyteller Distribution Co., LLC.

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監督はスティーヴン・スピルバーグ。主演はメリル・ストリープとトム・ハンクス。第90回アカデミー賞では作品賞と主演女優賞にノミネート(ストリープは21回目のノミネート)された。監督も俳優も説明不要ではあるが、驚くのは、スピルバーグとストリープが長編映画初タッグであること、ストリープとハンクスが初共演であること、新しい組合せであることだ(ちなみにスピルバーグとハンクスは本作が5度目のタッグ)。この映画が通常では考えられないスピードで製作されたことにも驚く。

当時スピルバーグ監督はSF大作『レディ・プレイヤー1』(4月20日公開)の製作準備に入っていたが、リズ・ハンナの書いた脚本を読み、“深みのある人間ドラマ”と“重要な史実”に惹きつけられ、「今すぐこの映画を作らなければならないと思った」と行動に移った。『レディ・プレイヤー1』を一旦終了し、『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』の撮影に取りかかったのだ。そして、メリル・ストリープとトム・ハンクスに白羽の矢を立てたわけだが、奇跡的に2人のスケジュールが空いていたことも、この映画が“いま撮るべき映画”だったことを意味づけている。スピルバーグはこう語っている──

「この映画は、現在のアメリカでささやかれている話題についても反映している。今こそ、報道の自由という美徳を追求するのに完璧な時期だ。信念を貫いた報道が行われることでこの国の民主主義がいかに発展するかについて、率直な議論を交わすべき時期だと思っている」

(C)Twentieth Century Fox Film Corporation and Storyteller Distribution Co., LLC.

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これは現在の日本にも言えることだ。さらにこの映画が興味深いのは、単に事実だけを描いているのではなく、公表に踏み切ったワシントン・ポストの中心人物、人間関係に焦点を当てていることだ。

キャサリン・グラハムがアメリカ主要新聞社史上初の女性発行人としてワシントン・ポストの経営者となったのは46歳のときだった。投資家だったキャサリンの父が1933年にワシントン・ポストを買収。1946年には彼女の夫が後を継ぐが、うつ病を患っていたその夫が1963年に自殺したことで、キャサリン自身が経営者になった。働いたことのない主婦が新聞社のトップとなり、真のリーダーへと成長してく女性のパーソナルな物語でもあるのだ。キャサリンと彼女と共に闘った人たちとの絆の物語でもあり、脚本のリズ・ハンナは「同じ道を探求することになったソウルメイトたちのラブストーリーだと考えている」と語っている。

(C)Twentieth Century Fox Film Corporation and Storyteller Distribution Co., LLC.

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メリル・ストリープの演技が特に素晴らしかった。数多くの作品でさまざまな役を演じてきたストリープには、どこか強い女性を重ねてしまいがちだが、今回演じるキャサリンは決して強くはない、けれど強くなろうともがいている、悩みながら決断していく。どんな女性もキャサリンに親近感を持ち、勇気を受け取るのではないだろうか。メリル・ストリープであるのにメリル・ストリープではない、実際のキャサリンを知らなくてもキャサリンというキャラクターにしか見えないのがストリープの凄さなのだと、改めてオスカー女優の凄さを突き付けられた。

印象に残っているシーンがある。キャサリンが電話をする仕事場での何気ないシーンなのだけれど、ストリープはイヤリングを外して受話器を耳にあてた。そこから見えてくるのは、キャサリンはどんな歩き方なのか、どんな話し方なのか、どんなクセがあるのか……おそらく、あらゆるリサーチをしてキャサリンを生きていたということ。それはトム・ハンクスも同様だろう。

(C)Twentieth Century Fox Film Corporation and Storyteller Distribution Co., LLC.

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また、 2016年度のブラックリストで2位にランクインしたハンナの脚本を映画化しようと進めたのはプロデューサーのエイミー・パスカルで、そこにクリスティ・マコスコ・クリーガーも製作として加わった。クリーガーはスピルバーグ監督と20年以上にわたって仕事をしている人物だ。主演・脚本・製作が女性であることも現代の女性にとっては大きなメッセージとして受け止められる(監督がスピルバーグに決まった後、共同脚本として『スポットライト 世紀のスクープ』でアカデミー賞脚本賞を受賞したジョシュ・シンガーがハンナをサポートした)。

最高機密文書の隠蔽、それを公表した新聞社、そこで働く人たちの勇気と責任感──この映画には知るべきこと、感じるべきこと、考えるべきことがある。いま観るべき映画だ。

(文・新谷里映)

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新谷里映

フリーライター、映画ライター、コラムニスト
新谷里映

情報誌、ファッション誌、音楽誌の編集部に所属、様々なジャンルの企画&編集に携わり、2005年3月、映画ライターとして独立。 独立後は、映画や音楽などのエンターテイメントを中心に雑誌やウェブにコラムやインタビューを寄稿中。

【tumblr】新谷里映/Rie Shintani

映画『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』
2018年3月30日全国公開

監督:スティーヴン・スピルバーグ
製作:エイミー・パスカル、スティーヴン・スピルバーグ、クリスティ・マコスコ・クリーガー
脚本:リズ・ハンナ、ジョシュ・シンガー
音楽:ジョン・ウィリアムズ
キャスト:メリル・ストリープ、トム・ハンクス他
全米公開:2017年12月22日 (限定公開)2018年1月12日(拡大公開) [予定]
原題:The Post
配給:東宝東和

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アーティスト情報

メリル・ストリープ

生年月日1949年6月22日(70歳)
星座ふたご座
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トム・ハンクス

生年月日1956年7月9日(63歳)
星座かに座
出生地米国・カリフォルニア州

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