同じタイミングで公開される「映画から受けるメッセージが両極端」な2本について ― 『きみへの距離、1万キロ』&『ラブレス』 ― 【連載コラムVol.45】

映画ライター・新谷里映が心動かされた、本当に観て欲しい映画たちを連載コラムでお届け。

第45回目は「映画から受けるメッセージが両極端」だという『きみへの距離、1万キロ』と『ラブレス』の2本。一方はデジタル社会でなければありえなかったこと、一方はそれよりはよくありがちな夫婦内での出来事。同じ日に公開を迎える2作を通じて、また一つ、愛について考えを深めてみては。


『きみへの距離、1万キロ』/(C) Productions Item 7 – II Inc. 2017

『きみへの距離、1万キロ』/(C) Productions Item 7 – II Inc. 2017

映画から受け取る感動や衝撃はさまざまだが、あまりにもその受け取り方が両極端な作品が同じ日に公開されるので、合わせて紹介しようと思う。それは『きみへの距離、1万キロ』と『ラブレス』。どちらも懸命にその時代を生きようとする人たちの姿や愛について描かれているのだが、『きみへの距離、1万キロ』が偶然の出会いから生まれる希望だとすると、『ラブレス』は愛し合った者たちから生まれた絶望とでも言うのだろうか。どちらの作品にも、自分自身の未来を豊かにするためのヒントがあった。

『きみへの距離、1万キロ』を3つのワードで説明するならば、現代的な出会い、チャーミングさ、運命を信じる力。物語の舞台となるのは、北アフリカの砂漠地帯とアメリカのデトロイト。クモ型ロボットの遠隔操作で、砂漠に引かれた石油パイプラインから石油が盗まれないように監視しているオペレーターのゴードン(ジョー・コール)は、ある日、若く美しい女性アユーシャ(リナ・エル=アラビ)と出会い、監視ロボットを駆使して彼女の身辺を探り始める。

簡単に言ってしまえば、1万キロ離れた所に住む女性に恋をした青年が、彼女の抱える問題を解決するために奔走する物語。好きな人がいるのに親の決めた年の離れた男性と結婚させられそうなアユーシャを救い出すのがゴードンのミッションというわけだ。彼の行動は一歩間違うとストーカーにもなりかねないが、クモ型ロボットを介した会話のコミカルさや、彼女に恋人がいても応援するゴードンの真っ直ぐさによって、遠くから守ってくれる素敵な王子様になっている。デジタル機器やインターネットによってコミュニケーション方法が多種多様になった現代だからこその出会い方、新しい形のラブストーリーと言えるだろう。

一方、『ラブレス』はロシアの鬼才と言われるアンドレイ・ズビャギンツェフの新作だ。初の長編『父、帰る』はヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞と新人監督賞を受賞。その後に発表した『ヴェラの祈り』 『エレナの惑い』 『裁かれるは善人のみ』はカンヌ国際映画祭で、それぞれ主演男優賞、ある視点部門審査員特別賞、脚本賞を受賞。5作目の本作は、カンヌで審査員賞を受賞している。

『ラブレス』/(C)2017 NON-STOP PRODUCTIONS – WHY NOT PRODUCTIONS

『ラブレス』/(C)2017 NON-STOP PRODUCTIONS – WHY NOT PRODUCTIONS

『ラブレス』を3つのワードで説明するならば、ロシアの中流家庭の生活、認証欲求、愛が引き起こす悲劇。物語はとてもシンプルだ。一流企業で働く夫のボリス(アレクセイ・ロズィン)と美容サロンを経営する妻のジェーニャ(マルヤーナ・スピヴァク)は離婚協議中で、互いに新しい恋人との生活を始めつつある。家族で住んでいるマンションを売りに出し、12歳のひとり息子アレクセイ(マトヴェイ・ノヴィコフ)をどちらが引き取るのかで揉めている。口論の絶えない夫婦、愛し合った欠片も見えない冷め切った夫婦の現実が描かれる。そしてドア越しに両親の本音を偶然聞いてしまったアレクセイが、消える──。

いなくなったアレクセイを探す日々を描いていくのだが、この映像に、この捉え方に、この映し方にどんな意味が込められているのか……気づけば自分自身も必死でアレクセイを探している。作品世界に引き込む映像の力が凄い。疾走という悲劇が、愛によって起きたことであることにも考えさせられる。タイトルの「ラブレス」は英訳であり、ロシア語の原題は「ニェリュボーフィ」で、愛を意味する「リュボーフィ」に否定の接頭辞がつけられた単語だが、監督の説明によると「単に愛がない状態ではなく、むしろその対極であり、卑俗な憎しみでもなければ冷たい無関心でもない。何かそれ以上のものです。英訳の“Loveless”というのも違う」そうだ。

たしかに、離婚寸前の夫婦の間には愛はないが、新しいパートナーとの間には(今はまだ)愛がある。捜索中にもかかわらずその相手と愛し合うのは非常識にも思えるが、セックスシーンを敢えて美しく描いているのも衝撃的だった。また、実の子供にまったく関心がない=愛がない両親、自分のことしか考えていない両親とは対象的に、疾走したアレクセイを懸命に探す赤の他人であるボランティアの人々の無償の愛に驚かされる。あるべき場所に愛がないことに絶望を感じつつも、愛についてこんなにも考えたことは自分にとっての希望でもある。最後の最後まで強烈な映画だ。

(文・新谷里映)

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新谷里映

フリーライター、映画ライター、コラムニスト
新谷里映

情報誌、ファッション誌、音楽誌の編集部に所属、様々なジャンルの企画&編集に携わり、2005年3月、映画ライターとして独立。 独立後は、映画や音楽などのエンターテイメントを中心に雑誌やウェブにコラムやインタビューを寄稿中。

【tumblr】新谷里映/Rie Shintani

映画『きみへの距離、1万キロ』
4月7日公開

監督・脚本:キム・グエン『魔女と呼ばれた少女』
出演:ジョー・コール、リナ・エル・アラビ、ファイサル・ジグラット、ムハンマド・サキ
2017/カナダ/スコープサイズ/英語・アラビア語/カラー/91分/DCP/原題『Eye On Juliet』/日本語字幕:中沢志乃/映倫G
配給:彩プロ

映画『ラブレス』
4月7日(土)、新宿バルト9、ヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開

監督:アンドレイ・ズビャギンツェフ
共同脚本:オレグ・ネギン
出演:マルヤーナ・スピヴァク、アレクセイ・ロズィン
2017/ロシア、フランス、ドイツ、ベルギー映画/ロシア語/シネスコ/127分/字幕翻訳:佐藤恵子/原題:Nelyubov/英題:Loveless R15+
提供:クロックワークス、ニューセレクト、STAR CHANNEL
配給:クロックワークス、アルバトロス・フィルム、STAR CHANNEL MOVIES

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