ショーン・ベイカー監督が語る『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』、アメリカの偽善、映画への愛。

来日したショーン・ベイカー監督

来日したショーン・ベイカー監督

第28回東京国際映画祭に出品された『タンジェリン』で注目を浴びたショーン・ベイカー監督の最新作『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』が、5月12日より全国公開される。フロリダのウォルト・ディズニー・ワールド・リゾートにある4つのディズニーパークの内の1つ「マジック・キングダム」の外側にあるモーテルで貧しい暮らしを送るヘイリー(ブリア・ヴィネイト)とムーニー(ブルックリン・キンバリー・プリンス)の母娘、そして彼らを取り巻く個性的な隣人たちが織りなすドラマを描いた本作。4月某日、ベイカー監督がインタビューに応じ、独特なキャスティングや自身の作風、そしてトランプ政権登場後のハリウッドなどについて語ってくれた。

―貧困という人々が目を背けがちな社会問題に焦点を当てた素晴らしい映画でした。企画はどのようにスタートしたのでしょう?

共同脚本のクリス・バーゴッチの提案だったんだ。彼とはこれまでに3本の映画で共同脚本を務めてきたんだけど、ある日「僕にアイディアがある」と言ってきたんだ。「マジック・キングダム」の外側にあるモーテルで暮らしている子供たちがいるとね。僕が「どんなモーテルなの?」と聞いたら、彼は貧困層が住んでいると答えた。僕がその事実をどうやって知ったのか聞いたら、彼は自分の母がキシミー(フロリダ州オセオラ郡の都市)に住んでいると言った。彼は母を訪ねた時に、そういった子供たちの姿を通りすがりの駐車場で見ていたんだね。

―そういったモーテルの問題は、アメリカで報道されていたのでしょうか?

アメリカでは頻繁にニュースになっていたから、彼はニュースの記事を送ってくれたよ。僕は面白いアイディアになるかもしれないと思った。望んでいたように、子供についての映画を作れるし、アメリカにおける住宅危機に光を当てることもできる。そうやってこの映画は始まったんだ。

(C) 2017 Florida Project 2016, LLC.

(C) 2017 Florida Project 2016, LLC.

―母と娘の絆が印象的な作品になりましたが、バーゴッチさんとの執筆プロセスにおいて、特に重視していたことは何ですか?

そもそも、この映画への出資を受けるためには、まず『タンジェリン』を作らなければならなかったから、実は何年もかかった企画だったんだよ。この映画で何をしたかというと、コミュニティの人々に話を聞くことに時間を費やしたんだ。あるモーテルの支配人がいて、彼には感銘を受けたよ。食べ物を配っているNPOの人々からも、とても影響を受けたね。そういったことから他のテーマや焦点とするところを肉付けして、脚本を進めていったんだ。

―脚本で変更したポイントなどはありましたか?

最初は初恋の物語になると思っていたんだ。9歳の少女と観光客の少年が織りなす恋のようなものにね。でも、途中で僕はその方向性を変えて、親友となる子がお隣のモーテルに引っ越してくるという物語にしていったんだ。

―ヘイリーを演じたブリア・ヴィネイトは、彼女のインスタグラムを見たことを機にスカウトされたとお聞きしました。彼女を選んだ決め手は?

僕は誰をキャスティングするか決めかねていて、ハリウッドの女優を起用しようかと思っていた。そんなある晩にインスタグラムを眺めていたら、彼女のページがリポストされていたんだ。すごく面白かったんだよ。彼女の肉体や反抗的な振る舞いが、ヘイリーにぴったりだと思った。それから彼女にコンタクトを取って、相談をして、彼女にはユーモアがたくさんあることを知った。試させてほしいとお願いをしてから来てもらって、子役との本読みをしてみたら、うまく行ったんだ。それから彼女には準備のために、およそ1か月の短期間で厳しいワークショップに参加してもらったよ。

(C) 2017 Florida Project 2016, LLC.

(C) 2017 Florida Project 2016, LLC.

―彼女は初挑戦となったお芝居に、自信を持つことができていましたか?

ブリアは自信たっぷりだったよ。僕は彼女のインスタグラムへの投稿の仕方に、自分に対する自信が現れていたように思うんだ。だからその点については全く心配していなかった。でも、彼女はそれまでの人生で一度も演技をしたことがなかったから、プレッシャーを感じていたはずだよ。僕は彼女にいきなり「君は2回もアカデミー賞にノミネートされた役者と演技をしなければいけないよ」と言ったんだ(笑)。「だから準備しなきゃね」って。プレシャーはあったと思う(笑)。でも、彼女は準備ができていたんだ。

―ブルックリンをはじめとする子役たちも最高の演技を見せていますが、子役たちから上質な芝居を引き出す秘訣は何だったのでしょう?

素晴らしい演技指導のコーチがいたんだ。サマンサ・クァンというんだけど、彼女は僕をすごく助けてくれたよ。彼女は子役との仕事の進め方を熟知している人だね。子役と仕事をするうえで大切なのは、基礎を作ってあげることだ。キャラクターを理解してもらって、セリフを覚えてもらうということさ。でも現場に立ってもらった時には、ちょっとしたアドリブもしてもらったよ。自分の言葉で話す彼らの姿に、僕がインスパイアされることもあったね。

―子役の中でも、ムーニーを演じたブルックリンのお芝居には圧倒的な力強さがありました。彼女の出演はどうやって決まったのでしょう?

素晴らしい女優だよね。彼女は演技をするために生まれてきたような、才能あふれる子なんだ。もともと彼女はオーディションに来た子役の一人だった。たくさんの子役のオーディションをしたんだけど、僕が求めていたエナジーやウィット、そしてかわいらしさと技術などの完璧な組み合わせを満たす子がいなかったんだ。でも、ブルックリンにはその全てがあった。彼女は自信満々だったね。オーディションでアドリブをしてくれる?と頼んだ時もすごく面白かったよ(笑)。

(C) 2017 Florida Project 2016, LLC.

(C) 2017 Florida Project 2016, LLC.

―心優しいモーテルの管理人・ボビーを演じたウィレム・デフォーは、今日のハリウッドにおいて伝説的な人物ですが、彼と仕事をすることは、監督にどんな経験をもたらしましたか?

彼はすごくやりやすい役者だったよ。というのも、すごく良い人で辛抱強いからね。彼は経験豊富で、変身することができる役者だ。それに、ウィレムは現場に溶け込みたいという思いを持っている人でもあるんだ。彼はスポットライトの中にいるのを好まず、何が映画にとって一番大事かを考える人だ。見えない人間になりたいと思っているんだよ。ハリウッドスターっぽくない振る舞いだよね(笑)。

―ところで監督は、本作を含めたフィルモグラフィーの中で、アンダーグラウンドにおける経済や、社会の少数派たちの姿を主題として扱われてきたように思います。

アメリカという国は、とても偽善的な国だよ。メインストリームにいない人々を認識しようとしないし、切り捨ててしまうからね。その理由は大抵の場合、彼らが抱える経済的事情なんだ。

―思い返せば、“お金”も監督の作品における重要なテーマですね。アメリカという国に関して言えば、トランプ大統領の出現も映画界に大きな影響を与えたのではないでしょうか?

業界はリベラルになっているね。僕が思うに、今日に作られている映画の多くは、トランプの登場に対するリアクションだ。多様性を受け入れることなどが、明らかに見て取れる。よりオープンな新しい世代が出てきているのは、素晴らしいことだよ。先週、アメリカの興行収入のトップ10のうちの3本が黒人監督の作品だったと聞いたんだ。それはとても記録的なことさ。

(C) 2017 Florida Project 2016, LLC.

(C) 2017 Florida Project 2016, LLC.

―ここからは監督ご自身のことについてお聞きします。そもそも、なぜ映画監督になろうと決断されたのでしょうか?

僕はずっと映画が大好きなんだ。とても小さい頃からね。5~6歳の頃に、『フランケンシュタイン』 『魔人ドラキュラ』といったユニバーサル製作のモンスター映画の上映に、母が連れて行ってくれたんだ。それを機に、映画を作りたいと思ったのさ。それから振り返ることはなかったよ。残念ながら、他にできることもないしね…。ああ、コーヒーを淹れることはできるから、バリスタにはなれるかもしれない(笑)。

―映画人として、影響を受けた作品や監督は?

小さい頃は『フランケンシュタイン』や『魔人ドラキュラ』、その後はスティーヴン・スピルバーグやジョージ・ルーカスといったハリウッドのメインストリームの監督たち、その後にはインディペンデント映画や海外の作品にも影響を受けたよ。境界を越えて、僕は常に新しいインスピレーションを求めているんだ。

―昨今の若い世代は、古き良き映画に触れることをあまりしませんが、もっと知っていってほしいですね。

今では、過去の作品を調べるのがとても簡単になった。ブルーレイがたくさん出ているし、僕が住んでいるロサンゼルスでは、レトロスペクティブを行っているね。そういえば、日本にいるから言うわけじゃないけれど、今村昌平や鈴木清順の作品には、僕の作品に似たテーマがあると思う。実際、最近になって彼らの作品にインスパイアされたんだ。映画運動にも影響を受けたよ。例えばデンマークにおける“ドグマ95”は、とてつもなく衝撃的だったよ。

(C) 2017 Florida Project 2016, LLC.

(C) 2017 Florida Project 2016, LLC.

―最後の質問です。監督としての哲学はありますか?

僕が言えるのは、映画には心があるべきということだけ。監督が心を込めたことが、作品から感じられるべきだね。そうじゃない映画は、誰の時間にも値しないと思うんだ。

(取材・文・訳・写真:岸豊)


映画『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』
5月12日(土)新宿バルト9ほか全国ロードショー

監督・脚本・編集:ショーン・ベイカー 
出演:ブルックリン・キンバリー・プリンス、ウィレム・デフォー、ブリア・ヴィネイト
2017年/アメリカ/カラー/DCP5.1ch/シネマスコープ/112分
提供:クロックワークス、アスミック・エース
配給:クロックワークス

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