【インタビュー】『四月の永い夢』中川龍太郎監督「自分は『人物に物語を刺激させるもの』を作りたい」

中川龍太郎監督

中川龍太郎監督

太賀主演の『走れ、絶望に追いつかれない速さで』で一躍注目を集めた新鋭、中川龍太郎監督。続く『四月の永い夢』は、高畑勲監督の遺作『かぐや姫の物語』でかぐや姫を演じた朝倉あきを迎え、27歳の女性を主人公にした一作だ。かつて音楽教師だった滝本初海はいま、教職を離れ、ひっそりと気ままに暮らしている。そうしていることには理由がある。かりそめの日常が、ほんの少しだけ揺れ動く様を映画は見つめる。

(C)WIT STUDIO / Tokyo New Cinema

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これは、場所と記憶の物語でもある。場所に、人の想いや、生きた痕跡が埋め込まれている。ここに描かれているのはごくわずかの人間の姿だけ。だが、それだけではない奥行きがここにはある。舞台となる東京都国立市の存在感が、映画を固有のものにしている。

「場所がほとんど主人公みたいなところもある映画で。国立にいる朝倉あきさん、というコンセプトがまずありました。そこから物語を作っていったので、組み合わせがまず先行していたのは確かです。国立は、父が小さい診療所を国立で営んでいたので、小さい頃から馴染みがあったんです。建物の規制も厳しいし、町の景観に対する美意識が高い町ですよね。ちょっと、映画のロケセットみたいな『箱庭』感がある。あのどこか閉鎖された感じが、朝倉さん演じる初海さんというキャラクターの心象風景と結びついている。すごく清潔で綺麗なんだけど、でも同時に内向している面もあるというか、排他的な感じもないではない。この物語における国立という町の必然性は、そのあたりなのかなと思っています。国立は学生街でもあるので、彼女が学生時代から抜けられていないという意味でも合うのかなと思いました」

(C)WIT STUDIO / Tokyo New Cinema

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誰の胸にも聖域=サンクチュアリがある。それは本作のヒロインの場合、ある喪失感だが、誰にとっても聖域は清潔なものだ。彼女は国立という清潔な場所に閉じ込められているのかもしれない。だが、映画はそんな彼女を決して否定はしない。はやくそこから脱しなさい、というような物語運びはしない。このあたりは、中川監督ならではの現在的な感覚であるように思う。ヒロインはもはや少女ではない。だからこれは「成長の物語」にもなりえない。

「いまの日本では、少女について描かれた映画は、沢山あります。でも、20代後半の女性を描くものは、ありそうで意外にない。10代の女性は鮮やかに変化できる年齢にあるのでドラマを作りやすい。人間として成立していない時期でもあるので。それよりも、一度は成立した人の問題のほうがより深刻なはずで。だから、そこに挑戦したいというのは自分の中でありました」

(C)WIT STUDIO / Tokyo New Cinema

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そのような主人公に対して、何を紡ぐことができるのか。映画は、非常にささやかなことだけを紡いでいる。ささやかなことしか紡げないのだ、というある種の確信こそが、不確かな現代にそっと寄り添っている。このささやかさは、信頼に値する。

「ある意味、どうにもならないと思うんです。ちょっとだけ気持ちが変わるとか、そういうことでしかない。でも、起きた事象の振れ幅は小さくても各人の学びの感情的な大きさはそれとは比例しません」

物事の事象や推移についての見つめ方には、この監督ならではのデリカシーがある。単に控えめということではなく、中川龍太郎ならではの節度がある。個的なデリカシー。それは品性と言い換えてもよい。

「物語から人物を刺激させる。それは普通だし、僕以外にできている監督はいっぱいいるから、自分は『人物に物語を刺激させるもの』を作りたい。こういう役があるから朝倉さんに演じてもらうんじゃなくて、朝倉さんがいるからこういう物語になる。こういうロケ地になる。人や場所がまずあって、そこから滲み出てくるものを自分なりに解釈して、物語化する。そういう意味では順序が逆かもしれない。普通は、まず物語があって役者さんにオファーするわけですから。僕も必ずしも毎回このアプローチではありませんが、今後も現実の存在からインスピレ−ションを受けながら物語を立ち上げる方法は有効だと感じています」

(C)WIT STUDIO / Tokyo New Cinema

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つまり、『四月の永い夢』の主人公から派生する人間的なニュアンスは、朝倉あき本人から、中川がインスパイアされたものだということだ。

「初海さんは、モラトリアムに耽溺している。その有様が僕にとって大事だった。朝倉さんは僕にとって、そのような人に見えた。失礼な言い方になるかもしれないけど。すごくしっかりした話し方をするし、大人っぽいけれども、実際、すごく子供でわがままなところがあると感じるし、それをそのまま出さないで、やたら綺麗な言葉遣いで出すあたりも、一種ねじれていて、面白い。そこを映し出すために、ある設定を作ったんです」

(C)WIT STUDIO / Tokyo New Cinema

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優しいねじれが初海にはある。それは、この人物だけのものだ。人の見た目と内面にはズレがある。そのズレを、中川は佳きもの、豊かなものとして記述している。

「それが人と人が知り合うことの最も面白い面ですよね。特に異性だとワクワクします。こういう人だと思って、勝手に妄想ふくらませていくんだけど、仲良くなったときに、ああ、この人も普通の人だなと。最初は記号であり、偶像であって、親しくなっていくなかで、ひとりの女性になって、ひとりの人間になって、さらに生きものになっていく。自分としては、それが面白いと思って、この映画も作っています。だからもし『女性を美化してる』なんて言われたら、頭にきますね(笑)。こういう人と会ったことがないだけでしょ、と言いたいです。そもそも女性という名前の女性は存在しないわけですからね」

(C)WIT STUDIO / Tokyo New Cinema

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嫌な部分は誰にだってある。初海にもある。映画はそこから目をそらさない。ただ、それを露悪的に映し出すわけではない。あるものはある。滲み出るものは滲み出る。それでいい。やるべきことは、人間のパーソナリティそのものを信頼し、丁寧に見つめるだけなのである。

「これからも、ある程度は『暗いもの』を含んだものを描いていくしかないと思っています。今の時代と呼吸しながら(脚本を)書くときに、そんなに楽天的なものを作れるほど、僕も明るい人間ではありません。だから暗い因子は背負っては良いのだけど、でも、暗いものを暗いままで描いたら、娯楽とは言えないですよね。もちろん、徹底的に暗黒と向き合うことでしか描けないものもありますが、そこは(ミヒャエル・)ハネケとか、知的な人に任せて(笑)。僕は映画には娯楽であってほしいという想いもありますので、映画を観る前より、観た後に、少しでも明るくなれるものを。もし、映画監督に社会的な機能があるのだとしたら、そういうことを提供するしか、できることはないと思うので。語り口を明るくするとか。読後感をさわやかにする。そこはある程度、意識的にやっていきたいなと思います」

(C)WIT STUDIO / Tokyo New Cinema

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安易な救いはない。けれども、ふと、心が洗われる瞬間が、『四月の永い夢』にはある。その余韻は決して暗くはない。むしろ、当たり前に、眩しい。

(取材・文:相田冬二)


DVD『四月の永い夢』
2018年10月2日(火)発売、TSUTAYA先行レンタル開始

監督:中川龍太郎
出演:朝倉あき、三浦貴大、川崎ゆり子、高橋由美子、青柳文子、森次晃嗣、志賀廣太郎、高橋惠子

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アーティスト情報

三浦貴大

生年月日1985年11月10日(32歳)
星座さそり座
出生地東京都国立市

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