桜庭一樹がおすすめする「女二人の危うい絆を楽しむ」10本
著作でもさまざまな少女を描いてきた桜庭一樹さん。女性同士だからこそ芽生える複雑な感情を描いた濃密な10本を、女性作家ならではの視点で分析してくれた。
桜庭一樹がおすすめする「女二人の危うい絆を楽しむ」10本
実母を病気で亡くし、極悪な継父によって精神病院に入れられた少女が4人の仲間とともに、辛い現実から逃れて自由を手にしようとするファンタジーアクション。
ピューリッツァー賞受賞の小説をスピルバーグが映画化。黒人や女性の人権が保障されていなかった20世紀初頭の米国で、黒人女性が人間としての尊厳に目覚めていく。
境界性人格障害と診断された女性が療養施設で際立ってエキセントリックな女性患者と知り合う。第72回アカデミー賞®でアンジェリーナ・ジョリーが助演女優賞を受賞。
フランソワ・オゾン監督の二人のミューズが共演したサスペンス。スランプに陥り南仏に別荘を借りた女流ミステリー作家が、突然現れた貸主の奔放な娘に翻弄される。
団鬼六の官能小説を基に、過去に劇場映画8作が作られた人気シリーズ。女の調教シーンを配信する違法サイトを取り締まる女刑事が、禁断の世界に足を踏み入れる。
子役出身のカナダの新鋭、グザヴィエ・ドランが23歳のときに撮った異色のラブストーリー。監督の才能にほれ込んだガス・ヴァン・サントが製作総指揮を務めた。
主役と脇役が入れ替わるのが斬新。何層もの物語が重なり合う、緻密なプロットも楽しめる
育ったのがすごい田舎で、映画館と言ってもちっちゃい小屋みたいなものしかなくて、かかっているのもトム・クルーズが出ているようなハリウッド大作と『釣りバカ日誌』の二本立てといった感じでした。だから映画を観るのはもっぱらTVのロードショー番組。たまに当時のNHK教育で『明日に向って撃て!』なんかをノーカット字幕版でやっているのに衝撃を受けたり。自発的に観るようになったのは上京してレンタルビデオをテレビデオで観るようになってから。だから好きな映画の記憶はみんな小さいブラウン管サイズなんです(笑)。
女二人が騙し合っていたり、惹かれ合っていたり、簡単に友情や同性愛では片づけられないような不思議な関係を描いたものが好きなんです。子どもの頃に夢中になったヘルマン・ヘッセの小説に出てきたような少年同士の関係が、女性同士で描けるのだろうかということに興味がありますし、もともとそういうモチーフが好きなんでしょうね。
『エンジェル ウォーズ』は、私と山田正紀さんしか褒めていないかもしれない(笑)。最近は人に薦めるのもやめていたんですけど、やっぱり3人目に現れてほしいという気持ちも込めて選びました。
無力な女の子が置かれた悲惨な状況から抜け出そうと戦うという設定で、ゴシックホラー風の冒頭から引き込まれたんですが、サスペンス風の謎解きになるかと思いきや突然、鎧武者みたいなのが現れてバトルシーンが始まっちゃう。私は大興奮してたんですが、多くのみなさんは変ちくりんに思ったのかな……。
物語が二重三重と何層にもなっていて、病院に収容されているかと思えば突然娼館になったりして、夢かもしれない娼館から逃げ出す計画が現実にも影響してくる。夢なのか現実なのか、どちらとも言えないんです。
小説では“朦朧(もうろう)法”と言うんですが、例えば超常現象なのか、心理学的な問題なのか、いくつかの可能性を同じくらいのバランスで描く。ちゃんと逆算して緻密にプロットが作られていて、『エンジェル ウォーズ』も分析したらきちんと“朦朧法”のはず。でもB級感が強いのでそこまで受け取ってもらえないのが不遇だと思うんですよ。
あと忘れられないのが、主役の女の子を子役時代に『ゴーストシップ』で観たことがあったんですが、ロリっぽいまま大人になっていて、我々日本のオタクは好きだけれどアメリカではどうなの?と思っていたら、別にいた脇役の、ハリウッドの王道のような美人が最後に主役に交代する。その残酷なまでのはしごの外し方に衝撃を受けて、近作の『ほんとうの花を見せにきた』も影響を受けています。
正反対な二人の間に生まれる共感からの絆も、憧れからの嫉妬も、どちらに物語が転んでも好き
『カラーパープル』はいろんなテーマを含んだ作品ですが、ウーピー・ゴールドバーグが演じる虐げられた地味な主人公と、美人の歌手との絆がすごく好きでした。憎み合うだろうなという特殊な関係性の二人の間に共感や思いやりが生まれていく。その過程がすごく不思議で、でも対照的だからこそ、一緒に運命に立ち向かうような感覚が生まれるんでしょうね。戦争映画なら男同士で芽生えるような絆かもしれません。
『17歳のカルテ』もタイプは違うけれど女同士の関係に惹かれた映画。男の子と女の子だったら恋愛の絡む話になってしまいそうなんですが、同性同士で、普通の人がカリスマ性のある人を観察し続けるという視点が個人的に好きなんです。
シャーロック・ホームズとワトソンもそうなんですが、ワトソンみたいな普通の感覚の人がいちいち驚いてくれるからこそ、ホームズの天才性が際立つ。ホームズ一人だとただの変わった人でしかない。普通の人が翻訳してくれることですごさがより伝わる。『17歳のカルテ』も主人公(ウィノナ・ライダー)から見ると、アンジェリーナ・ジョリーが演じる友人にカリスマ性があるんですけど、本当に危うい娘だから結局破滅しちゃう。命綱たるワトソン役の子と離れてしまったことで、世の中とつなぎとめるものがなくなって大変なところに墜ちてしまうんです。
『穴』は、カリスマに憧れる女の子が心のバランスを崩す物語。ソーラ・バーチが演じる主人公は普通の地味な女子高生で、キーラ・ナイトレイが扮する美人の友達への劣等感から道を踏み外す。『カラーパープル』だと女二人は慈しみ合い、こっちは羨望ゆえに狂ってしまう。私はどっちに転んでも好きですね。
普通のまじめな女の子が、異世界の女の子と出会って強く影響される展開に惹かれる
『バウンド』は女二人が男を騙して大金を盗もうとする話。片方が悪い女で、真面目な側の女からしたら、一緒に男を騙しているのか、自分が悪い女に騙されているのかがわからなくなるんです。じわじわと疑いが生じて不安になる。でも相手に惹かれているから逃げ出そうにも逃げられないという疑心暗鬼のサスペンスですね。
キム・ギドク監督は『悪い男』が有名ですが、私が推したいのは『悪い女 青い門』。離れを娼婦に貸している民宿があって、娼婦がそこで客を取っているんですが、その民宿の娘はそんな家に育った反動からか、ボーイフレンドができても「触らないでください!」とものすごくお堅い(笑)。だけど、新しくやって来た同世代の娼婦と親しくなって、憧れや友情が極まったあげくに相手と同化したいという気持ちが芽生え、自分も客を取るようになるんです。普通の女の子がまったく異世界の女の子に出会って強烈な影響を受ける。男性であるギドクが、少女二人を理想化せずに愚鈍な生き物として撮っているのも好きでした。
互いに何かを満たし合って、共犯関係のように惹かれていく二人の女の関係が面白い
『櫻の園』は女の子たちの群像劇で、すごく反発している二人がだんだん親しくなっていく。少女だから、大人ならできないようなスピードと危険さで過剰に共感し合うのがいいんです。
『スイミング・プール』はかなり年齢の開きがある女二人の話。年配の推理作家が若い奔放な娘に反発しながらも、その娘を主人公にした小説を書こうとする。若い娘の方も書かれることで満たされる部分があって、共犯者のように近づいていく。急に人を殺しちゃったりとかおかしなことがたくさん起きるし、ラストもはっきりわからないんですけど、その朦朧法的な感じも好きです。
『花と蛇 ZERO』はシリーズとしては男女のSMの話なんですが、個人的には女二人のドラマが面白かったです。ある女刑事がSMサイトを運営する闇組織にとらわれた静子という謎の女性を助けようとするうち、なぜか深みにはまっていく。SMサイトは母なる子宮のメタファーで、女刑事が男性器の象徴である銃を持ってアジトに入っていくあたり、古典的な「父を倒す息子の戦い」の女性版、「母を倒す娘の戦い」と感じました。
女刑事自身の「母なる子宮との戦い」は勝利を収めるが、肝心の静子には、彼女の物語を理解することさえ拒まれる。戦いに勝って失恋する、みたいな話なのかな。
女同士ではないけれど、ジェンダーを超えた女装男と女の壮絶なドラマ

『わたしはロランス』(C)2012 Production Laurence INC/MK2 SA/ARTE France CINEMA
『わたしはロランス』は厳密には男女の話なので10本に入れるか迷ったんですが、主人公の男が性別の枠を超えているのでいいかなと。これ、女性にとっては本当にいたたまれない話。幸せそうなカップルの男の方が突然信念を持って女装し始める。「そういう自分も受け入れてくれ」と言って、彼女を混乱させてしまう。
女装する主人公にカリスマ性があるんですけど、人によってはただの女装した男でしかない。女性の側は一切悪いところはないのに、離れることも受け入れることもできずに苦しむ。苦しみながら愛する人と関わり続けた日々の果てに、これ以上ない冷たい別れがくる。後味の悪い、いい映画です。

桜庭一樹
1971年島根県生まれ。『伏 贋作・里見八犬伝』が'12年にアニメ映画化。第138回直木賞を受賞した『私の男』が、'14年に熊切和嘉監督、宇治田隆史脚本で、『赤×ピンク』が'14年に坂本浩一監督、港岳彦脚本で、実写映画化された。
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