関根勤がおすすめする「ロバート・デ・ニーロを堪能する」9本
映画監督に初挑戦した関根勤さんが、作品の発案時にも影響されたほど好きなオスカー俳優ロバート・デ・ニーロ。彼の出演作から特に思い入れのある9本をおすすめしてくれた。
関根勤がおすすめする「ロバート・デ・ニーロを堪能する」9本
コメディアン志望の男が、TVトークショーの人気司会者につきまとうがそっけなく対応されて暴走。司会者を誘拐した男は、彼の番組に代役で出演させろと要求する。
第29回カンヌ国際映画祭パルムドール受賞作。NYでタクシードライバーになったベトナム帰還兵が、孤独感や社会への怒りを募らせ、徐々に精神に異常を来していく。
ボクシングの元ミドル級世界チャンピオン、ジェイク・ラモッタの自伝をマーティン・スコセッシ監督が映画化。デ・ニーロは第53回アカデミー賞®で主演男優賞を受賞。
禁酒法時代のシカゴに実在したギャングのボス、アル・カポネ(デ・ニーロ)と、彼の逮捕に奔走するアメリカ財務省捜査官エリオット・ネス(コスナー)の攻防を描く。
裏で運び屋稼業をしているCAが保釈保証業者を巻き込んで、雇い主である武器商人らをだまして大金を手に入れる一大計画を実行する。デ・ニーロは武器商人の相棒役。
ボクシングの元世界チャンピオンで、かつて壮絶な戦いを繰り広げた“レーザー”(スタローン)と“キッド”(デ・ニーロ)が、数十年のときを経て再びグローブを交える。
粘着質な気持ち悪い役を演じさせたら、デ・ニーロの右に出る者はいない

『キング・オブ・コメディ』TM & COPYRIGHT (C) 1987 by PARAMOUNT PICTURES. All Rights Reserved. (C)2005 Twentieth Century Fox Home Entertainment, Inc. All Rights Reserved.
これまで名優の名をほしいままにしてきたロバート・デ・ニーロは、僕にとっても現時点のNo.1俳優。デ・ニーロが出ているという理由だけで観ちゃうし、デ・ニーロが出演を決めた映画だから面白くないはずはないと思わせてくれる、そんな特別な力がデ・ニーロにはある。
僕がデ・ニーロを好きになる決定打になったのは、31歳のときに観た『キング・オブ・コメディ』で、とにかくこの映画のインパクトは強烈でしたね。小堺(一機)君に「スゴい」と薦められたんだけど、小堺君はさらに続けて「映画館で観たときに気持ちが悪くなって、吐いちゃった」と言う。あいにく映画館では観逃していたので、ビデオを借りてきて「そんな言うほどのことはないだろう」と思いながら観たら完全にノックアウト(笑)。デ・ニーロが演じているルパートはちょっと常軌を逸したコメディアン志望の男。TVで大活躍する有名コメディアンの熱狂的なファンで追っかけをしている。その有名コメディアン、ジェリー・ラングフォードを演じたのは、実際に50~70年代に一世を風靡したコメディアン、ジェリー・ルイスです。まだストーカーという言葉がなかった時代、ルパートの気持ち悪さといったらない!
当時の僕は小堺君とコンビを組んで、クロコとグレコなんかでお茶の間の認知度も高まってきた頃。だから一人のコメディアンとして、ルパート側ではなくジェリーの立場で観ちゃったんです。僕のところにもこんな追っかけが来たらと考えると、ただひたすらに怖くて怖くて(笑)。ルパートは結局、TVでスタンダップコメディを披露するんだけど、このシーンもゾクゾクするほど気持ち悪い。僕の中では『キング・オブ・コメディ』こそがデ・ニーロの最高傑作。後の『ケープ・フィアー』や『ザ・ファン』しかり、粘着質な気持ち悪い役をやらせたらデ・ニーロの右に出る者はいません。これはぜひともタモリさん、(ビート)たけしさん、(明石家)さんまさんに観てほしい(笑)。
“デ・ニーロ・アプローチ”は、俳優だけじゃなくお笑い芸人にも浸透している
デ・ニーロの存在を初めて知ったのは『タクシードライバー』で、僕が23歳のとき。画面から漂う狂気というか妖気に触れて、デ・ニーロという俳優を強く意識するようになった。デ・ニーロ扮するトラビス・ビックルは閉塞感にさいなまれ、ヒーローになろうとしておかしな方向に行ってしまう。彼が体を鍛えながら鏡に向かって話しかけるシーンはおぞましかった。でも実をいうと、デ・ニーロの演技に関してはびっくりしたんだけど、映画自体はよくわからないところもあったんです。それでずっと心に引っかかっていて、つい最近もう一回観たんですよ。えてして昔観た映画を観直してみると、大したことはなかったということが多いんだけど『タクシードライバー』は違いました。僕自身、40年近くの間にいろんな経験を積んできて、今のほうがはるかに理解力があるから、トラビスが精神を病んでいく怖さをリアルに感じられたんです。ですからこの作品は、若い方にももちろん観ていただきたいけど、昔観たという中高年の方にももう1回観てほしい。今後100年経っても語り継がれる傑作です。

『レイジング・ブル』(C) Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved. Distributed by Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.
『レイジング・ブル』はデ・ニーロの役作りに尽きますね。ボクサー時代と引退後の転落人生を演じきったその演技力は、すばらしいとしかいいようがない。ボクシングシーンのテクニックとパワーは、本物のボクサーにしか見えないほど。主人公のジェイク・ラモッタはどうしようもないダメ男なんだけど、デ・ニーロはこれまた完璧にダメ男を演じているんです(笑)。この映画のために体重を27kg増やして、顔まで整形したことから“デ・ニーロ・アプローチ”という言葉が広く知られるようにもなって、そういった意味でも彼ほど世界中の同業者に影響を与えた俳優はいないかもしれない。
以前、後輩のお笑い芸人と「ハリウッドスターだったら誰になりたいか」を妄想したことがあったんだけど(笑)、みんなデ・ニ ーロは避けるんですよ。何か大変そうだ、脚光は浴びるけど疲れそうだって(笑)。で、ジョージ・クルーニーとかケヴィン・コスナーあたりがいいと言う。これはお笑い芸人にも“デ・ニーロ・アプローチ”が浸透している証拠です。
軽くやっているように見えるコメディでも、やっぱり演技の深さが違う
『アンタッチャブル』のアル・カポネぶりもまぁスゴい。また違ったアプローチで実在の人物になりきって、まるでカポネにしか見えない。14㎏太って、髪の毛を抜いて、カポネが実際に着ていたシルクの下着を探して、カメラには映らないのに身に着けていたらしい。アメリカの禁酒法時代にこんな男たちがいたんだという、歴史の勉強にもなります。
『ミッドナイト・ラン』は軽快なタッチのコメディ色が濃い作風ながら、バディムービー&ロードムービーの名作です。監督のマーティン・ブレストはかねてからデ・ニーロと一緒に仕事をしたくてしょうがなくて、オファーしてOKをもらったときには天にも昇る気持ちで、映画は成功したも同然だと思ったらしい。
デ・ニーロ自身も本作で演じたバウンティハンター(賞金稼ぎ)が最も気に入っている役だと言っています。相手役のチャールズ・グローディンも味があって、二人がマフィアやFBIから逃げるシーンはハラハラドキドキするんだけど、全体的には“弥次喜多”ものみたい(笑)。旅の途中で金欠になったデ・ニーロが離婚した妻に会いに行くと、娘がベビーシッターで貯めたお小遣いを渡そうとするシーンが切なくてね。最近の『マラヴィータ』や『ラストベガス』といったコメディでも、デ・ニーロは軽くやっているように見えてやっぱり演技の深さが違います。

『RONIN』(C) 2000 MGM Home Entertainment Inc. All Rights Reserved. Distributed by MGM Home Entertainment. Available exclusively through Twentieth Century Fox Home Entertainment, Inc.
一方、シブいほうでは『RONIN』のデ・ニーロが最高! かつては敏腕スパイだった者たちが、冷戦終結後に国家の後ろ盾を失って江戸時代の浪人のような存在になる。曲者ぞろいのメンバーの中でも、作戦を立てるときにはデ・ニーロ演じるサムがしっかりイニシアチブを取るんですよ。共演のジャン・レノはフランス人で、デ・ニーロはイタリア系だからちょっとヨーロッパの香りがして、二人の関係もいい感じです。案外観ていない人も多いでしょうから、これは自信をもってオススメします。
脇役でも存在感を発揮する、どんな小さな役でも面白がれる、懐の深さと幅の広さ
『ジャッキー・ブラウン』でデ・ニーロが演じたのはサミュエル・L・ジャクソンの相棒役で、またしてもダメおやじ(笑)。だけどこれが光るんだよなあ。クエンティン・タランティーノ監督は、本編を2~3分観ただけで誰が撮ったのかがわかる数少ない監督。映像にもセリフにも音楽にも、何ともいえない独特の雰囲気がある。そんなタランティーノもやっぱりデ・ニーロが好きだったんだと思うと不思議とうれしいし、デ・ニーロも作品にしっかり溶け込んでいて、両者のコラボレーションは本当にすばらしいです。
『マチェーテ』はめちゃくちゃ面白かった。2010年度の僕のベストワンです。デ・ニーロ抜きでも面白いのに、悪役で出てきちゃいますからね。これには完全にやられます。フレンチやイタリアンのフルコースを食べて、メインのあとでさらにフォワグラ入りハンバーグとかカツレツが出てきたような気分(笑)。
デ・ニーロが素敵なのは『ジャッキー・ブラウン』にしろ『マチェーテ』にしろ、脇役でも抜群の存在感を発揮すること。監督や脚本やキャラクターが面白いと認めた場合にはどんな小さな役でも引き受けて、しかもそれを面白がって演じる。そこがデ・ニーロの懐の深さ、幅の広さなんです。
『リベンジ・マッチ』はそのまんま『レイジング・ブル』のデ・ニーロと『ロッキー』のシルヴェスター・スタローンの戦いを見ていただくってことで(笑)、両者のセルフパロディとしても楽しめます。それぞれ頂点を極め、濃密な人生を歩んできた二人が画面に映るだけで、説得力が違いますから。
気持ち悪かったり、ひねくれた老人の役を見てみたい。命ある限り続けてほしい
今回、改めてデ・ニーロのフィルモグラフィを見てみると、やっぱり他に類を見ない、他の追随を許さない俳優だと痛感しました。ただでさえ僕のNo.1俳優の座は揺るがないのに、最近になって『マチェーテ』なんかに出たもんだからさらに評価が上がっちゃった(笑)。他に好きな作品は『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』『未来世紀ブラジル』『エンゼル・ハート』かな。結構『ディア・ハンター』を挙げる人もいるけど、僕には重すぎて2回観るのは無理。ただ『恋におちて』は納得できなかった。デ・ニーロが演じる日常のドラマなんて、僕は観たくないんですよ。『ヒート』ではアル・パチーノとの共演シーンが今いちだったし、『ハイド・アンド・シーク 暗闇のかくれんぼ』も使い古されたオチがダメでしたね。
デ・ニーロもすでに70歳を超えて、今後どんな演技を見せてくれるのか楽しみ。もう肉体を酷使する役やアクションはそんなにできないだろうから、個人的には気持ち悪い老人、ひねくれた老人を見たいですね(笑)。『キング・オブ・コメディ』の続編とか(笑)。とりあえず『エクスペンダブルズ』シリーズの次回作で悪役をやってもらって、僕のお気に入りのタランティーノとロバート・ロドリゲスの映画にもう1作ずつ出ていただくと。あとはクリント・イーストウッドと一度でいいから共演して、とにかく命ある限り演じ続けてほしいな。
実は僕、映画を撮って念願だった監督デビューをしたんですよ。もし万が一、僕の映画にデ・ニーロが出てくれるとしたら? 扱いきれないだろうけど、デ・ニーロ本人役だったらいけるかも。例えば温水洋一さん演じるオヤジがある日起きたら、いきなりデ・ニーロになってる(笑)。外見はデ・ニーロなのに動きは温水さん(笑)。「どうしよう、困った」とうろうろしていたら街頭インタビューに捕まって、日本語をしゃべるわけにはいかないからドギマギして、知ってる限りの英語で何とか乗り切る。それでたまたま日本でロケをしていたハリウッドの撮影クルーに見つかって「あれ、デ・ニーロさん何してるんですか?」と連れていかれる……なんて妄想するだけでワクワクしてきちゃった(笑)

関根勤
1953年東京都生まれ。'74年にデビュー。NHK Eテレ「ピタゴラスイッチ『こんなことできません』」、フジテレビ「ミライ☆モンスター」、BSフジ「コサキン道中ぶらっぶらっぶらっ!」ほかTVやラジオで多数のレギュラー番組に出演中
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