米津玄師、ニューシングルリリース。アニメと音楽との幸福な共存【インタビュー】

─昨年の12月8日、ツアーファイナルの日に新曲「orion」のリリースを発表しましたよね。アニメ『3月のライオン』エンディングテーマになったことに、「こんな光栄なことはない」と言ってました。
「そもそも僕は『3月のライオン』が好きで、舞台のひとつが東京の月島なんですけど、1年ぐらい住んでいた時期があって、好きな場所だったんですよ。まさに住んでいる時に連載が始まって、『ハチミツとクローバー』の人が新作を出したんだと思って、ぱっと開いてみたら、“この風景、めっちゃ見たことあるぞ”と。そういうこともあって、自分のなかでは特別なマンガだったので、お話をいただいたことがそれはそれはうれしくて」
─曲は、どんなふうに作っていったんですか?
「タイアップというのは、作品の一部として音楽が機能するような曲作りをすることだと思ってるんですけど。そのなかでいちばん大事なのは、その作品と自分がリンクしているのがどこなのか、それを最初に探っていって、重なっている部分にピンを打って、ここがポイントだというものをとらえる作業だと思っていて。そういう点で『3月のライオン』の主人公の桐山零くんと、自分というのは、わりかしリンクしている部分があるなあと」
─リンクしている?
「向こうは将棋で、僕は音楽ですけど、この気持ちなら僕はわかる…わかるとは言いたくないですけど、なんとなく察することはできるという感じですね。あまり説明的になりたくはないですけど、人と人との関わり方として、川本家と零くんだったり、将棋盤をはさんだ相手と零くんだったり、そういう関係性を自分なりに咀嚼して、考えた結果がこういう歌になりました」
─人との関わりって、米津玄師にとって、ずっと歌い続けている永遠のテーマじゃないですか。しかも、どちらかというとこれまでは、葛藤を描くものが多かったですよね。でもこれは、幸せな曲ですよね。
「そうですね。いい曲ですね」
─いい曲です(笑)。
「それは、川本家のあたたかさとか、あとは、将棋盤をはさんで自分と相手がいて、ふたりで高みを目指していく、そういう関係性とか。そこにはある種の恋愛感情にも似たものがあるのかな? とか、いろいろ考えた結果だと思います」
─サウンドは、ロックバンド、ヒップホップ、アンビエントの要素を組み合わせたような、フューチャー感のあるミドルテンポのポップチューン。
「最近好きで聴いているアメリカの音楽のような、実験的なことをしようという意識はありました。こういう音像で日本のアニメのテーマ曲をやるのは、ちょっと面白いんじゃないか? と。反応が気になったんですけど、この間初めてテレビで流れて、全然違和感なく受け入れてもらったみたいで。ひと安心という感じがしますね」
─CDジャケットも、すごく素敵です。米津さんが描き下ろした、『3月のライオン』の主人公、桐山零くんのポートレイト。
「彼の持っている儚さだとか、陰を持った感じを表現できたらいいなと思いながら描きました。でも、難しかったです。そもそもイメージが固まっているものに対して、自分が介入していくことは、不安でもありますし。ゼロから自分のなかで構築して描くほうが、楽だなとは思いました」
─原作の羽海野チカさんから、何か言われました?
「すごくほめてもらいました。よかった。それがいちばん気になっていたので。こんなに面白いもの、美しいものを作れる人に対して、自分が何かを持って行って、共感してもらいたいと思ったので。それはすごくうれしかったです」
─と、いう「orion」のあとに、カップリング2曲があるんですが。びっくりしましたよ、3曲とも曲調が違いすぎて。
「そうですね」
─「ララバイさよなら」は、非常にダークで皮肉っぽい、ギザギザしたギターロック。
「確かに、『orion』の次にこの曲が来たら面白いだろうな、という天邪鬼な感覚は、僕のなかにありました。こっちが本音だと思われたくはないですけど、何というか、人を愛する気持ちと、人を憎んでしまう気持ちは、一人のなかに片方しか存在してはいけないということはないですよね。事実はもっと混濁していて、たまたまどっちが表に出てくるか。そういう点で、自分が愛している人たちに対しても、こういう気持ちになることはあるし。とにかく、美しければ何でもいいんですよ。それがたまたま、自分のなかの美的感覚がこういう形で出ただけであって。という曲ですかね」
─パンクな美しさを感じました。3ピースのフィジカルなバンドサウンドが、すごくかっこいい。
「たぶん自分史上、いちばん音数が少ないんじゃないですか。一聴すると、手抜きかよという感じに聴こえるかもしれないですけど。この曲をちゃんと表現するためには、これしかなくて。これじゃないと駄目なんです」
─もう1曲「翡翠の狼」は、不思議なビートですね。ラテンのような、アフリカンのような、陽気だけど、どこかせつないような。
「自分としては、大陸っぽいアレンジを意識しました。これは1年前ぐらいからあった曲で、1番の歌詞だけがついてたんですね。それを今回のカップリングに当てはまる曲として、2番以降を書き足していったんですけど、1年前に思っていたニュアンスとはどんどん変わっていって。1番と2番では、全然違うことを歌ってるんですね」
─確かに。1番では“誰かの力借りりゃ楽なのに”で、2番では“戦え誰にも知られぬまま”。そこだけでも、かなり違う。
「結局これは、自分のことを歌っているんですけど。1番は1年前の自分、もっと言えば昔の自分で、2番からは今の自分という感覚があるんですね。奇しくも、自分のヒストリーを振り返るような曲になったと思います」
─3曲通して、歌詞もサウンドもますます幅広く、新しいものに進化しているのを感じます。
「昔に比べたら、いろいろできるようにはなりました。でも、わからないことは尽きないですね。知れば知るほど、わからないことがどんどん増えていく。だからこそ、面白いなとも思うんですけど。やれることはまだまだあるなという感じはします」
(取材・文:宮本英夫)
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