【インタビュー】写真家・佐藤健寿「『X-ファイル』はクリス・カーターがすごい。彼がモルダーとも言えるし、僕の中にもその要素はある」

写真家・佐藤健寿

写真家・佐藤健寿

7月18日にDVD/ブルーレイBOXがリリースされた『X-ファイル2018』。自他共に認める『X-ファイル』ファンの写真家・佐藤健寿さんに、最新シーズンやこれまでのお気に入りエピソード、『X-ファイル』のココがすごい!についてお話をうかがった。

佐藤健寿プロフィール

さとう・けんじ 写真家・著述家。武蔵野美術大学卒業後、渡米。世界各地の“奇妙なもの”を対象に、博物学的・美学的視点から撮影・取材・執筆。著作に世界80カ国以上を撮影し、写真集としては異例のベストセラーとなった『奇界遺産』 『奇界遺産2』(エクスナレッジ)や『世界不思議地図』 『THE ISLAND―軍艦島』 『SATELLITE』(朝日新聞出版)、『世界の廃墟』(飛鳥新社)など。テレビ番組「クレイジージャーニー」(TBS系)の出演も話題に。自身のウェブサイトはhttp://kikai.org/

―『X-ファイル2018』で特に気に入ったエピソードはありましたか?

第4話の『失われた記憶』。これがすごく好きでしたね。『X-ファイル』ってシーズンの第1話と最終話で、シリーズを通して続いている大きなストーリーが描かれるんです。そういう重要なエピソードは製作総指揮のクリス・カーターが自分で作・演出するんですけど、それ以外は他の監督に任せたりして、それぞれが1話完結なんですね。

(C)2018 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

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―『X-ファイル2016』と今回の『X-ファイル2018』では、第1話と最終話がそれぞれ「闘争」というタイトルでしたね。

そうですね。僕は『X-ファイル』の神髄は「闘争」とかの大きなエピソードより、実はいろいろな監督が撮っている1話完結のエピソードの面白さなんじゃないかと思っているんです。第4話「失われた記憶」を観ても、過去作で遊んじゃっている感じがありますよね。ある意味、同窓会的な面もあるんだけど、単なるノスタルジーにならないのは、そこに気負いがなくて、モルダーもスカリーも制作陣も自分たちの過去作で遊べる余裕があるからかなと。こういうユーモアやいい意味での軽さが『X-ファイル』のいちばんいいところだなと思います。ずっと『闘争』みたいなエピソードだったら、これだけ長くシリーズを続けるのがしんどかったと思いますね。

―『X-ファイル』は1993年にアメリカで放送が開始され、今回のシーズン11に至るまで25年間も続いています。

超常現象だとかオカルト的なテーマを扱った作品として見た時に、製作総指揮のクリス・カーターが、やっぱりすごいんですね。彼は『X-ファイル』シリーズの心臓というか、ほぼモルダー自身といってもいいと思うんです。こういう(オカルト的な)界隈の本当にオタクなんだなと思います。

―例えば、これまでの『X-ファイル』で、“本当にオタク”なところを感じたエピソードは?

記憶に新しいところでは『X-ファイル2016』の第4話「バンドエイド・ノーズ・マン」。壁にグラフィティ・アートを描いている男の話があったじゃないですか。あのエピソードはチベット仏教にホムンクルス(中世の錬金術士パラケルススが造ろうとした人造人間)、そしてグラフィティ・アート……ホラーやオカルト系を書いている脚本家でも結びつけられないような一見めちゃくちゃな要素が見事に融合しているんです。このエピソードは脚本と監督はグレン・モーガンなんですけど、クリス・カーターは「このネタとこのネタを合わせられる」みたいな感じでエピソードの原型を考えているんじゃないかと思うんですよ。

『X-ファイル2016』(C)2016 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

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―今回の『X-ファイル2018』にも、そういうエピソードはありましたか?

ありましたね。第8話の『親しき者』は一見すると古典的な魔女狩り伝説をベースにした話なんですが、そこに最近の不気味なネット動画の逸話が盛り込まれている。こういう動画はエルザゲイト(Elsagate)とかいって欧米で社会問題にもなっているんですが、誰が何の目的で作っているかもわからない子供向けの不気味な映像がネットにたくさんあるんですよ。それが悪魔召喚の儀式と結びつくとか、やっぱり、普通なら思いつかない組み合わせなんです。そのチョイスと組み合わせを見ると、物語を作るためにネタを探したというより、日頃からめちゃくちゃ、こういう界隈の情報をチェックしているのが伝わってくるんです(笑)。

―それは例えば、どんなところで?

他のエピソードでいえば、例えば第3話「分身」で、スカリーが「幽霊というのは、左側の頭頂接合部に刺激を受けると、人は幽霊のような人影を感じる」と言っていて、脳機能学的に幽霊を否定するのですが、実は1年程前にそういうニュースがあったんですよ。

(C)2018 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

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―このシリーズは、ふわっとモルダーやスカリーに言わせることが、面白いですよね。いろいろなふわっとがありますけど。

そうなんですよね。(スカリー役の)ジリー・アンダーソンなんて、たまに笑いをこらえているんじゃないかっていう時、ありますよね。第4話のラストも、叫ぶモルダーを見ながら、スカリーが笑いをこらえている感じがする(笑)。あの余裕というか、遊んじゃっている感じがいいんですよね。

―ユーモアがずっと根底にありますよね。すごいことが起きているんだけど、モルダーとスカリーの受け止め方が毎回、サクッとしています。

そうそう(笑)。すごいですよね、本当に。X-ファイルってコメディとまでは言わないけど……。

―エピソードによっては、コワイ話だと思って観ていると、これ笑って見ていいやつだと気づく時があります(笑)。

それって大事なことというか。『トワイライト・ゾーン』もそういうところがあるじゃないですか。こういう話って常にスレスレなんですよね。コワイと思うか、思わず笑っちゃうか。やっぱり笑いと恐怖って紙一重のところがあるんだと思います。それを本能的にクリス・カーターは察知しているんでしょうね。『X-ファイル2016』の第3話で“トカゲ男”のエピソードがあるんですけど、これなんて、まさに笑いと恐怖がスレスレで。すごく遊んでいるんですよ。

『X-ファイル2016』(C)2016 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

『X-ファイル2016』(C)2016 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

―『X-ファイル2016』の第3話「トカゲ男の憂鬱」ですね。

そうです。オオカミ男の変奏というか、そういう古典的な変身奇譚を主題にしながら、オオカミ男は科学的に検証すると何だったのかという可能性も感じさせるエピソードで。科学的な検証や心理学的な考察をスカリーに言わせながら、最後は怪物とは何なんだというところまで考えさせられるんです。おそらくモンスターというのは人間の側なんじゃないかというところまで描いていると思うんですよ。それを笑いと恐怖のスレスレのところで描いてしまう。先ほどの2018の第4話「失われた記憶」もそうですけど、こういうけっこうフザけたエピソードが続いた後で、第5話「グーリー」や第10話「闘争Part4」になって、モルダーとスカリーの息子の話になったりするじゃないですか。今度はシリアスなところで見せられるというか。そういう振り幅もさすがだと思います。

クリス・カーターがわかっている安心感

―UFOのご本も出されている佐藤さんですが、『X-ファイル』にはUFOのエピソードが多いですね。

UFOやこういったオカルト界隈のSFマニアは本当にうるさいんです。例えば、ロズウェル事件の描き方がおかしかったりすると、マニアはすぐにわかる。「にわか勉強で作るな」みたいな感覚は、こういう界隈は色濃いんですよ。でも、『X-ファイル』に関しては、そういう批判を聞いたことがないし、皆から愛されているんですよね。それはなぜかというと、クリス・カーターがガチ・オタクだから。そこに尽きると思います(笑)。

『X-ファイル2016』(C)2016 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

『X-ファイル2016』(C)2016 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

―たくさんのUFOのエピソードに思うところはありますか?

毎回、周到だなと思いますね。でも、周到でありながら、いろいろなものに配慮して、ビクビクして作っている感じもなくて、むしろ、すごく大胆だったりして。『X-ファイル2016』の第1話「闘争Part1」もいきなり墜落シーンから始まるじゃないですか。しかも、宇宙人が抱き抱えられて出てくる。すごいな、まったく萎縮していないなと思いました(笑)。だけど一方で、クリス・カーターはちゃんとわかっているんですよ。このエピソードは、モルダーの独白から始まるんですけど、そこで「かつての時代とは違い、いまやUFOは嘲笑の的である」と言わせているんです。それはまさに今の時代感覚だと思うんですね。2000年以前は超常現象がまだブームでUFOが信じられていた時代。テレビでUFOの番組をやっても視聴率がよかった。だけど、ネットが普及して以降、UFOも作り物がすごく増えたじゃないですか。UFOや宇宙人が来るということに別にリアリティもないし、時代が変わっちゃったんですよね。そういう状況の中で『X-ファイル』を作るというのは難しいことだろうなと僕も正直、2016を観る前は思っていたんです。でも、観たら、「いまやUFOは嘲笑の的である」ってちゃんと釘を打ってスタートして、その直後に、いきなり墜落シーンですからね。がっつり持っていかれました。

―クリス・カーターさん、スゴイですね。

本当にマニアですよね。『X-ファイル2016』が出た時にクリア・ファイルをもらったんですけど、そこに“I want to believe.”じゃなくて“I still want to believe.”って書いてあったんですよ。「私はまだ信じたい」って。その“still”の重さに気づくのは、マニアだけなんですよね。そう、stillだよねって(笑)。普通に“I want to believe.”って言ったら、ノスタルジーだなと思うんですけど、stillと来たかと。それは本当にUFOに対する今の時代感覚だから。そこをかなぐり捨てて、『インディペンデンス・デイ』的なSF映画を作ることはできると思うんですよ。だけど、『X-ファイル』は飽くまでギリギリの、モルダーという(超常現象などオカルト)信奉者側と、スカリーという理性の人の、ずっと綱渡りじゃないですか。その綱渡りを現代で続けていくとしたら、たしかにそのラインしかないっていう、すごい細いところをきちっと来ているなと思います。

(C)2018 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

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―ネットが普及して以降、状況が変わったということですが、わからないものや不思議なことなど、現実から少しはみ出しているところに『X-ファイル』の面白さがあるのかなと。

何がいちばんはみ出しているって、モルダーがいちばんはみ出しているわけじゃないですか(笑)。モルダーというのは、誰の心にもいる少年だと思うんですよ。UFOに興味があったり、何か不思議なことが起きないかなと思っていたり。スカリーというのは、そういう男にとっての、こういう人がいたらいいなという究極の存在なんだと思うんです。

―ああ、モルダーを止めてくれるってことですか?

止めてくれるけど、ある意味では、スカリーが甘やかすから、モルダーが暴走するじゃないですか(笑)。スカリーが甘やかさなければ、モルダーはとっくに止めているはずなのに。スカリーが溜め息つきながら、モルダーを励ましちゃうから、モルダーがいつまで経っても止められないみたいな。オタクは、こういう彼女がいちばん欲しいと思います(笑)。賢くて、理性的な意見をぶつけてくれて、モルダーの暴走にもつきあってくれる(笑)。

―スカリーが、そういうキャラだったとは。演じるジリー・アンダーソンは昔も今も魅力的です。

最近のシリーズも結構、振り切ったことをやっていますよね。先ほどのトカゲ男の回では、フツーにランジェリー姿で登場していたり(笑)。本人も自分がセクシーだと言われることをネタにしているところがあるし。今回の2018の第3話「分身」でも、年をとってオバサンだと言われて、へこんでいるシーンがありましたよね。女優さんとしては決して気持ちよくないと思うんだけど、あれをできる余裕(笑)。X-ファイルが長いスパンで続いていて、若い頃から彼女を観ているからできるエピソードでもありますよね。第4話「失われた記憶」では、モルダーが散々なことを言われていましたし(笑)。

(C)2018 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

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―佐藤さんもこうした不思議な現象について書いたり追ったりされていますが、そんな佐藤さんのご興味と『X-ファイル』の重なるところは?

僕は事件解決は目指していないですけど(笑)、モルダー的感覚は常にあるんです。とりあえず、現場に行ってみたいという。少し前にもアメリカのスピリチュアリストの村に行ったり、ロズウェルにも行ったりして。村に行くといきなり「あなたの背後霊はこんな人です」って言われたんです。結構心当たりがあったんだけど、結局のところ、わからないんですよね。本当に見えているのかもしれないし、単に直感力の優れた人なんだろうなという気もするし。例えば、「あなたは本当に疲れているから、休んだ方がいい、ご先祖様が心配している」とか言われたりするんだけど、それって誰が言われても、ある程度、当てはまるじゃないですか(笑)。

―そうですね(笑)

そういう時、いつも頭の中にモルダーとスカリーがいるんです。自分の中のモルダーは「彼女は見事に俺のことを言い当てた」みたいな気持ちがあって、例えば、「オーラという理論があるんだ」とか「疲れている人間のオーラは、この色になるようだから、きっと彼女にはそれが見えているんだ」とか言う(笑)。そういうモルダーに対して、自分の中のスカリーが「そんなことはない。いろいろな人を見ているから、直感力が優れているだけよ。誰でも疲れているって言われたら、当てはまるわよ」と(笑)。誰しも頭の中にいると思うんですよね、モルダーとスカリーが。僕みたいなのもそうだし、クリス・カーターもそうだけど、こういうのが好きな人は両論観ちゃうんですよ。

(C)2018 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

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―両論ですか?

例えば、ロズウェル事件に対しても、信奉者側の話と批判論者側の話を両方見ちゃうんです。普通はどちらかしか観ないんですよ。テレビでやる場合も、信奉者側の意見だけを出して、あれは本当だったんだろうかで終わってしまうことが多い。一方でUFOは気球の見間違えだと理性的な意見だけを信じる人もいるし。でも、クリス・カーターはその両方を観るんです。で、どっちも話に入れたくなるんですよね。最終的には、それでもやっぱりわからない、まだ真実はわかっていないという結末に辿り着くんですけど、それはクリス・カーター本人の感想でもあると思うんです。

―だから、エピソードに説得力があるんですね。

そこは僕も同じ感覚で、こういう変なことを言っている人たちをナンセンスといって切り捨てる気持ちはゼロだし、同時に理性的な説明になるほどねって思うこともあるけど、そっち側が100%正しいとも思わないんですね。だから、解決したいというよりは、真実を知りたいんですよね。その感覚でずっと何十年もシリーズを作ってきたクリス・カーターは、本当にすごいなと思います。本当に好きな人が作っているという、その信頼感。このテーマに関しては、この前、こういうニュースがあったというのをエピソードの中でスカリーにさりげなく言わせていたりする。「私たちはわかっているよ」というポーズですよね。わかったうえで、話を作っていますっていう。そのちょっとした一言があるだけで、観ている側のマニア的安心感が全然違うんです(笑)。

(C)2018 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

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―安心感(笑)

一方でマニアでなくても、エンターテイメントとして楽しめるじゃないですか。『X-ファイル2018』の終わり方もよかったですね。正直、2016の終わりは「引っ張ったな」という感じがしないでもなかったですが、今回は大きく物語が進んだ感じもするし、次につながりそうな感じがして、第10話はあっという間でした。『X-ファイル』って海外TVドラマの走りみたいな作品じゃないですか。僕も最初に観たのは中学生の時。それが今に至るまで続いていて、普通はマンネリ化すると思うのですが、そうならないのは本当にクリス・カーターのすごさだと思います。

(取材・文:多賀谷浩子)


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