【インタビュー】町山智浩氏が語る海外TVドラマ『ジ・アメリカンズ 極秘潜入スパイ』の面白さとは、「スパイの本質をちゃんと描いているところ」

映画評論家の町山智浩氏

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次から次へと新作ドラマがリリースされるなかで、誰もが「こういうドラマが見たかった!」と思える面白いドラマを探している。その面白いドラマのひとつが『ジ・アメリカンズ 極秘潜入スパイ』。物語の舞台は米ソ冷戦時代。ワシントン郊外でアメリカ人夫婦のふりをして潜伏する2人のソ連KGB要員、FBIも存在を知らないS級スパイの任務を描くサスペンス・アクションだ。先日の第70回エミー賞で主演男優賞・脚本賞を受賞したこの『ジ・アメリカンズ 極秘潜入スパイ』の面白さを町山智浩さんに聞いた。

─スパイ、潜入捜査、騙し合い……これまでにも描かれてきた題材ですが、この『ジ・アメリカンズ』の面白さはどこにあるのでしょうか。

これは非合法工作員の話で本当のスパイの仕事に近いです。元スパイだった人たちの書籍はたくさん出ていて、映画にもなった『フェア・ゲーム』(’10)もそのひとつ。イラク戦争でイラクは核兵器は持っていなかったと暴露してブッシュ政権に殺されそうになった元CIA秘密工作員が書いたその本は、かなり詳しくスパイの仕事について書かれています。スパイの仕事って、基本的には政府の高官や企業の関係者に近づいて一緒に食事をすること(情報を引き出すこと)、知り合うことなんですね。なので、知り合った後に「私はCIAです、KGBです」と明かすと、相手はCIAやKGBと接触したことになる。言い訳をしてももう繫がってしまっているので、だから情報をくださいと追い込む。相手がお金に困っていることなどはすでに調査済で、情報源となる人物を絡め取って行く。そういうものすごく地味なスパイの仕事を『ジ・アメリカンズ』はしっかりと描いている。それが面白いんです。

TM and (C) 2017 Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved. (C) Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

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─ものすごいリアリティですね。主人公のエリザベスとフィリップはKGBとして任務のために偽装夫婦として何十年も暮らしていますが、それも実話ですか?

実際にFBIの職員と性的関係を持つことで情報を得ていたKGBの人物がいて、その人たちは夫婦だった。夫婦という形で潜入していた人たちは10人前後とごくわずかですが、彼らがヒントになっていると思います。その実話とこのドラマの異なる点は──実話では、妻が情報を得るためにFBIの職員と関係を持ったことで夫が怒って夫婦喧嘩になっていますが、このドラマではエリザベスもフィリップもどっちもですからね。

─たしかにハニートラップだらけですよね。特にケリー・ラッセルの演じるエリザベスの祖国愛、任務だからという割り切り方がすごいです。

そうなんです。ケリー・ラッセルはもともとディズニーの『ミッキーマウス・クラブ』の出身。ブリトニー・スピアーズ、クリスティーナ・アギレラ、ライアン・ゴズリング、ジャスティン・ティンバーレイクなどを輩出している番組ですね。ケリーが女優として注目を浴びたのは、ドラマ『フェリシティの青春』(1998〜2002)で、その時はものすごく爽やかな女子大生を演じていた。ちょうど僕自身がアメリカに住み始めたときにそのドラマが放送されていて、なんだか日本のドラマみたいだなあと思って見ていたんです。爽やかな印象が強く残っていたので、『ジ・アメリカンズ』を見たときはびっくりしました。だって脱ぎまくっていますし、エリザベスは裸で人を殺すような凄腕スパイですから。

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─任務のためならどんなことでも厭わないですからね。現在は『ジ・アメリカンズ』で共演している夫フィリップ役のマシュー・リースと交際していて、子供も産まれましたよね

ドラマが始まったときの2人は全然そういう関係ではなくて、共演がきっかけで交際。面白いなあと思うのは、俳優として仕事としてこのドラマではこの人が夫役ですよと言われて私生活でも愛し合うようになり、ドラマのなかでも任務で初めて出会って夫婦を演じるんだと言われて、その任務のなかで次第に愛し合うようになっていく。私生活も役柄も同じ流れなんですよね。でも、実はこのドラマが始まる前に2人は会っているらしくて、ドラマで再会したときにマシューがケリーに「10年前に会ったよね?」と言ったらしいんですが、ケリーはぜんぜん覚えていなかった。マシューは10年前にケリーに一目惚れして、何度も連絡をして留守電を残していたそうです。でも、ケリーがそれに応えることはなかった、まったく眼中になかった。そういう意味でもドラマの設定と同じです。

─ドラマでもフィリップの方がエリザベスに愛を注いでいる、ほんとに同じですね。

そう考えると、スパイという設定を除くと、ケリーとマシューのラブストーリーでもある。というのも、マシューはシナリオ作りにかなり参加していますし、途中から監督もしている。夫がこんなにも愛を注いでいるのに、その愛にまったく応えてくれない妻──2人のプライベートも盛り込まれている気がします。エリザベスとフィリップの夫婦喧嘩のシーンもけっこう描かれていますが、そういうシーンは、実は演技を越えたリアルな喧嘩だったりしたら面白いですよね。

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──スパイのリアリティと夫婦のリアリティ、そういう裏話を知っているとドラマがより面白くなりますね。

そうなんです。ドラマのなかでフィリップは仕事で何人もの女性と関係を持たなくてはならなくて、それをいちいちエリザベスに確かめる。彼としては彼女に「本当は嫌だけど、仕事だもの仕方ないわ……」とか何とか言ってほしいんじゃないかなと思うんですが、エリザベスはかなりドライで。嫉妬してもらえないフィリップは可哀想で笑えてきますよ。

──そんなリアルな夫婦のやりとりはもちろん、FBIとKGBの描かれ方も面白いと思いました。これまでのアメリカ映画やドラマではFBIの優秀さが描かれるものが多かったのに対して、『ジ・アメリカンズ』は、それが覆ってしまうほどKGBスパイの優秀さが描かれていますよね。

そう見えてしまうのは、FBI捜査官が女性と関係を持ちたくて情報を流していた、という事件にヒントを得ていることもあります。ほかにもいろいろな事実が盛り込まれていて──たとえば、ステルス戦闘機のステルス技術を発明したのはロシア人でしたが、ソ連が真面目に研究しなかったのでアメリカに取られて、悔しくて取り返しに行ったこととか。KGB要員で連大使館の科学技術担当のオレグ(・イゴレヴィッチ・ブロフ)というキャラクターが途中から出てきますが、彼はKGBのなかで反攻していくキャラクターです。そのきっかけとなる事件は、ソ連政府がアメリカに対して全面核攻撃の指令を出したことです。「そんなバカなことがあるはずない」と言って命令拒否した将校は処分されましたが、彼が正しかった。雲に太陽の光が反射したのを敵のミサイルだと思いこんでの攻撃命令だったんです。その事件もドラマで描かれます。そういったエピソードを経てゴルバチョフ時代のソ連解体に繫がっていきます。僕らはソ連崩壊という歴史を知っているので、このドラマの結末を知っていることになりますが、もちろん主人公たちはそれを知らない。ソ連崩壊まで主人公たちは生き延びることができるのか、タイミリミットとの戦いでもある、それも面白さですね。

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──こうしてお話を聞いていると、ある程度史実を知っていた方がこのドラマは楽しめそうな気がします。シーズン6まで続くこの『ジ・アメリカンズ』をより楽しく見るコツ、知っていた方がいいコトがありましたら教えてください。

たしかに、意味を知らないと何を言っているのか分からない……ということはあるかもしれませんね。なので、セルDVDコレクターズBOXには、政治背景が分かる解説書(町山さんの解説!)が封入されています。たとえば、スターウォーズ計画はレーガン大統領によって提唱された戦略防衛構想で、レーザー光線を搭載した人工衛星でソ連のICBM(大陸間弾道ミサイル)を打ち落とすというバカバカしい計画ですが、中身を知らないと(映画の『スター・ウォーズ』?と)意味が分からないですよね。それからそもそもの話ですが、ソ連は崩壊することをはじめ80年代の米ソの冷戦、レーガン政権、アフガン戦争、中米ニカラグアへの米ソの軍事介入(コントラ戦争)……その辺りは知っていた方がドラマはより面白くなります。

(取材・文/新谷里映)


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